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暴走する恋愛探偵に巻き込まれたチンピラの優雅な学園生活  作者: ツネ吉
第一章ゴリラキープアシークレット
13/62

12

 柔道場襲撃事件から一夜明け放課後。部室には俺に桐花、そして協力を申し出てくれてた石田が集まっていた。


 本来であれば今日は部活の禁止が学園から言い渡されている。間違いなく昨日の柔道部が荒らされたことが原因だろう。


 九条はその関係で生徒会で緊急の会議があるらしく今日はいない。1番ショックを受けているのは彼女のはずだが、こんな時でも律儀に仕事をこなすあたり、九条の真面目な人間性がうかがえる。


「結局柔道場はどうなったんだ?」


 昨日の放課後には修繕の業者が入っていた。中の荒れようを見る限りとんでもない大仕事になりそうだが、今日には業者が引き上げていた。まさか一晩で全部終わらせたのだろうか?


「自分たち部員も駆り出されて、大掃除だったっす。筋トレ器具を運び出して廃棄したり、畳も全部取り替えだったっす」

「それでも大体は終わったみたいですよ。畳も張り替えられたみたいですし、汚された壁は塗り直されて綺麗になっていました。……まあ、中の設備の搬入には時間がかかるそうですが」

「おいおい、本当にこんな短時間で終わらせたのか? 昨日の今日だぞ?」

「学園側が騒ぎを大きくしたくないんでしょうね、あれから本当に警察に届けた様子もありませんし。柔道場の修繕を短時間で終わらせることで、被害は大したことがないとアピールしたいのでしょう」


 なるほどね、山下教諭の懇願が聞き入れられたってわけか。


 そのことを指摘すると、恐る恐ると言った感じで石田が自分の意見を口にした。


「……正直に言って、山下先生があんな、部員の事を思うようなこと言うのは意外だったっす」

「えっ、どうしてですか?」


 石田の、下手すれば悪口とも取れる言葉に驚く。


「そんな部活に熱心な顧問じゃなかったっす。練習を見てくれる事もたまにしかなくて……もちろん、先生にしかできない仕事は全部やってくれましたが、基本は放任だったっす」

「でも、柔道部は全国常連の名門ですよね? なんでそんな先生が顧問なんですか?」

「そりゃ山下が元オリンピックの強化指定選手だからだよ」


 まさか俺の口から山下教諭の情報が出てくるとは思わなかったのだろう、2人が意外そうな顔を向けてきた。


「えーと、強化指定選手とは?」

「簡単に言えば、もうあと一歩でオリンピック代表になれた選手のことだ。その実績を買われて、定年退職で顧問がいなくなったこの学園の柔道部に雇われたんだよ。2年ぐらい前だっけな」

「詳しいっすね?」

「山下はタケルが昔通ってた柔道教室のOBなんだよ。だからタケルにとっちゃ憧れの先輩だ。この学園に進学を決めたのも8割ぐらいそのせいだろうな」


 一時期のあいつは、口を開けば山下先生が山下先生がばっかだったからな。いやでも詳しくなるさ。


「意外と人望があったんですかね?」

「さあな、俺はタケルを通してでしか山下教諭の人となりを知らないからな。……ただまあ、昨日の様子を見るとな」


 そう、あの山下教諭は生徒が大勢いる中で教頭に頭を下げたのだ。部員の事を思っていなければできない行動ではないだろうか。


「山下先生の人となりまではわかりませんが、学園側の利害と一致はしてたみたいですね。生徒が柔道場荒らしだなんて、隠しておきたいでしょうから」

「学園は生徒の仕業って考えているのか?」

「……不審な人物の出入りは確認できなかったそうです。状況的にそう考えるのが自然かと」

「なら、タケルを脅迫したヤツも学園内の人間って考えたいところだが……お前の考えだと、柔道部を荒らした連中とタケルを脅迫した奴は別なんだろ?」


 そう、桐花の推理によれば柔道場をめちゃくちゃにした連中は九条に好意を抱いてない、つまりタケルを脅迫する理由がない、とのことだ。……もっとも、その証拠が九条の体操服をお持ち帰りしなかった、なんて怪しいものでしかないが。


「今回の事件と、タケルは全く無関係なのか?」

「タイミングを考えればそれはないかと思いますが……」


 桐花の態度は煮えきらない。本当にただの偶然の可能性もある、そのことは桐花も考えているのだろう。


「じゃあ剛力くんを脅迫した犯人が、柔道場を別の誰かに襲わせたってことっすか?」

「1番可能性のある考え方はそうなりますね」

「襲わせた。って、誰が柔道場を襲ってくれなんて頼まれて快く承諾すんだよ。下手すりゃ警察沙汰だったんだぞ?」

「お金で頼まれた……いえ、剛力さんと同じように脅迫されたと考えるのが妥当かと」


 脅迫、またか。桐花の考えが正しいのなら、一切自らの手を汚さない犯人は相当狡猾なヤツだ。


「チクショウが、いったい誰が。」


 思わず舌打ちを鳴らしてしまう。卑劣な犯人に対する怒り、何もできず足踏みしたままの自分に対する苛立ちが態度に出てしまう。


 そんな俺と、なぜか石田に遠慮がちな視線をむけ、桐花は決心したように口を開いた。


「……私の推理では、犯人は柔道部の誰かだと思います。」

「なっ!」

「そ、そんな……」


 桐花の衝撃発言に俺と石田は唖然とする。いや、石田に至ってはあまりのショックに酸欠の魚みたいになっている。


「なんでそう思う?」


 そんな石田を見て、思ったよりも冷静に問いかける事ができた。石田がいなかったらもっと取り乱していただろう。


「簡単な話です。柔道部以外に、お二人が付き合っていることを知っている人間がこの学園にいないからですよ。剛力さんが交際の事実を話したがらなかったそうで、九条さんも徹底的に隠していたようです」

「隠していたって、そんなもん柔道部の誰かが喋ったかもしれないだろ?」

「いやー皆さん意外と口が固いみたいで、この私がお二人の関係に気づいたのもつい最近なんですよ?」


 それは、まあ……妙な説得力があるな。絶えず学園の男女関係に網を張っているこの女に気取られないとは、ずいぶん上手く隠し通してたらしいな。


 するとそこで、うまく言葉を作れず口をパクパクとしていた石田が、顔を真っ赤にして爆発した。


「そ、そんな。うちの部員が犯人だなんて……絶対にあり得ないっす!!!!!」


 今まで以上の大声に俺も桐花も、思わず耳を塞いでしまうが、そんなもの目に入らんとばかりに石田はヒートアップしていった。


「確かに! あんなに可愛い九条さんに、お世話してもらっている様子を見て羨ましがったり、妬んだりしていた部員はいたっす!! ……かく言う自分も九条さんに憧れていた1人っす。でも!どこまでも仲睦まじいお二人を見て、ああこのお二人はお似合いなんだって、この2人が仲良くしているところを見るで幸せな気持ちになれたって、柔道部のみんなはわかってたはずっす!! だから絶対にあり得ないっす!!」


 痛いほどの叫び、石田の柔道部に対する思いと、タケルと九条への憧憬がこれでもかと伝わってくる。


 桐花も申し訳なさそうに目を伏せた。


「ごめんなさい。何も証拠がないのに言いすぎました」

「……今日はもう解散しよう。これ以上ここにいて教師に見つかるのはまずい」





 結局今日も収穫なしで終わった。そう思っていたがどうやら俺たちは思った以上に事件の中心にいたらしい。


 部室を出てすぐに、顔を隠した不審な人物に囲まれたのだ。

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