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その後、預かっている子達の様子を見てきたのだけれど。
レティシアは簡単な魔法陣なら無詠唱で使えるようになっていた。
マイクは魔力塊の成功率が上がっていて
シャルマは魔力操作よりも、魔石として貢献することにしたらしく魔力の容量を伸ばしていた。
ネルとリアは精霊と仲良くなり、もうすぐで魔力塊が出来そうなところまで来ていた。
この分なら、レティシアはもう少し知識を安定させたら孤児院の教師の役が出来るかもしれない。マイクもあと少しだ。
全員が全員真面目に勉強をしているらしく所作も言葉遣いも魔力操作も順調に上達していた。が。
何故か全員リズ同様私が怒っていると勘違いをしてきた。
ちゃんと笑顔で話してたのにな。
自室の鏡の前で笑顔を作る。うん、笑ってる。
ほっぺをつねる。うん、笑顔。
おかしいなあと思いながら、明日の5年生の授業に備えてエルク用の資料をまとめてその日は眠りについた。
エルクは、私を迎えにこなかったので久しぶりに一人で寝た。
翌朝、ダイニングで見かけた彼は目が真っ赤だった。
わかりやすく、寝てないようだ。
「おはようございます。ちゃんと寝ましたか?目が赤いですよ」
「……ちょっと眠れなくて」
「せめて学園までの馬車と、授業が無い空き時間に寝てください。寝不足で生徒の前に出るわけには行きませんから」
「はい、気をつけます」
そしてリズも。
「おはよぉねえしゃま……」
怯えながら挨拶をされて、食事中もずっと顔色をうかがわれて。
朝っぱらから色々とダメージを受けて、家を出た。
「エルク、ほらどうぞ」
たぶん接した方が良いんだろうと思い馬車に座ると膝の上をとんとんと叩いた。
膝枕してあげるから寝なさい。
暗にそういうと、エルクはわかりやすく苦しそうな顔をしてぼそっと「抱きしめたいです」と言った。
別に夫婦だし問題は無いので、エルクの膝の上に移動をすると無言でただ抱きしめられた。
抱きしめられたことには何も感じなかったが。
なんだか久しぶりな感じがするなあと、思えた。
昨日の朝もこうしてくっついていたはずなのにね。
怒ってないのに、ちゃんと笑っているのに。
毎日はただ淡々と進み、私の世界はリュートがいても日々色あせて行った。
何もかもがつまらない。もうどうでも良くなってきた。
そして授業、リュートの相手、仕事をこなして三日めの事だった。
色々と調べたり母様に聞いたことからわかったが、リュートは少なくとも魔女と呼ばれる存在だろう。
魔法陣とも、精霊魔法とも違う謎の魔術『呪い』を使う存在を『魔女』と呼ぶらしい。
魔女はその多くは『呪い』をコントロール出来ずに災厄を引き起こすことが多いらしい。
今回のことも、私が止めに入ってなければ彼女の『呪い』の被害はもっと多くひろがったであろう。
たった2日で1クラスを呪った程だ。無意識とはいえ恐ろしい。
でもその呪いの実態は、細胞レベルの魔力操作で体の色々な器官を攻撃しているに過ぎない。
リュートに協力をしてもらえば今まで未知だった呪いの治療法が見つかるかもしれない。
……そう思うのに、特にやる気は出なかった。
だから研究も実験もしていない。
今やっていることは細胞レベルの極小魔力を防ぐ結界作りだけだ。
これもそろそろ完成の目処がたっている。
学園長以外の裏はなかなかしっぽを出さず、けれどリュートの魔力操作は放出と吸収をできるほどにはなってきて。ダダ漏れの魔力もすっかりなくなった。
被害者から吸収ができれば、呪いは後遺症なしで治せると思う。理論上では。
が、彼女の信頼は多少は得たけどまだ完全の物じゃないので今は大人しく可愛らしい彼女にしっぽを振る。
「リリア、すごいのね!私より幼いのに立派な先生で驚いちゃった」
「ありがとうリュート」
「私なんて10歳の頃は街中を走り回っていたわ」
ふふふ、と笑うリュートはやはり可愛いので好意は抱くが
それで終わりだ。特に感じるものは無い。
でも、笑顔を貼り付けてありがとうと言うとリュートはさらに嬉しそうに笑う。
可愛いし好きだけど。
なんでこんなにつまらないのに、彼女は楽しそうなんだろうと仄暗い感情がうまれる。
彼女以外の人達は皆私の笑顔を怒ってる、怖いという。
のほほんと笑って喜ぶのはリュートだけだ。
「街中を走り回ってたら誘拐されちゃうよ?」
「大丈夫よ、だってその時はお父様と奥様に引き取られる前だったもの」
引き取られる…?
新たに入ってきた情報に一瞬気が張り詰める。
「リュートは街で育ったの?」
「うん。私ねメイドの子だったの。でもある日お父様が迎えに来てくれたの!母さんも一緒に引き取られたんだけどお父様も奥様もすごく優しいのよ。あ、でも秘密よ?平民の血筋ってバレると学園ではいじめられるって学園長に言われてるから」
「私がいじめるわけないでしょリュート」
「そうよね!リリアは他の子みたいにベタベタしないし、ちゃんと意見も言ってくれるから好きよ!」
「私も大好きよ」
「本当に毎日が夢見たい。ここに連れてきてくれた学園長に毎日感謝してるのよ」
ニコニコとお茶を楽しみながら、ようやくしっぽを掴めたかと思う。
笑い、真面目に魔力操作に取り組むリュートは本当にいい子だ。
彼女を守りたいと思う。でも、学園中で洗脳をさせる訳には行かない。
こっそりため息をつきながら、放課後の秘密の特訓を再開した。
兎にも角にも、リュートのスキルアップは今後のことも考えて必須だ。
「エルク、シザー男爵は確か未婚だったわよね」
「ええ。正確には数年前に妻に先立たれているんですがね」
ここ数日で隈が出来てやつれてきたエルクに聞けば、すぐに情報が返ってくる。
私を早く戻すためにここ数日、彼も懸命に働いていた。
学園長とリュートに『影』をつけて情報を集めていた。そのお陰で、知りたい情報がすぐ知れて。その報告書も貰っている。だから、リュートの言葉の違和感にすぐ気づけた。
「リュートは元メイドの母親と暮らしていたところ『お父様』と『奥様』に母親ごと引き取られたそうです」
報告書によるとシザー男爵はうちの国の外れの領土を治めており、妻に先立たれ最近養子を取ったとある。
その養子がリュートのはずだが……
報告書と違いが出た。これは調べればホコリが出るかもしれない。
つまらない日々が終わるかもしれない。
期待を込めてエルクに報告すると、彼もさっと表情を変えて頷いた。
リュートには悪いが、これで彼女を悪く利用する人達から引き離せるだろうか。
でも、出来たら。大切な友達だから嫌われたくないなあ。




