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暴走する恋愛探偵に巻き込まれたチンピラの優雅な学園生活  作者: ツネ吉
第一章ゴリラキープアシークレット
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11

 やっと見つけた手がかり。タケルのもとに送られた嫉妬まじりの脅迫状。


 あいつが九条を避け、拒絶する理由はわかった。すべては自分の恋人を守るため、あえて恋人を傷つけ・・・それ以上に自分を傷つけ。


 俺たちのやるべきことをは決まった。こんなふざけた手紙を送り柔道場を襲ったヤロウ、犯人を見つけ出すこと。


 しかしどうやってその犯人を見つければいいのか、桐花の話によれば容疑者は50人以上。


 犯人につながる手がかりを探るために、俺たちはその日の昼休みに荒らされた柔道場に集まっていた。放課後には業者が入って修繕されるため、今このタイミングしかない。


「早く、誰かに見つかる前に早く入るっす」


 石田に急かされ俺たち3人は、立ち入りを禁止するために張り巡らされたカラーコーンを乗り越え柔道場に侵入する。


「……これって不法侵入だよな?」

「真相究明のためです。仕方のないことなのです」


 そう言いながらも入り口に見張りとして石田を置くあたり、抜け目のない女だ。


「っと、中は一段と荒されてんな」


 もともと玄関にはゴミ袋が放置され、靴箱も一部が壊れてる状態であったが、今はそのゴミ袋の中身が散乱し、靴箱も完全に破壊されている。


 流石にこんなところを裸足で入るわけにはいかないので、土足のまま道場内に入る。


「ッ! こんな……」


 道場内は九条が言葉を失うほどひどい状況だった。


 床も壁もスプレー缶で汚され、使い終わった缶が道場内に散乱している。道場に掲げらていた何やら達筆な文字で書かれていた道場旗がビリビリに切り裂かれて痛々しい。


 その上どうやったのか、畳も何枚か剥がされひっくり返されている。


「なんと言うか……徹底してるな」


 それ以上の言葉が見つからない。道場内は無事なところを探す方が難しいほど荒らされ、破壊されている。


「……ええ、徹底されすぎです」


 道場内の惨事を冷静に観察していた桐花は静かに口を開いた。


「どういう事?」

「私も昼休みまで何もしてなかったわけではありません。その間に情報を集めていました」


 しゃがみこんで乾いたスプレー跡に手を当てながら桐花は答えた。


「私が集めた情報によれば、この柔道場に最後まで残っていたのは柔道部の部長さん。最終下校時刻の午後8時まで自主練習をしていたそうです。そして荒らされた柔道場を発見したのが巡回中の警備員さん、それが大体8時半すぎぐらいです」

「ってことは、30分でここまで荒らしたってことか?」


 そう言って柔道場を見渡す。


 いまでは見る影もないが、元はかなり広くて立派な道場だった。……九条が1週間いなかったせいでその時点で結構荒れていたが。


 しかし今回の荒れようはそんなもんじゃない。明確な悪意と破壊の意思でとことん蹂躙されている。


 これがたった30分で行われたものだって?


 だが俺の疑問に、桐花は顔をしかめながら驚くべき考えを口にした。


「……ひょっとしたら1人じゃなかったのかもしれません。」

「は?」

「1人ではなく、複数人での犯行の可能性があります」

「おまえ!? それって……」


 タケルを脅迫して、柔道場をこんなグチャグチャにするようなイカれた犯人が何人もいると言うのか。


「まだ確証はありません。もう少し調べてみましょう」



 柔道場内は広い。稽古場だけでなく備品室に更衣室、教員用の事務室にトレーニングルームなんてのもある。


 そしてそのすべてがメチャクチャに荒らされていた。


 トーレーニングルームは重そうな器具が横薙ぎに倒され、その重さで器具が歪みもう使えそうにない。

 

 事務室はファイルにまとめてあった何かしらの資料、指導用の教本なんかが破り捨てられている。


 更衣室は部員のロッカーの中身が床にぶちまけられその上からスプレーで汚す徹底ぶりだ。


「だめだ、気分が悪くなってきた」


 塗料で真っ赤になった誰かの柔道着を摘まみ上げる。……こりゃ洗っても落ちねえわ。


 犯人はどんな思いでこんなことをしたのだろう。九条への好意とタケルへの嫉妬心。そういったものがグチャグチャに混ざり合ってできた惨状に気が滅入ってしまう


「桐花、お前が言った通り何人いないとここまで荒らすのは無理だな」


 室内で台風が通り過ぎたかのような荒らされっぷりだ。これを1人でやるのは無理があるだろう。


「そ、そんな! そんなことって……」


 九条の顔は真っ青だ。無理もない、こんな狂ってるとしか思えないような事をするヤツ複数人に好かれているなんて、恐怖でしかないだろう。


「正直私も驚いています。九条さんの人気がここまでとは。羨ましいなんてとても思えませんが……ん?」


 備品室を調べていた桐花の言葉が急に止まる。


「どうした?」


 何か見つけたのか気になり備品室に向かう。


 備品室も他と同じくらいひどい有様だった。ここもまたスプレー缶で塗料が撒き散らかされ、予備の柔道着やバンテージなんかが使い物にならない状態になっている。


 そんな中で、桐花は塗料で汚された何か布のようなものを手にしている。


「それは……体操服か?」


 見覚えのある我が学園の体操服だった。だが異様に小さい。柔道部のごつい連中に着れるサイズではない。


「あ、それ私の」

「まあそうだよな。こんなちっこいの九条のしか考えられない。でもなんでこんなとこに?」

「柔道部のお手伝いは結構汚れちゃうから、この備品室で体操服に着替えてたの。1着無くしたと思ってたんだけど、ここに忘れてたみたい」


 なるほど、それが一緒になって被害をうけたわけか。


「……変です」


 桐花は体操服をまじまじと見つめながらいぶかしげにそう言った。


「何が?」


 別におかしいところなんてない。ただの汚れた体操服だ。


「ここを襲った犯人たちは九条さんに熱烈な好意を寄せているはずですよね?」

「そりゃ……そうだろ。じゃなきゃこんなことしない」

「なら……やっぱりおかしいです」

「だから何が?」

「よく考えてください!! ここに九条さんの体操服があったんですよ!!」



「お持ち帰りする絶好のチャンスなのに、ここに放置してあるなんてっ! 絶対におかしいです!!」



 ……は?


「いや……あの……頭大丈夫か?」

「何言ってるんですか!? そっちこそ大丈夫ですか? 目の前に好きな女の子の体操服があるんですよ!? 手に入れたいと思うのが普通の心理じゃないですか!!」


 本当に何言ってるんだろうかこの女は。


「わ、私の体操服なんか持って帰ってどうするの?」


恐る恐る九条が質問する……この話題に乗る気なのか。


「そりゃもうアレですよ! 匂いを嗅いだり、着てみたり、あんな事やこんな事。ああっ私の口からはこれ以上言えません」

「あんな事や、こんな事!!!」


 テンションが上がった桐花、軽く悲鳴をあげる九条。……なんだこの光景。


「落ち着けって、なあ。理性のある人間ならそんなことしねえって」

「理性?柔道場をこんな滅茶苦茶にした人間に理性?」

「いや、まあそりゃ……まあ」


 アレ? 俺がおかしいのか?


「……吉岡さん。あなたならどうしますか? 目の前に好きな女の子の体操服があり、それを手に入れる絶好の機会があった時、お持ち帰りして匂いを嗅いだりしませんか?」

「ばっ、馬鹿野郎!! なに神妙な顔してぶっ飛んだこと聞いてきやがんだ!!」

「真面目な質問です!! この疑問の答えが、そのまま事件の核心に繋がるかもしれないんです!!」


 そ、そんなこと言われても!!


「か、嗅ぐの?」

「く、九条まで……」


 ダメだ逃げ場がない。


 俺が理性のぶっ飛んだ人間で、目の前に好きな女の子の体操服がある時だって?


 そんなの、そんなの……!


「持ち帰って……匂いを嗅ぎます……」


 今、俺の中の大事な何かが壊れた音が聞こえた気がした。


「決まりですね……柔道場を襲った犯人は、九条さんに好意を寄せていない」

「そ、そうなんだ。吉岡くんってそうなんだ……」


 なんだろう、死にたい。

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