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あとがきに顔文字の説明があります。苦手な方はご注意を
エルクは疲れた顔を一瞬で引き締めると、イェスラと共にどこかへ行った。
リュートには悪いが、これで彼女を悪く利用する人達から引き離せるだろうか。
ほうとため息をつき帰り支度を整える。
エルクが戻ってきたら今日はもう帰ろう。そんなことを思いながら机の上を片付けていると
すっかり忘れていた録画機があった。
忘れていた通り、いまはそれになんの興味もない。
それどころか領地経営も、魔法研究も、教師も、それこそ家で預かっている孤児達もどうでも良くなってきた。ひたすらに、やる気がわかない。やるべき事だから笑顔を貼り付けて最低限やっているが、そろそろ全てを放り出したい。
不思議だ。リュートのことを大好きになっているはずなのに、彼女はエルクの代わりにはなれないようだ。
………敵の懐に入るために仕方がない事だったが、そろそろ戻らないと全てに飽きてしまいそうだ。
ココ最近回数が増えたため息をつくと、ノックが聞こえた。
「リリア、居るかね」
「どうぞ」
入ってきたのは学園長だった。
学園長の後ろには顔を隠すフードのついたローブをまとった人が居た。
なんとなく、魔法使いの感じがする。
そういえば初めの日に専門家を呼ぶと言っていたが……まさか本当に呼んできたのか?
完全に治すと洗脳が解けてしまうから、てっきり誰にも依頼をしないと思ったのに。
……依頼をするとすれば、都合よく治せる……学園長の手の者、の可能性がある。
まさか二ツ目の尻尾が出てきたのだろうか。
「どうかしましたか?」
「先日言っていたあなたの不調を治せる人を呼んできましたよ。エルク先生にも用があったんですが不在ですか…」
「今所用で外しています」
「そうですか。おい『ジーク』彼女を治してくれ」
警戒をしていたが、聞き覚えのある名前に一瞬油断する。
学園長に促されて、私の目の前に出てきたローブの男。
まさか、おじいちゃんの弟子の、ジークじゃないよね。
そんな期待とは裏腹に……フードの下から現れた顔は、うちに数回来たこともある特殊魔石を作れる魔力を持つ魔術棟のジークだった。
「お久しぶりですリリア嬢。少し失礼しますよ」
伸ばされる手を見ながら、思い出す。
傷ついたおじいちゃん達を。
悪意を持って破壊された魔術棟を。
私の魔石を知っていた学園長。
リュートの疑惑の家族。
学園長に連れてこられたリュート。
……リュートの魔力で、おかしくなっている4学年の人達。そして、レナード殿下に、宰相の息子のカースティン。
そして明らかに狙っておかしくされた、私。
「リェスラ!転ばして!」
咄嗟に後ろに飛び退いてリェスラに任せる。ハッとした2人が慌てて魔道具を取り出そうとするが部屋をメキメキと破壊しながら大きくなったリェスラが『キェーーーー!!』と鳴いて一瞬で部屋に大量の水を作り上げた。
時間はかかるが、魔力塊で出入り禁止結界の魔方陣を刻み部屋に放つ。
これでここからは誰も逃げられない。
大量の水にぶつかって転んだ2人が起き上がった時には数個の魔力塊を浮かべて魔法をいつでも放てる準備を整えておく。
そしてそのうちの一つに、有形の魔法陣を刻んで起動する。
「リリア、これは一体どういうことかな」
「それはこちらが聞きたいです。何故魔術棟所属のジークさんがここにいるんですか」
「貴女を治すために呼んだんですが……魔法使えないんじゃなかったのか」
『土よ水を覆いつくして彼女を捉えよ』
こちらを睨む学園長。そして話をする隙を狙って精霊魔法を放つジーク。
現れた土に水が吸い取られる一方、かさが増した水位は私の腰ほどの高さになり身動きが取れないのでリェスラに掴まった。その瞬間、足に何かが絡まって引っ張られる。
掴まってなかったら転んでたかもしれない。
そんなことを思いながら魔力塊に土魔法を刻んで真っ向から土をぶつけ返す。
「それはおかしいですね。彼の派遣要請は出されてませんし、魔術棟の者は許可と申請なく外に出れないはずですが」
本当は調べてないけど。調べられるかも知らないけど。
とりあえずフェイクで揺さぶる。
記録はしてあるから言質を引き出せれば勝ちだ。
「それは古い決まりで今はある程度自由が聞くんですよリリア嬢」
「へえ。じゃあ希少情報の漏洩も自由なんですか」
もう敵対しちゃってるから良いかな。
魔法の発動の遅さが辛いので、リュートの魔力を引き剥がして砂粒サイズの魔石にして振り払う。
途端、溢れ出る魔力と
最愛のエルク様への愛。
そしてーーーーーーーーーーエルク様の授業を録画できなかった怒りと、絶望。
そしてエルク様を悲しませた怒り。
「私は漏洩してませんよ。漏洩したのは、貴女でしょう深緑の賢者」
「賢者ともあろう方が嘆かわしい」
「ーーーーーーー許さない。絶対に許さない」
ふふふ、ふふふふふふ。
笑いが込み上げて、リュートじゃないけど全身から魔力が立ちのぼるのが感じる。
ぶちっと髪留めが壊れて、赤い髪が炎のようにゆらゆらと揺らめき出した。
一瞬でこちらを警戒するだけで何もしない2人に魔力封印をかける。
そして足元には土と水が揃っているからそこの中級の緑魔法を使う。一瞬で足元から伸びた緑は2人に絡まり下半身を拘束する。
「なっ、な、魔法が!!」
「おい!こんなことしていいのか!リュートが悲しむぞ!」
「リュートのことは私に任せてください学園長。それに現状エルク様と私が悲しんでいます」
「エルクだって私が捕まると困るぞ!!」
「え、なんで?そんなわけないけど」
その場しのぎの言い訳にしてはとても見苦しい。
学園長とエルクに少なくとも接点はない。エルク様が本気で隠してたらわからないが、少なくとも私の知る範囲では皆無だろう
。
意味がわからない。そんな風には見ていると、
彼らの後ろ。吹き飛んだドアがあった場所に人影が見えた。
「私を捕まえたら!エルクを王にすることができないぞ!!」
人影に気を取られていたのは確かだが。
学園長の謎の発言に驚いた。
それはもう驚いた。
この驚きを表現する語彙力がなくて申し訳ない。
えーっとあれだ。目玉ポーンと言った状況だ。
え、何言ってんのこの人本気で。
「私はダイハード様の意志を継いでエルクを王にするために人脈も、地位も、名声も稼いできた!そんな私を捕らえてみろ、いちばん困るのはエルクだ!!」
「ダイハードって…………だれそれ」
「はあ!?リリアお前魔術師だろう!!先の大賢者ダイハード様くらい知っておけ!」
今度はジークさんが怒り出した。どうやらダイハードさんは彼の怒りのポイントらしい。
と、言われても私基本的に自己流で魔法を突き進んでるから過去の偉人とかちょっと……歴史上の偉人なら歴史の勉強で習っているはずだが……ちょっと記憶にないなあ。
「ジークさんが言うダイハードさんって、歴史の勉強に出てこなかった……と思うけど」
覚えてないとも言いきれない。もしかして説明を受けたかもしれない。
でもなあ、魔法関連の人なら将軍様がうんチャラより覚えていそうなものだけど。
本気で記憶のどこにも引っかからないで首をかしげると再び学園長が怒り出した。
「それはロバートによって貶められたのだ!!弟の味方をしたと言いがかりをつけて、あいつはダイハード様を処刑し歴史上からも名前を消したのだ!!」
「え、でもダイハードさんの意志を継いでエルク様に王位を継がそうとしてるんだよね?言いがかりじゃないんじゃね」
目玉ポーンとは
( д) ゜ ゜
こういった顔文字です。




