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0歳児スタートダッシュ物語  作者: 海華
抱っこ人形、教師になる編(第6章)
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6


実用性も確かめたので、映写機を準備室に片付けるとお昼の時間が近づいて来ていたのでエルク様と食堂に行くことにする。

昨日は利用しなかったため、食堂の利用は初めてだ。


「リリアは何にする?」


「…じゃあ、日替わり定食Aで」


「じゃあ私はBにしようかな」


食堂はこれぞ学食!といった物だった。給食のおばちゃんとか、そんな感じ。

ちなみに学費に食事代も含まれているのでお金はかからない。

教師も昼飯付きなのでかからない。

貴族の坊ちゃんが、お財布忘れて貸し借りとか揉めそうだからなのだろうかと深読みをする。


トーマがお財布忘れたとか想像するだけで面白い。

アイザック殿下が忘れたら想像を絶する気まずさだ。

ほらあの人、第一皇子だし。


さすがに食堂の順番待ちの時は下ろしてもらい一緒に並んで大人しく待つ。

一年生は今日は説明が主で早く午前の授業が終わったらしく食堂には同じくらいの子達が沢山いた。


「リリア、こっちだよ」


「はい」


料理を受け取るとエルク様が私を貴賓室に案内をするためにこっちを振り返った時だった。

後ろにいる私を見るためにこちらを向いたエルク様は、私をとおりすぎた『何か』を見て



凄く嫌そうに顔を顰めた。


エルク様のそんな顔、初めて見て驚いて私も後ろを見るとちょうどあの可愛い美少女が食堂に入ってきたところだった。


「行こうリリア」


「はい?」


何故か急に不機嫌になったエルク様に戸惑いながらも、ついて行く。チラチラと後ろを名残惜しく、その少女を探してしまったのは無意識だった。



狭い個室である貴賓室。

そこで私はエルク様の膝の上に乗せられていた。

食事はテーブルに放ってある。食べ出す気配も食べようという気もしない。


あの少女は、何を頼んでいるのかな。


「リリア」


「あ、はい」


「私以外の何を気にしてるの。さっきから」


「え?」


何って……頭に浮かぶのはあの少女。すごく気になる少女。

目の前には明らかに不機嫌で悔しそうなエルク様が居るのに。


『リリ、どうした?いつもならエルク以外興味ないのに』


『なんか今はエルクに興味無いみたい?』


精霊たちの声で、私もエルク様も固まる。

そんな、ことは……


無いと言えない。頭の中は少し見ただけの彼女でいっぱいで。

でも、その現状に違和感を覚えた。


不安そうな泣きそうなエルク様の頬を両手で包んで真っ直ぐ、見る。


ーーーーーー何も感じない。


んなわけ、あるか!!


「おかしい。なんかおかしい」


呪いでも掛けられたか、とハッとして魔力を可視化すると。


エルク様に、先程の少女の薄い空気がまとわりついていた。

いや、エルク様だけじゃない。

少女の空気は私にもまとわりついていた。


これだ。背筋がゾッとしてすぐに私の魔力であの少女の空気を振り払う。

その瞬間、

エルク様の


大好きなエルク様の不安そうな傷ついた顔が


「あ……あ、あ…」


そんな顔をさせた絶望が一瞬で体中を巡った。


「……リリア?」


「え、える、エルク様、ごめんなさいいいいいい、大好きですぅぅぅぅ」


それまで抑えられた反動が一気に来たのかぶわっと涙が零れてエルク様にしがみつく。

服がシワになるくらい必死にしがみついて泣きじゃくると慌てたエルク様が抱きしめながらあやしてきた。


「り、リリア?どうしたの、大丈夫?ほ、ほら、泣かないで?大丈夫貴女の気持ちはわかってるからね?」


「やだ、エルク様が好き。エルク様の全部がいいいぃぃぃ」


「ーーーーーなにしてんだよ」


ぴーぴー泣いていると、急に聞こえた第三者の声で涙も引っ込んだ。

貴賓室のドアを勝手に開けて中を覗いているのはトーマだった。

ハッとしてトーマを見ると彼も『あの空気』にまとわりつかれていた。


ハッとして、一瞬で空気を払うとまとわりつかれていた自覚があったのかトーマが周囲を見た。


「ああ、やっぱリリアは何とかできるんだなサンキュ」


「………なんなの、これ」


「俺も知りたい。ちょっと一緒に飯食っても良いかリリアとエルク」


エルク様も私も真顔で頷いて、トーマが部屋に入ると遮断の結界をはった。





頭がグラグラする。左右に全力で揺さぶられてる気がして目も開けていられずくたりとエルク様に寄りかかり目を閉じる。


『リリ!』

『どうしたの!』


「多分魔力酔いだ。精霊ならなんとかしてやれんだろ、リリの魔力抜いてやれ」


『……リリの魔力しか、ないぞこれ』

『リリ、わからないからとりあえず貴女の魔力全部抜くわよ』


「……おねがい」


すごい勢いで、魔力が吸い上げられる。

痛いくらいの勢いで歯を食いしばってそれを耐える。おそらく時間にしてわずか数秒。結構魔力量あったはずなんだけど、ちょっと自信なくすわあ。


魔力切れと同時にすっと症状が楽になり、ようやく目を開けることができるようになった。


「……なんなのこれ、どういうこと」


「さあ。俺も聞きたい。俺は呪いとか怖いからこのメガネで常に魔力を見てるんだが『アレ』がやたらまとわりついてきてな。怖いから守護の結界を張っていたので無事だったが、常時まとわりつかれて参ってた。だからどんな効果があるのかわからないが助かった、でいいんだよな?」


「…いつまとわりつかれたかわからないけど、エルク様への関心が皆無になって彼女が気になって仕方なくなったよ」


そういうと、私を抱きしめる力が増した。

私もそんなの勘弁して欲しいからぎゅっとエルク様にしがみつく。


「お前の、その執着を消せるとか……やばくね?」


「すっごいやばいと思う。でもエルク様は私への執着はそのままでしたよね?」


「ええ。リリアは私の唯一でしたが……先程絡まれていた生徒に無性に嫌悪感を感じましたね」


「対象ごとに効果が違うのかしら…?」


「いやでも多分間違ってないぞ。うちのクラスの奴ら、『アレ』が大好きになるか大嫌いになるかの二択らしいから」


「………『彼女』と同じクラスなの……?」


「転入生だとよ」


それはまた、ご苦労さまと言うか…。

『彼女』の被害者が多いことを懸念するべきか。

よくわからないけど彼女にはもう二度と近づきたくない。

エルク様への感情を一瞬でも喪ったことがおそろしい。


そんなことを話していると昼休み終了の予鈴がなった。

授業がない私たちは問題ないが、トーマは仕方なく授業に戻った。

もしまた『アレ』にまとわりつかれたら助けてくれ。そう言って。


「…無意識か意識してか。いやそもそも彼女のあれはなんなんでしょうか」


「私も後でそれを見てみます。それと……『影』、大至急陛下に知らせてくれ。学園で洗脳のたぐいが行われている可能性がある。殿下たちが心配だ」


エルク様が何かを言うと、一瞬空気が動いた。

が、何も起きない。おそらく城の隠密かなにかだろうと当たりをつけて、エルク様にぎゅっとしがみついた。

怖い。すごく怖い。自分が自分でなくなる感覚はもう嫌だ。


「リリアもし先程のが…広範囲ならやばい。大至急防ぐ魔道具と、あと洗脳状態の人の解除を頼んでもいいかな」


「彼女と直接かかわらないですむのなら」


コクリと頷いて、とりあえず実際に『アレ』を防いでいたトーマの事情聴取だな。そう思いながら、エルク様にくっついたまま遅い昼食をとった。

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