プロローグ
生徒の自主性と自由な校風をうたう、我らが私立晴嵐学園には個性的な生徒が多いことで有名だ。
それは今年入学した新入生も例外ではなく、むしろ例年以上に個性豊かな生徒がそろっているともっぱらの噂となっている。
その一人が俺、吉岡 アツシである。
染めた金髪と生まれ持った無駄に鋭い目つき、それに加えて180センチの長身が威圧感を与えるらしく、大変不本意ながら入学早々不良のレッテルを貼られてしまい、悪い意味で目立つ存在となった。
そんな俺……廊下を歩くだけで不自然に避けられ、クラスメイトはおろか、担任の先生ですら目を合わせてくれない俺は、今……
上級生の男子三人がかりでボコボコにされていた。
「オラァッ!」
気合の入った掛け声と共に顔面を走る衝撃。思わずタタラを踏んでしまうがまだ倒れない。 次に来たのは腹部への一撃。一瞬呼吸ができなくなり、足元がふらつく。
そこへ再度顔面へのストレート。続け様に飛んでくる暴力の嵐に顔面から倒れ込む。
「……ああ、くそったれが。ふざけやがって」
俺は怒りを隠そうとせずに立ち上がる。
「お前ら、ふざけんじゃねえぞ……」
だがその怒りは、俺が今受けている理不尽な暴力に対してではない。なぜなら……
「なんだその腑抜けたパンチは! 全力で殴れって言っただろうがっ!!」
なぜなら、この上級生たちに俺をボコボコにしろと命じたのは、他ではないこの俺自身だからだ。
「頼む……もう勘弁してくれ」
上級生の一人が泣きそうな顔で弱音を吐いてくる。だが、ダメだ。
「いいや、まだ足りない。手加減なんかせずもっとボコれ」
「だってお前……血が」
「あん?」
頬を伝うぬめりとした感触。どうやら倒れ込んだ時に頭を切ったらしい。
「好都合だ。この調子で続けろ」
「だけど……」
「だけどじゃねえ! お前たちに選択肢なんてないんだよ!」
俺の怒声に肩を震わせた三人は、再び拳を振るう。
なんでこんな事になっちまったんだっけな?
殴られ続け、やや朦朧とした意識の中で自問自答する。
まず言っておくが、俺に殴られて喜ぶような趣味はない。どMでもなんでもないし、痛いのなんて嫌いだ。
そんな俺がなんで好き好んで上級生(しかも男だ)に殴られなきゃいかんのだ?
ああそうだ、思い出した。アイツと出会ったからだ。
個性豊かな生徒たちの中で、特に悪目立ちし、いつの間にやら学年一の不良と呼ばれ警戒されるようになった俺。
しかしそんな俺以上に警戒てされている女がいた。
その人物こそが、不良のレッテルを貼られた俺が霞んでしまう程のヤバい存在、絶対に関わってはいけない女、学園一の変人、
桐花 咲
これは、俺が桐花と出会ってしまった時の物語である。