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0歳児スタートダッシュ物語  作者: 海華
抱っこ人形、教師になる編(第6章)
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そしていよいよ学園に入ることになった…………エルク様に抱かれて。


誇張でも比喩でもない。片手抱っこという本来なら幼児しかNGな体制で私は学園の門をくぐった。

始業式は明日からとはいえ準備のために事前に来る生徒も教師もいる。かく言う私もだが。

そんな人達の好奇の視線に晒されながらーーーー私はさとった。



これはエルク様の虫除けのためだと。

愛しの旦那様に虫がつかないように見せつけているのだと!

ーーーー同じことをエルク様が狙っている気がするのは否定しない。


重いから抱っこはもう嫌だと言ったのに

エルク様はわざわざ結婚指輪に私が作った新作の身体強化の魔法陣をつけてもらった。これでこれからも抱き上げられますね!と本当にほんとーーーに嬉しそうに言われた時はその笑顔にときめいてから遠い目をした。


そして校舎前で待機していたノンフレームのメガネをつけたトーマも私たちを見て遠い目をした。いっそ笑うなら笑って。


「よお、結婚おめでとう」


「アリガトウゴザイマス」


「ラブラブ通り越してなんか痛々しいな」


「すみませんリリアは明日からの支度があるのでいいですか?」


「良くない。が、どうせなら職員室に向かいがてら話そう」


速攻で話を切ろうとしたエルク様の腕を撫でると、作り笑顔になったエルク様は素直に頷いた。

学園は土足だったので靴の履き替えの必要もなく、そのまま中に入る。


「まずアイラたちの結婚が決まった。もし良かったら参列してくれないかってフェルからの打診だ。お前たちが来れそうな辺りを狙って式の予定を立てたいんだと」


「わかりました。後でエルク様と確認します」


「ああ、急がない。あとは手紙ありがとうな。石も。有効活用させてもらってるし複数この石欲しいんだが…」


この石、と言いながらメガネの横につけられた私の魔石を見せられた。

オシャレなデザインのメガネは一見ノンフレームだが繊細な魔法陣で飾られていてとても優美だ。

石は私の物が一つだけ。

だがよく見ると私の石の周りをトーマの魔力が囲んでいる。


魔力操作が随分上達してるようだ。


「申し訳ないんですが、その魔石は量産しないことが決められまして」


「あーやっぱりか。ならうちでリリアみたいなやつ居ないか探してみるわ」


「育成の方は順調で?」


「ああ。メガネが役に立ってぼちぼちだな。お前たちの負担にならないようにこっちでも作れたらいいんだがなあ?(訳:マル秘生産方法教えろ)」


「頑張ってくださいな(訳やだ。)」


隣を歩くトーマとうふふふと探り合いにもならない言葉遊びをする。

というかトーマ身長伸びたなあ。

それ以前にトーマは何歳なんだろう。


「まあその辺はおいおいだ。というか時間が空いた時に一緒になんか開発でもしないか?俺もそこそこ新作頑張ってるんだぜ」


「時間が空きましたら、ね」


とは言うものの、トーマは有形の魔法陣を編み出すほどの魔国有数の魔術師だ。

彼との共同研究と言うのは面白そうで、楽しそうだ。


そんな話をしていると職員室に着き、別れて中に入る。


職員室の中には教師が何人もいた。

ドアを開けて入ったことで入室音がしたせいか複数の教師がこちらを見てギョッとしているのが非常にいたたまれないが、敢えて流して冷静を務める。


「ああ、ここだ。リリア」


「はい。ありがとうございます」


沢山並んだ机のひとつの前にに降ろされて、事前に運び込まれて置かれていた荷物の荷解きをする。

隣の机のエルク様もまた然りだ。

棚を設置して、教材とノートを並べて書類は引き出しに入れる。


一通り終わった頃、目の前にいた明るいタイプの女性の先生が興味深そうに私を見ながらヒラヒラと手を振ったので頭を下げる。


「こんにちは、今日からよろしくねキャロル先生。かなり若そうだけどキャロル先生は何歳なの?」


「もう少しで10になります。よろしくお願いします」


「わっか!新入学生と一緒じゃない!え、賢者なのよね?」


「はい。深緑の賢者を拝命してます」


「若いのに凄いわねー。隣の人はご兄妹なの?たしかそちらもキャロル先生よね」


「いえ、旦那様です」


「夫婦とも今後よろしくお願いします」


「ふ、夫婦!?え、幼女しゅm…」


驚き目を見開くお向かいさんと、盗み聞きをして驚く周囲に先生。

うん、何が言いたいかわかるけどエルク様をロリコン認定はやめて頂きたい。否定はしないが。


「ま、まあよろしく!私は三学年と四学年の実技を担当してるカーラ・イザルドだよ!」


「カーラ先生ですね。全学年の魔力操作を担当しますリリア・キャロルです」


机越しもなんなので、向こう側に回り挨拶をするとカーラ先生も笑って挨拶を返しながら1口サイズのお菓子をくれた。

ついでに近くの席の先生たちにも挨拶をしていると、なんかお菓子が増えていった。

はっ、御挨拶品とか持ってきていないと慌てるとちゃっかりエルク様が挨拶しながら何かをくばっていた。

そつのない旦那様素敵です。


「なんだ賢者が教師になるって聞いたけど子供じゃないか」


不意に聞こえたトゲのある声。ーーーーーは、無視してエルク様の隣に戻って、片付けの続きを再開する。


「新時代の魔法使いとか言うから期待してたのにただの子供とはがっかりだ。俺はこんなガキの手伝いをさせられるなんてゴメンなんだが」


再開したのに、エルク様と反対隣の机の横に立った茶色の髪の青年はわざわざ私に近づいてトントンと私の机を叩いた。ので、仕方なくそちらを見る。


「初めましてリリア・キャロルと申します。お嫌でしたら学園長に言っておきますのでそれに署名をしてくださいね?」


そう言いながら青年の前にふわりと紙を浮かせて、青年が読めるようにプリントアウトで『一緒に仕事をすることが困難そうなので別の補助教員をお願いします。リリア・キャロル』


と焼き付ける。

わざわざ彼の目の前で、片付けをしながらそう言うと


青年の口がパカッと開いていつぞやの院長のように愕然とした。

内心その驚きっぷりにざまあみろと思う。


「ん、リリア、どうやらこの日程表が1枚しかないのでアイリス殿に渡すようにもう1枚作ってくれないか?」


そしてエルク様も別に家でやってもいいことをわざわざ頼んできた。確実に私というものを見せつけるものだろう。

というかこれくらいエルク様はいつも自分で書く。



「はい。1枚でいいですか?」


「ああ」


言われるがままに、今月の授業の予定表を白紙の紙に新しく焼きつける。そして焼き付けた上で、固まっている青年を見上げて首を傾げた。


「署名されないんですか?署名していただけないと学園長に提出出来ないのですが」



そう言いながらわざわざ風魔法でペンを紙の横に浮かばせる。


無詠唱による魔法。

今までの常識でありえないものを見せ続けたことにより職員室は完全静寂に包まれた。


「……悪かった。俺のできる範囲でサポートする。ヴェンと呼べ」


ふんっと不貞腐れたヴェンは紙とペンを無視して乱暴に自分の席に着いた。

それを見てふっと笑い、浮かせた書類を一瞬で燃やす。


「す、すっごおおおおい!え、何今の魔法!テスト問題作るのがとても楽そうなんだけど!!」


感動した様子で声を上げたカーラ先生のおかげで、張りつめた空気は霧散した。

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