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異常仲間であるトーマと弁の再現について対話を重ねるが、彼は一向に理解できなかった。
ついでにエルク様も理解はしてくれなかった。
ので怒り気味で2人の手を引いて離宮から連れ出す。
「リリア、どこに行くの?」
「ジズのところです。ジズならきっと理解をしてくれます」
「お、魔道具ギルドの要の人物?逢う逢う、絶対話したら楽しそうだし」
「……イェスラ、ジズと……ソルトに先触れを」
『あいよー。カーバンクル、リェスラ、あとフェアリー喧嘩するなよ?』
『しないわよ!』
侯爵家の馬車に押し込んで、トーマの隣に精霊を全部ぶん投げ……リェスラだけは肩に乗せる。そしてエルク様も向かいに押し込んでその隣に乗り込む。
「うちの領地の魔道具ギルドに出してちょうだい」
そう言うと御者はすぐに馬車を出した。
ゴトゴトと揺れる密室に三人と三匹。
トーマは珍しそうにカーバンクルをまじまじ見ていたが、カーバンクルはぷいっとトーマをスルーしている。どうやら彼的にはトーマはアウトらしい。
「んで、本当にいいのか?侯爵家秘蔵の魔道具ギルドを俺に紹介するって、俺魔国の王太子だけど本当にいいのか?」
「だってトーマが理解できないんだもん」
「あんな絵わかるかよ!」
「良くはないですが……まあ、リリアが望むのなら仕方がないです。そもそも魔道具ギルドもリリアが作り上げたようなものですしね」
「……ああうん。リリアの欲望を叶える場所なんだな……」
「ちなみに映写機を作ってくれたのも今から逢わせるジズよ」
一時間ほど揺られて、見知ったギルド前に着いた。
そこでエルク様に抱き上げられ馬車から降りる。
ギルド前にはパタパタと羽ばたくイェスラと、ソルトが待っていた。
「ようお嬢。んで、王子様連れてどうし………カーバンクルだと!!!」
『ん?何このおっさん』
ソルトは一目散にカーバンクルの前に行き、きょとんとするカーバンクルの前にしゃがみこんでなんか感動し始めた。
カーバンクルもなにしてんの?とソルトの匂いをクンクンかいでいる。
「お嬢!お嬢!カーバンクルまで手懐けたのか!」
「ついてきてるだけです」
「なんだお嬢がカーバンクルを手懐けたんなら色々人間じゃ無理なの作ってもらおうと思ったのによう」
「作る方が依頼するの?」
「おう。土の上位精霊とか便利だからな」
ソルトにそう言われると少し揺らぐが。
尻尾をフリフリして、僕どう?と嬉しそうに見上げるカーバンクルがあざといから却下だ。
「で、こちら魔国のトーマ王子。ジグと協力して作りたいものがあるから紹介したいんだけど良いかな」
「俺は魔道具ギルドのギルドマスターのソルトだ。紹介は構わないが殿下単品が依頼や注文をする時は絶対に俺を通してくれ」
「ああわかった。トーマだよろしくな」
「ありがとうソルト、エルク様ジグの所へ!」
早く早くと腕を引っ張るとくすくす笑われながら、ジグの工房へ行く。普段は馬車→ギルドだったり、馬車→工房なのであまり街中を見ないけれど。
メインストリートはだいぶ栄えているようだった。
人もかなり多いし、いる人の身なりも農民、町民、冒険者に富裕層と様々だ。
この街は領地の中でも1番栄えているので、基本視察は母様なのでまじまじ見た事はなかったけれど。
少なくとも王都の商業街にも負けてないと思う。
隣を歩くトーマも珍しげに店をキョロキョロ見ていた。
「さすがキャロル領の商業街だな。一般人も買える良い魔道具の店が多いな」
「リリアの新作は斬新なものから便利なものまで幅広いですからね。また魔道具ギルドの面々も向上心がとても強いですから」
「いい街だなあここ……うちの王都にも負けないんじゃね」
「いやいや、魔法最先端の魔国が何言ってるの」
「いやいや、最先端の魔法使いが何言ってんだよ」
見つめあって互いにふっと笑う。やめようこの話題は、不毛だ。
おそらくトーマも同じ気持ちなのだろう。彼は街並み見学に戻った。
「でも本当にいいな。学園からも近いし今度学校帰りに寄ってみようかな」
「でしたらギルドの横にあった店を勧めますよ。あそこはギルド所属工房の研究品から練習品まで幅広く置いてありますからこれと言った狙いがないならきっと楽しめるかと」
「へえ。エルクのすすめなら良さそうだな」
「アクセサリーのたぐいならそこの店がお勧めです。侯爵家お抱えだった鍛冶師のオーダーメイドショップですので品質は確かで、今は魔道具としても一流ですよ」
「ふーん。実家への土産はそっちがいいかな」
私の前では珍しいエルク様とトーマの雑談。という名のエルク様プレゼンツの売り込みを聞きながら、トーマがちらっと後ろを見るとあとからついてきていたトーマの護衛さんがこくりと頷いた。
調べろって意味だろう。
あそこの店ってダディさんのとこだよね。
今度私もエルク様への何かを買いに行こうか。
そう思うもエルク様の全身は私の魔石で飾られている。
でもたまには普通の宝石も悪くないかな。
よし、結界が完成したらアイザック様に特別手当をねだろう。
それでエルク様に……そうだな……アクセサリーでもそれ以外でもなんでもいい。何かを贈ろう。
エルク様へのお布施……じゃないプレゼントのためだ。
そう思えばやる気は出る。
じっと美しいエルク様の顔を見つめて、頬を赤く染めるエルク様も素敵で、何を贈ろうかと考えているとジグの工房に着いたので降ろしてもらう。
「ジグ、いるー?」
たくさんの武器と防具の店内を、店員さんに挨拶をして抜けて
たくさんの型………おっとう!これは企業秘密だった。
「うわ、なんだよリリア」
「待った、トーマはここで待ってて」
幸いトーマは武器や防具を見ながらゆっくり歩いていたので、裏のエリアにはまだ入ってなかった。
エルク様と店員さんに頼んでトーマを武器防具屋のスペースに留めておいてもらって、一人先に行く。
すっかり忘れていたが、この魔法陣を焼きつける金型はまだ国と社外秘だった。
作り方はトーマにもまだ…教えてない、よね?
録画機試作した時…は、トーマは居なかった。
ペンを作った時……も居なかった。
うん、セーフセーフ。危なかった。
トーマは魔法陣制作の天才だから色々と頼んだりしてるせいで最近、垣根が低い。
精霊や家族みたいな扱いになってきてることに今更気づき、ちょっと気を引きしめる。
あいつは他国の王子だ。
友達でも、油断はしちゃいけないんだ。
「ああ、来たのか。今度はなんだお嬢」
「先日はありがとうジグ。映写機は会心の出来でした。今度はえっと、弁っていうものの説明を連れに頼みたいんですが」
「弁?なんだそれは」
「えっと、流れを一方通行にするもので……」
「……そこ以外のものなら好きに使っていい。どんなもんか説明してみろ」
何か説明にいい物がないかなと辺りを見回すと高炉周り以外と先手を打たれた。
辺りをキョロキョロと見回すと酒の空き瓶が隅っこに転がっていたので、それを手に取る。
注ぎ口が狭くなっていくサイズの瓶。
その瓶の出入口から少し中に入ったあたりの太さに合わせた魔石をさっと内部で作る。
即席のラムネ瓶だ。と言っても、ビー玉がびん底まで行ってしまうものだけど説明は一応できる。
「こんな感じで、水を中に入れることは出来るけど、出そうとすると中の玉が詰まって水が出てこないんです。これを説明して欲しいんです」
「……」
わかるかな。絵と違ってわかりやすいから、理解してくれると思うんだけど。
ジグなら、ジグならわかってくれると思ったのに彼はいつまでも難しい顔のままで不安になる。
「………なあお嬢」
「はい?」
「説明をしろってなんでだ。お嬢がその瓶を使ってそのまま説明すりゃいいじゃねえか」
瓶を使って。
じっと瓶をしばらく見て、ハッとする。
そうだ、実物だから絵と違ってわかりやすいじゃん!!
わざわざジグの元まで来なくてよかったじゃん……
「くっ、ま、まあ元気そうで良かったな」
笑いをこらえた凶悪顔のジグさんは。
いつもより怖い顔で豪快に私の頭を掻き回した……。




