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支離滅裂で意味がわからない。
整理しよう。
ダイハードさんの意志を『継いで』エルク様を王にしたい
↓
つまりダイハードさんも誰か…おそらく王弟を王にしようとした?
↓
でもダイハードは王弟についたと言いがかりを受けて処刑された。
言ってること矛盾してないか。
「とにかく!私を捕まえたらエルクが困るぞ!」
「いやごめんなさい全っ然意味わからないんですけど」
「わかる必要も無い」
はあ。とため息と共に呟かれた声に、ジークと学園長はぴたっと動きを止める。
私はさっきから見えていたけど、ずっと黙っていたアイザック様がようやく喋りだす。
アイザック様が私を見て頷くのでさっと結界を消すと、アイザック様の後ろにいたエルク様が泣きそうな表情でこちらへ駆け寄ってきた。
「リリア!!!」
「エルク様!!」
エルク様の黒い髪
金色の瞳
泣きそうな表情
それら全てに愛を感じる。
好き、大好き、すごく好き。
つまらなくなっていた世界は一瞬で華やかな世界へと色を変える。
結界が解けたことにより溜まっていた水がさあっと引き、残った泥の上を駆けてエルク様に抱きつく。
エルク様もきつく私を抱き返してくれた。その身体は震えていて、呪われていたとはいえ彼にこんな耐えるような判断を下した自分が信じられない。
「アイザック殿下、このような状態での挨拶申し訳ありません。リリア・キャロル、すぐに私たちを解放しなさい」
「しなくていいリリア。お前たち、リリアの拘束よりしっかりと縛りあげろ」
アイザック様が指示をすると、数人の人達がさっと現れてあっという間にジークと学園長を拘束した。
床に転がされて、取り押さえられた二人を見てアイザック様が静かに語る。
「賢者ダイハードの弟子が今だに王弟派だったとはな。お前たちに繋がるものたちを全て調べさせてもらう。覚悟せよ」
「お待ちください!殿下、これは誤解なのです!呪われたリリア・キャロルによる陰謀です!」
ひどい言い訳だ。思いっきりエルク様に王位王位言ってるの聞かれてたのに。エルク様の胸元に頬擦り寄せて甘えながら、悪あがきをするおっさんたちを白い目で見る。
ああ、そうだ。証拠一応渡しておこうかな。
「私たちはリリア・キャロルを呪いから解き放とうと『私はダイハード様の意志を継いでエルクを王にするために人脈も、地位も、名声も稼いできた!そんな私を捕らえてみろ、いちばん困るのはエルクだ!!』し、え?」
タイミングよく有形化した文字をなぞると、啖呵切った学園長の声が響いた。
アイザック様も、2人も、取り押さえる恐らく影の人達まで私を見る。
ので、ご要望にお答えして他のとこも再生してみる。
『私を捕まえたら!エルクを王にすることができないぞ!!』
「エルク様モテモテで困っちゃいます」
「王なんてなる気ないですけどね……」
「ジーク様はご存知なかったようですけど、カメラの元になってる魔法陣は元々音声を記録するものでしたの」
唖然とする一同の前でふふふと笑いながら、記録された音源をアイザック様に差し出すと深く頷き受け取ってくれた。
「よくやってくれたリリア。ちゃんと君の願い通りリュート・シザー嬢に関しても情状酌量も受け付けよう」
「ありがとうございます。彼女には呪いの解除がかかってますから優しく扱ってくださいね」
「ああ。リリア、君が彼女を鍛えろ。そして彼女はもう利用されないように魔術棟で預かる。リリアにエルク、君たちは明日の朝一番で登城するように。エルクは学園長の代わりになるものを送るのでこの後補佐をしてやれ」
「わかりました」
「私も手伝ってもいいですか?」
「好きにしろ」
まあ、無難な結果かな。
頭を下げるとアイザック様と護衛の方々が2人を連れて去っていった。
残されたのは、リェスラで壊れてさらに水浸しと泥まみれになった部屋。
色々と作り直しで修羅場確定しているけど。
今だけは。エルク様にしがみついて目を閉じた。
「………ここ数日、生きた心地がしなかった」
「奇遇ですね。私もです」
「もう二度と、こんなのは勘弁ですよ」
「呪いの仕組みはわかったので今度からは自衛します」
エルク様が荒々しげに泥を退かして、椅子をこっちに寄せて座ってから私を膝に乗せる。
同じ目線になって、改めて首に手を回してしっかりと抱きつく。
もう離さない。
「エルク様は王様になりたいですか?」
「なりたそうですか?」
「いえ全く」
「アイザックや叔父上達は大切な親戚ですから」
「ですよねー」
エルク様が王家を大切に思っているのは知ってた。
なんだかんだ言いながら見る目が優しいし、ある程度厳しくするのは愛ゆえだろう。羨ましいことこの上ない。
羨ましいが、エルク様が大切にしてるものなら私も守るものだ。
少し身体を離されて額を寄せ合わせる。
ふふふと笑い合うと
頭の上に重さを感じた。
『なーもういいか?俺たちだってリリ心配してたんだけど』
『そうよ、私たちだってリリにくっつきたいわ』
脇腹からはリェスラが突っ込んできて。
許可をするようにエルク様に解放されたので膝の上をとんとんすると2匹はすぐに小さくなって飛んできた。
両手を使ってイェスラをモフり、リェスラの鱗を撫でる。
2人も全力で甘えるように擦り寄ってきた。デレデレ精霊かわゆい。ちょうすき。でもエルク様の方が(ry
「イェスラ、エルク様を守ってくれてありがとうね」
『ん。さっきのおっさんの方ずっとエルクの回りうろちょろしてたから危なかったぜ。近づけなかったけどな』
「ナイスイェスラ」
どうやら学園長はエルク様に接近しようとしていたようだ。
私を呪わせたのは、私の自陣引き入れと、無理だった場合の無力化と、さらにエルク様を懐柔するためにだったから、だろうか。
まあそこら辺はアイザック様に任せよう。
今は、離れていたぶんを取り戻して。
………そして泥まみれの壊れた部屋を掃除して、プリントとか……うん、作り直し……。
「うわっ、なんだよこれ。おいキャロル先生どうなってるんだよ」
「これはまあ……聞いても良いですか?」
しばらく現実逃避でいちゃついているとヴェン先生とネリア先生を筆頭に数人の先生方が汚部屋を覗き込んできた。
壊れた扉から中を見た数人の先生はすぐに走ってどこかへ消えて、残った先生は片付け手伝いいりますか?とありがたい言葉をくれたので素直に頷く。
「ちょっと国家機密に関わってしまう事案が起きたので何が起きたのかは説明できませんが…もし良ければ手伝ってもらってもいいですか?」
「当たり前だろエルク先生。おーい、バケツとスコップ持ってきたぞー」
「ドロはどこに捨てるか?」
「とりあえず花壇横かな」
そして部屋に溜まったドロは、先生方と協力して片付けて。
片付けが終わった頃になると城から学園長代理が派遣されてきて、彼はエルク様と共に学園長室に向かった。
私はその後エルク様が戻ってくるまで
ヴェン先生とネリア先生とリェスラと、後片付けを開始したのだが……




