8
第一皇子と思わしき少年は驚いた顔でこちらを見ていた。
第二王子と思わしき少年は竜だ!竜だ!とはしゃいで私を指さしていた。
第三皇子はメイドにお菓子を与えられてその場にじっとしていた。
しまった、張り切りすぎて普通の五歳児の行動とは大きく外れてしまった。
まあ、高位精霊従えてるし今更か。とあきらめてにこりとほほ笑む。
「あ、ああとりあえず私はこの国の国王でロバート・フォン・ルクセルだ。こちらは妻のシャーリー、息子たちは上からアイザック、レナード、フェルナンドだ。リリア嬢とは年が近いから仲良くしてくれるとうれしいな…?」
「シャーリーよ。ガイによく似た素敵な赤毛ね」
「アイザックです」
「レオってよんでいいぜ!りゅうすごいな!」
「…ふぇるなんどです」
にこにこと一見優しそうな国王一家に再度頭を下げて礼を取る。
「若輩者には身に余る光栄ですわ」
訳≪やだ。≫
意味を把握した両親と国王夫妻が引きつり笑顔を浮かべる中
「そうだろう!こうえいだろう!なありゅうさわらせろよ!」
お子様第二王子はまっすぐこちらに来て、リェスラにまっすぐ手を伸ばしてきた。
が、リェスラは当たり前のように長い尻尾でパチンと第二王子の手をはねのけた。
当たり前だ、高位精霊はそこまで気安い存在じゃない。
「申し訳ありませんレナード殿下。リェスラもイェスラも私以外の者にはなつきません」
はじかれた第二王子はぽかんとして
すぐにぷるぷると震えだして
あ、やべ。と思った瞬間
「うああああああん!かあさま!あいつ!あいつが!!!」
大泣きで国王夫妻に飛びついた。
王子の名にふさわしい綺麗な子なのに、恥も外聞も無く泣きわめく姿はちょっと…うん。でもまあ確か六歳だし仕方がない物なのか…?
六歳って小学一年生か、なにやってたか全然覚えてないや。
「レオ、だめだろう。精霊は契約主にしかなつかないのだから」
「そうよ、急に触ろうとしたら竜さんもいやがるわよ」
「だって、だってえ、うああああああん!」
「ふぇ、うわあああああん!」
なだめながらもちゃんと注意する国王夫妻。よかった私が悪い認定ではないようだ。
とか思ってたら末の皇子までつられるように泣き出した。
第一皇子も騒ぎを聞きつけて増援されたメイドさんたちもなんとかなだめようとするが、一向に聞かず二人の皇子は号泣する。
「お、おばえ!」
どうしたものかと、冷めた笑みで固まっていると
陛下に抱かれた第二皇子にビシィ!と指をさされた。
「なんでしょうか」
「ひっく、りゅうお、りゅうおよこせ!そうしたらおれも、えっぐ、さわれるだろ!」
真っ赤な目でしゃくりを上げながら睨まれて、そんなことを言い出すものだから。
思わず、何をばかなこと言ってるんだろうと表情に出た。
すると唯でさえ怒っていたレナード殿下の怒りに油を注いでしまったようだ。
「なんだよおまえ!なんなんだよ!せっかく、せっかくおれたちがいわってあげるって言ってるのに!お前、おまええええ!」
「申し訳ありませんが無理です」
精霊をよこせと泣き叫ぶことが誕生日祝いとは、無いわー。
たとえ相手が子供だとしても、無いわー。
ちら、と両親を振り返ると両親は笑顔だった。笑顔でお怒りだった。
怒らせちゃったのかなとしょんぼりしながら再び泣きわめく皇子たちに向き直ると
「何を泣いているのですか、レナード、フェルナンド」
凛とした、透き通った声が聞こえた。