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0歳児スタートダッシュ物語  作者: 海華
抱っこ人形、教師になる編(第6章)
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「あ、リリア先生。ごめんシザー嬢、俺リリア先生とエルク先生に用があるから」


「リリ……あ、そっか、ごめんね。じゃあトーマ君また後でね」


シザー嬢。『彼女』はシザー嬢と言うのか、覚えた。

トーマが私たちを見て反応すると、シザー嬢もこちらを見て嫌な顔をしてから足早に立ち去った。


昨日もアレ?と思ったが、どうやら私たちは避けられているようだ。

最も本人に避けられていても、彼女のモヤは別らしくまた私たちにまとわりついてきたのでそれを消す。



「何?なんかしたの?随分嫌われてんじゃん。ついでに俺のも払って、どうせ教室でまた付けられるけど」


「嫌われるようなことはしてないと思うけどねえ。自分で払えないの?」


「無理無理。自分の魔力ならかなり無茶できるようになったけど人の魔力はまだ弄れん」


「ふーん。ただ魔力無効化で消してるだけだけどね」


「あーそれで対処してたのか。でも面倒だからやって」


後ででも良くねと思ったが、靴を履くために降ろされたついでにトーマのモヤを消す。

そして靴を履き変えると速攻で捕獲をされる。

文句も問題もないのでしがみついてトーマと教室に向かう。

瞬間、トーマの結界が広がって私たちを包み込んだ。

ああ、防音の魔法効果のためかな。


「ああ、これ。形状有形魔法陣の改良版。強化魔法の方はもうちょい待ってあれには多分ちょっと昔流行った肉体改造の応用が使えそうだから。んで、結界の方はどうよ?」


「授業の準備で正直それどころでなく……とりあえずこれで代用しようかと」


はい、とトーマにハンカチと共に折りたたんだ魔法陣の書かれた紙を渡す。

トーマはそれを広げてから首を傾げた。


「なんでハンカチと一緒に折りたたんでるんだ?」


「魔力回路のかさなりを阻むため。それ、折りたたんだままで発動できるよ。特に特殊な何かはやってないけど」


「マジか!!え、なにこれコンパクトで便利なんですけど。てか魔法陣って紙折りたたんでも発動出来るんだ…」


盲点だよね。と心の中で同意して手を出してハンカチをせびる。

が、トーマは折った魔法陣の紙をよく見て……気づいてしまった。

そのハンカチの、歪んだ縫い目と茶色のシミに。


「ん?てかこのハンカチ縫い目が汚いな。リリア、これ誰の手作りだ?令嬢が…もつ…まさか、お前……」


こっちを見て半笑いになったトーマからようやくハンカチを奪い取る。するとイェスラがハンカチを咥えてするりとエルク様のポケットに入った。

ちょ、ま、イェスラお前!


「イェスラ返しなさい。あとトーマ予鈴が鳴るからさっさと行って!」


『え、だってエルク欲しそうだからさー』


「そんな失敗作は嫌だから返しなさい」


「私はこれが欲しいよリリア?」


エルク様のポケットをパンパン軽く叩くもイェスラの反抗をくらい、それにエルク様が追撃を打ち撃沈する。

むっと近くの顔を睨めば嬉しそうに笑われて、背中ポンポンされる。


そんな私たちを見て、結局声を上げて笑うとトーマは手を振って去っていった。


「また放課後なー」


放課後ってなんだと思うが。ああ、あのモヤを払って欲しいのかと理解して頷いて手を振り返した。


「トーマ殿下とリリアは本当に仲がいいね」


「私とエルク様には負けますよ?」


「……そうだけどね」


ヤキモチを妬くエルク様が可愛くて、首に手を絡めてぎゅっと抱きつくとそのタイミングで職員室に入られた。

超色んな先生に見られた。

羞恥で涙が滲みかけた、よ……。





さて、この日の3時間目に私は初授業が入っていた。

学年は4年生。アイザック殿下…様の学年だ。

生徒は3クラスで80名。


「ヴァン先生は1組、ネリア先生は2組、エルク様は3組の誘導とプリントとメガネの配布をお願いします」


「わかりました。とりあえず出席順でいいですか?」


「はい。この図のように席を3分割して、出席順で座るようにお願いします」


さっと教卓に設置した映写機で白壁に配置図を映した紙を映し出すと3方向に散った先生方が頷いた。


そして予鈴のチャイムがなりーーーー生徒たちが入ってきた。


「1組はこちらへー出席番号順に座れー」


「2組はこっちよー」


「3組はこちらへどうぞー」


『ここに書いてある通りに着席してください』


補助の先生に合わせて魔力塊で声を大きくする魔法を使う。

こっそり、音量の調整も行う。

そして本鈴の鐘が鳴る頃には恐らく全生徒が着席した。

出席確認は各クラス各先生方がチェックしてくれている。



『初めまして、今年から魔力操作学を教えることになったリリア・キャロルと申します。まずは魔力操作でどんなことが出来るのか。それを皆さんに教えていこうと思います』


さっと座席図から紙を変えて人の体の外に魔力を出している絵に変える。瞬間、講堂中が大きくざわめいた。


『このように、普段体内に循環する魔力を体の外で操作することが基本になります。また、操作した魔力で魔法陣魔法を使うとこのようにーーーー』


私の上に、巨大な氷の華を作り上げる。

すると生徒たちがザワザワと盛り上がってきた。


『無詠唱で、様々な魔法が使えるようになります。操作能力はそのまま魔法陣を書く能力となります。皆さん、頑張って魔力操作を身につけてください』


氷をぱっと消して、先生方の合図をしてプリントとメガネを一人一つづつ配布する。

全員に行き渡ったのを見てまた画像を変える。


『今日は初歩中の初歩。皆さん自身の魔力を感じてください。そしてその魔力を体の外に出すことをイメージしてください。目を閉じて、ゆっくり呼吸をして…まずは指先から『何か』を腕に動かす感覚でーーー』




授業は無事と言っていいのかわからないが、終わった。

私の説明で体内の魔力を感じられた生徒は半数。分からなかった半数の生徒は毎日時間をみて感じる特訓をするように。

次の授業までどうしてもわからなければ、私のところに来るようにと言って終わった。

次の授業は4学年は三日後。それまでみんな覚えてくれたらいいなーと思うが、まあどうかな。


ふう、と講堂から出ていく生徒を見送っているとアイザック様がこちらへ向かってきた。


「リリア先生、初授業お疲れ様です。私たちに教えた時より教え方が上手になりました……が」


「ありがとうございます…?」


「必要なら絵師を紹介しますので、図解を書く時は絵のうまいものを使うことをおすすめします」


なん…だと…!

割と上手くかけたつもりの絵だったのにまさか下手だというのか!

ばっとネリア先生を見る。ネリア先生は眉間に皺を寄せて困ったように笑っていた。

ヴェン先生を見る。「下手くそ」と一言言われた。

エルク様を見る。エルク様は立ち去る生徒たちを見て、こちらの方すら見ていなかった。


図解をなんとかしよう。

心で泣いてしょぼくれながら、私は片付けを始めた。


「リリア先生は頑張ってますよ」


アイザック様はそう言ってくれたけれど、彼の頬はプルプル震えていた。


「ちなみにアイザック様、絵心は?」


「え、どうかな。ちょっとわからないかな?」


「午後に6年の授業を行うので、これ書いてください」


不貞腐れながらそう言うと、アイザック様は固まってからおずおずと今日私が使った数枚の図解を書いてくれた。

図解そのものは全てシンプルで簡素で難しくない。







要求通りアイザック様が三分ほどでサラサラと書いてくれた図解はとてもうまかった。



それをありがたく受けとって泣く泣く、授業で使えるように文字とか書き込んだ。おかしい、なんで人の顔がまつ毛ないのにちゃんと顔に見えるの……。






現実に打ちのめされながら、エルク様に抱かれて食堂に行く。


「リリア、今度から私も資料チェックするから。なんなら書くから」


と、慰めにならない慰めをもらって心の傷がえぐれる。


体力なし

裁縫無理

絵心なし


なんか私、本当に本当に魔法使えてよかった。

魔法使えなかったら人生だいぶ苦労したんじゃなかろうか……。

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