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0歳児スタートダッシュ物語  作者: 海華
抱っこ人形、教師になる編(第6章)
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広い講堂がシン……とする。

なんとなく状況を知っているヴァン先生とネリア先生は呆れてエルク様に任せてしまい、全員がエルク様の次の行動を息を飲んで待っているのがわかった。


「そうですね。心配をかけてすみませんエリース・ショールディンさん」


拡声器を置いたのか、先程より小さくなったエルク様の声が聞こえてコツコツと足音が聞こえる。

令嬢の影からそっと覗くと苦笑を浮かべたエルク様がこちらへ来ていた。

目が合い、ヒュッと息を飲み一瞬力が抜けてポロポロと涙がこぼれる。


「リリア、明日の5学年の授業も私が講師をするから。ほら、そろそろ機嫌を治して?そもそも30分足らずで魔道具を組み立てるなんてそもそも無理だったんだよ」


「っ、だ、だって、えるくさまの、はつじゅ、ぎょう、見たかったああああああああぁぁぁ」


差し出された手を迷わず取り、令嬢の後ろから前に出ると抱き上げられてあやされる。

見たかった。撮りたかった。

初めては、1回しかないのに。記録できないことがどれほど悔しいか。

うえええんと泣きじゃくり、えぐえぐとしがみつく。

困らせてるのはわかっている。

大人気ないのも分かってはいるが、どうしても我慢できなかった。


「授業は中断しましょうか。この状態のリリアじゃ、無理ですから」


でも、聞こえたその声にさすがにやばいと思った。

泣いて授業にならない時点でヤバいが、ただでさえ少ない6学年の授業を中断させるのはなおやばい。


はっと生徒たちを見るとほぼ全員が心配そうにこちらを見ていた。

心配かけちゃ、ダメだと思えば思うほど涙がポロポロ止まらない。

理屈じゃないんだ。


「イェスラ、リェスラ」


『あいよー』

『はいはい』


「リリア…?」


密度はそれほど濃くないが、とにかく大きな魔力塊を作る。

私の魔力の半分ほどを使って生み出したそれを、うにのようにトゲだらけにしてトゲをとにかく伸ばす。


「うわ、なんだあれ」


「なにあれ」


「にぎって」



えぐえぐ泣きながら言った言葉は、あまりまともな言葉にならなかったけど

イェスラがトゲをいっぱい咥えて、生徒一人一人に配る。

私は懸命にトゲを伸ばすがあまり早く移動はせず、それをリェスラが補佐してゆっくりと伸びていく。


貰ったメガネでそれらを見て驚愕する生徒たち全員が私の魔力塊の紐を握り。


魔力を送り込んで、吸う。


やることはやったので、エルク様にしがみついて嗚咽をあげると私のしたことを理解したエルク様が合わせてくれた。さすが大好き。



「今、皆さんの体の中で動いたのが魔力です。とりあえずそれを動かして外に出す特訓をしてください。どうしてもわからない人はもう一度リリアに頼むので前に出てきてください」




抱き上げられたまま泣きついて、いつの間にかエルク様の腕に乗ったリェスラが涙をぺろぺろ舐めて慰めてくれて。



エルク様の初授業は、色んな意味で私がめちゃくちゃにした。


「リリアは最近よく泣くね」


「…ごめんなさい」


「こういうことは今回だけね。生徒に迷惑や心配をかける先生はダメだよ。ちゃんと謝罪すること」


「はい……」


チラホラとわからないと言ってくる人達一人一人の手をとりながら、さすがに反省する。

今回はわがままが過ぎた。


授業終わりに一応『今回はご迷惑かけて申し訳ありませんでした。次回からはきちんとするのでまだ先生で居させてください』と謝罪はしたけど…本当、我儘で最悪だ……。







「で、今は自主的に罰を受けていると」


「ええ。まあ無理せず仕事もきちんとすると言っているのでそっとしておいてあげてください」



6年生に対する謝罪として『発動』のみの魔道具を作り上げた。

全ての基盤となる術式で、全ての魔法陣にはこれが使われている。

この魔道具は『発動』するだけでなんの効果もない。ただ、魔力を使うだけだが体内の魔力の流れを感じるにはいいものだろう。



それを、人数分。

1個1個手作りで、ペンに魔素粉で溶かしつける。

ペンにしたのはこうすれば、魔力を感じられるようになってからでも感じられるからだ。

ペンも魔素粉ももちろん自腹で買ってきた。

貴族が持つに相応しいものを、6時間目が終わって全力疾走で買ってきた。




魔力操作準備室の隅で、黙々と作業を続ける。

ついでにラッピング道具も買ってきた。一つ一つ個包装まできっちり仕上げる所存だ。



「とりあえずリリーにこいつを紹介したいんだが」


「絵が上手な方ですよね?初めましてエルク・キャロルと申します。あっちは妻のリリア・キャロルです」


「えっと、4年のディート・ライナールです。あの斬新な絵をなんとかすればいいんですよね?」


「ええ。頼んでも良いでしょうか」


「資料を見せてもらってもいいですか」



真心込めて、作っているとやがて終わりが見えた。

次はラッピング……そう思いながら包装紙とリボンを取ろうとすると、リェスラがリボンを咥えていた。

イェスラは包装紙を咥えていた。


「ダメだよ2人とも。今回は私一人でやらないと反省にならない」


『でも、リリの悲しい顔ずっとみていたくない』


『どうしてもって言うなら手伝わないから、持ったり押さえるくらいはさせてよ』


エルク様がアイザック様と誰かと資料の改善をする横で、あまりにもいい子な精霊たちまた瞳がうるっとする。

とりあえず2人には道具を『持って』もらいラッピングを開始すると


コンコン


準備室の扉がノックされた。

どうせトーマだろうと思い何も考えずに「どうぞ」と言うと凛とした女性の声で「失礼します」と聞こえて、少し慌てた。



入ってきたのは濃紺の髪の女性……ショールディンさんだった。


ショールディンさんは机の周りで作業するエルク様達を見て、私を見てーーーー眉を顰めた。


「何をなさっているんですか、リリア・キャロル先生」


「……ラッピング作業をしています」


「そういうことではなく、床に直接座ったら汚いでしょう。ああもうほら、せっかくラッピングしたものもシワがよってますわよ」


いえそれは私の技量です。

そうとは言えないまま促されて、空いていた机に誘導される。

親切なショールディンさんは箱に入れて床に置いていたペンも箱ごと持ち上げて、机の上に置いてくれた。


「まずエルク・キャロル先生。先程は事実確認もせずに糾弾をしてしまい申し訳ありませんでした」


「いえ、言ってくださり助かりました」


「それからリリア・キャロル先生。先程のような授業は金輪際やめてください。それから人前で泣くなど、いくら幼くても淑女として失格でしてよ」


「はい。ごめんなさい」


「けれどリリア・キャロル先生がまだ新任なこと。それからまだ幼いこと、シュミット様とカースティン様の取り成しもありまして、6学年は全員リリア・キャロル先生の今回の動向を不問にするということに成りましたわ。以後気をつけてくださればそれで宜しいです」



えっと。

ショールディンさんはわざわざ3クラスの総意をまとめて来てくれたんだろうか。

すごくいい人過ぎやしないか。


「わざわざありがとうございますシュミットさん」


「貴女は王家の覚えめでたき賢者様ですもの。今回のことで、いじめになど発展してしまったら大事になりますわ。早めに手を打っただけのことです」


ショールディンさんの姿が輝いて見える。

ショールディンさんはまさに令嬢の見本と言いたいくらい優しくて立派で素敵だ。

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