13
「貴方は馬鹿ですか。いくら大人びていて魔法に関してはずば抜けていてもあの子はまだ九歳なんですよ、九歳。わかってますか九歳なんですよ。親しい知り合いの災害現場を見せるなんて何を考えているんですか」
「本当にすまなかった…」
「だいたいうちの娘を何度も呼び出すとかどうなってるんですか、いくら賢者になったとはいえまだ成人どころかデビュタントもまだの九歳児なんですよ」
「はい…」
「今回のことは陛下に直訴します。リリアはしばらくの間城には行かないように。貴方は行かせないように。わかったわね二人とも」
「はい…」
結局目は真っ赤になってしまい、気分は一切浮上せずグズグズになったまま時間だけが経過し
陽も暮れかけた時、私の様子が心配過ぎて見に来てくれたおじいちゃんたちに抱きしめられてから先にエルク様と家に帰された。
私の普段とは違う様子に、疑問を持った母様がエルク様に事情を聞いた時に1回。
そして仕事を早く切り上げて帰ってきてくれた父様に2回目の雷が落ちた。
無茶をしてる時の怒った母様なんて可愛いものだった。
謝ろうが床に座って反省しようがみっちりしかり続ける母様は怖かった。
ちなみに第1回で怒られたのはエルク様だ。内容は、ほぼ一緒。
子供をそんな場に連れていくなと大激怒だ。
ちなみに私も怒られた。
エルク様になんでおじいちゃんたちは爆破されたんですか、と聞いたら子供が首を突っ込むなととても怒られた。
雷が落ちるほどではなかったけど。
「リリア、今日はたくさん泣いたし疲れたろう?もう休もうか」
「はい……」
母様のお説教はしばらく続きそうなので、父様には申し訳ないけど今日は少し早いが寝ることにする。
自然な仕草で手を取られて引かれ、自室へ連れていかれる。
「お支度が終わったらおいでね?」
そう言われて一緒に寝るのは恥ずかしかったけどーーーーー今日は、誰かと一緒に居たい気持ちが強かったからこくりと頷いて部屋に入ってメイドを呼ぶベルを鳴らした。
ーーーーーーーーーーーーー
「では、リリアのために購入した茶菓子が爆発したと」
「ああ。話では予約限定品で今朝一番に並んで買ったもののリリアが来る時間に間に合わなそうだから慌てて検問を通さなかったそうだ。いつ、すり替えられたのかも、何が狙われたのかも一切不明だ。唯一の救いは魔術師も賢者もリリア歓迎のために下の階で飾り付けをしていたおかげで上の階の爆発の直撃は免れたが………だが茶菓子が置いてあった部屋で爆発がした、と言うだけで本当に菓子が原因かもわからん。誰かが侵入した線もあるし、魔術師の自演も…無くはない」
「……賢者か、リリアか、魔術師達か。狙いはどれかもわかりませんね。賢者達が最近リリアのために菓子やおもちゃを買い漁っているのはもう噂になってますし」
「ああ、うちの兵士でさえ知ってるからな。だから頼むエルク。しばらくうちの子にしっかりくっつけ。身の安全もだが、犯人探しとか言い出したら手に負えん」
「わかりました。しばらく身動き取れなくさせておきます。あと念の為に守護の魔道具を作って貰いましょうか」
「そうだな、そうしてくれ」
「では、失礼します」
頭を下げて出ていく義理の息子をみて、父はため息をつく。
リリアの側にずっと居て、自身も守っておいてくれとはさすがに言えなかった。
狙いは賢者、魔術師、リリアだけじゃない。
エルク、お前も狙いに入っているかもしれないんだ。
ーーーーーーーーーーーー
お風呂を済ませて、着替えもして髪も乾かして。
ずっと考えていた。
「イェスラ」
『ん、大丈夫かリリ』
「今回の爆発について調べてきて」
犯人を許さない。みんなを怪我させた犯人を許さない。
いつの間にか帰ってきていたイェスラにそう告げると何故かピカーっと光って、人型になったイェスラが私の前に跪いた。
「イェスラ?」
「リリがどうしてもって言ったら俺はなんでも調べるよ?大切なリリのお願いはなんでも叶えたいよ?」
「うん」
「でもな、今回のことは調べた先に居るのは犯罪者だ。1人かもしれないし複数かもしれない。リリが率先して調べたら犯人、または犯人の仲間たちがリリに目を付けるかもしれない。リリを恨むかもしれない」
『私たちのリリはすごいからね』
リェスラはベッドを埋め尽くすほどの大きさになって、私の頭と変わらない大きさの竜頭をすりすりと擦り寄せて甘えてきた。
「リリがあいつらを気に入っていて、犯人を許せないのはわかるけど。でもそんな悪い奴らに関わるようなことして、あいつらも、リリの親も、リリのちびも、エルクも心配するんじゃないか?怒るんじゃないか?」
「……確実に、心配する。でも何もしないのは……」
「うん。だからリリの気持ちはわかる。でもそういうの調べるのはリリのとーちゃんだろ?それに……精霊に調べてもらうのは、今はリリ以外にも出来る。だろ?作ってやれよ話せる道具。魔術師達にも。魔術師達もいい精霊持ってるからさ」
そう言ったイェスラはニヤリと笑った。
……そうか。私が動かなくても、何とかできるかもしれないのか。
「でもしばらく城に行くなって母様が……」
「じゃあリリアはしばらくショックで伏せてください」
「エルク様…」
突然聞こえた声に驚くと扉を開けてエルク様がニコリと笑って立っていた。気づかなかった。いつから聞かれてたんだろう。
と言うか背中を向けていた私には無理だが角度的にイェスラは見えていただろう。
キッとイェスラを睨むがイェスラはエルク様に似たニコリとした笑みを浮かべるだけだった。
何だこの2人。私が主人なのに何だこの掌コロコロ感!
「盗み聞きしてすみません。ですが見過ごせない話でしたので」
「……良いですけど。それで仮病で寝込んでどうするんですか」
「何もしなくてもいいですよ。ショックで寝込めば、あそこの方々はお見舞いに来るでしょう?」
「……確かに」
絶対に来そうだ。そのついでに、作ればいいのかなるほど。なるほど、と頷いたのにも関わらずエルク様は何故か私を抱き上げて彼の部屋に連行する。
「ショックで寝込むのでは?」
「明日の朝戻ればいいでしょう。とりあえず義母上義父上には手紙で事情を通しておきますので少し待っていてくださいね」
ぽふっとベッドに下ろされて、エルク様が何かを書いてメイドに渡す所まで見る。
それが終わると部屋の明かりが消えてエルク様が同じベッドに乗り上げて来た。
賢者トリオが傷ついて、ショックを受けたけど。
もしエルク様ーーーーそう思ったら、ゾッとして即座に抱きついた。
「リリア?やっぱり怖かったんですね」
背中を撫でられるけどそうじゃない。そうじゃないんだ。
『リリ、平気か?』
『大丈夫?』
エルク様を失うことが、想像だけでも恐ろしい。
私は強いけど。エルク様はそんな私を率先して守るだろう。彼がどうなるかなんて、わからない。
「イェスラ、リェスラ、出来るだけでいいから…エルク様を守ってあげて。助けてあげて」
だから怖くて、ついそんなことを零すと
『ぷっ、あははははは!!!』
イェスラが爆笑した。おもわず呆然と笑い転がるイェスラをみてムカムカしてくる。その羽をむぎゅっと掴むとギブギブギブと笑いながら言うもんだから、尚更腹立つ。
『いやさ、今更?俺今までなんでエルクの肩にずっと居たと思ってんの?ずっと守って助けてたじゃん』
「はっ確かに!」
『2人で守ったらリリの守りが手薄だから、私はリリを守るわ』
『ん。リェスラ頼むなー』
精霊たちのおかげで気分が楽になり。
すっとした気分でくすくす笑うエルク様に抱きついてモゾモゾと寝る体勢を整える。
よし、さあ寝るぞ!意気込んでエルク様を見上げてニコッと笑う。
「おやすみなさいエルク様」
「おやすみリリア。ーーーーーーもし、犯人を探したりしたら今後はおやすみなさいのキスをしてもらいますからね」
「さがしませんだいじょうぶです」