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0歳児スタートダッシュ物語  作者: 海華
完落ち編(第5章)
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「リリアと一緒に寝ると疲れが吹き飛ぶね」


「ソウデスカ」


こちらは朝から死にかけました。もうお嫁に行けない…!

もうお嫁さんだけど。

とてもご機嫌な旦那様からようやく解放されて、身支度を整えてからダイニングに行くと珍しくそこには父様も居た。

いつも朝早く出仕するのでほぼいないのに。


「おはようリリア。寝坊か?」


「おはようございます父様。珍しいですね、休みですか?」


「いやあ…精霊と話せるのが楽しくてつい、揉めてしまってな…」


ちょっと、な。そう言って父様が見せた腕には包帯がまかれていた。

それに父様と一緒に、父様の火の精霊もえへ?と笑ってこっちを見ていた。


……何をしていたんだろうか。少し気になったが、パンを齧る父様は言う気はないのだろう。

大人しく席についてメイドが朝食の準備をしてくれるのを待つ。


「それで、どう?エルクは協力してくれるのかしら、リリア?」


「はい。あのままの案でしたら無理があると改善案を提案してくれたうえで、今日にでも行こうと言ってくれました」


「そう。ああ、昨夜遅く届いた提案書ね。この後すぐに目を通すわ。迷惑をかけるけどよろしくねエルク」


「かまいません。昨夜はとてもよく眠れたので」


昨夜。共寝をした事実を思い出して固まると、そんな私と嬉しそうなエルク様を見て母様はにやりと笑った。


「制御をよろしくねエルク」


「任せてください」






そんなこんなで、朝食が終わると爺が昨夜頼んでくれていた紙や木炭、それから薪を商会にとりに行ってからエルク様と孤児院に赴いた。


家から馬車で二時間。

比較的王都よりの我が領の町にある孤児院。

訪問の知らせはしてあったため難なく院の中に通されて馬車を降りる。


エルク様のエスコートで馬車を降り、初めて見た孤児院。



「……」

「……」

「……」


ガラスのない窓から、たくさんの子供たちがこちらを凝視していた。


「ようこそいらっしゃいました、キャロル様。私が院長のカルと申します」


「初めましてエルク・キャロルと申します。この度は突然の訪問をお許し下さりありがとうございます。こちらは妻のリリアです」


エルク様が主導になりおや?と思うが私の見た目は子供だし、嘘は言ってないしとりあえず任せてぺこりと礼を取る。

院長は驚いて私とエルク様を交互に見るが、すぐに我に返りどうぞこちらへと応接室に通された。


院は見た感じ清潔だが、やはり子供のいるところだからか壁に落書きを消した跡などがあって微笑ましい。

そして案内されて道を曲がるとき、私たちとすれ違った少女が慌てて頭を下げた。


「よ、ようこそ!」


貴族の礼とは違うがきちんと頭を下げて挨拶する姿は好感が持てる。


「ねえ、貴女…お花は好き?」


「は、はい!?す、好きです!」


だからアピールもかねて。

声をかけられて慌てる少女に向けて手を出し……目の前に氷の華を作った。


「貴女に似合うと思うわ、そのお花。溶けるまで愛でてね」


「リリア」


「今行きます」


少女が驚きながら受け取るのを見て、少し先に行ってしまっていたエルク様を追いかけて駆ける。

そして院長に連れられて、私たちは応接室へ入った。





「新しい魔法を教えたい、ですか…」


「はい。覚えのいい者は侯爵家で集中して学んでもらい各地で教師や仕事を斡旋させてもらいたいと思っています」


仕事のできる旦那様、かっこいいわあ。

きりっとしたお仕事モードのエルク様をちらちらとばれない様に見て惚れ直しながら、持ってきた書類を渡す。


「この魔法は来年から学園で教えることが決まっている魔法で、危険なものではありません。そしてこちらがその魔法についての論文を簡略化したものです」


差し出された書類を、院長はしっかり読んでいた。

ぺらぺらと、紙をめくる院長。ぼそりとつぶやいた「無詠唱…」という言葉は無意識なのだろう。彼の目はとても輝いていた。


「私たちは侯爵家の者です。ですが断られても寄付も援助もこれまで通りと約束しましょう」


読み終わったタイミングで、暗に結論を促す。

やや興奮した院長の様子を見れば結果はわかったも同然だ。


「お受けします。もし本当に無詠唱の魔法が、精霊がいなくても出来るのならば凄いことですから!」


「そうですか、リリア」


「はい」


窓の外から、いつの間にか子供たちが数人覗いていた。背を向ける院長は気づいてなかっただろうが子供たちに笑顔を見せてからーーーーふわりと白紙の紙を宙に浮かせる。

それだけで院長も子供たちも驚愕した。

そんな彼らの目の前で、わかりやすく紙に契約書の文面を焼き付けていき……最後には院長の手元へと飛ばした。

恐る恐る契約書を見た院長が私を凝視していた。


「改めてよろしくお願いします。今回講師を務めます深緑の賢者のリリア・キャロルです」


そしてポカーンとあごが落ちた。


「すげえ!!」


「はっ!お前たち!何をしている!」


のぞき見隊の声で我に返った院長は、子供たちを叱りそのまま契約書にサインをした。

これで、この孤児院で魔法教育をすることが決まったーーーー。






「こんにちは」


『こんにちわー!』


まずは挨拶をさせてください。

そう言って今集められるだけの子供たちを広場に集めてもらった。

赤ちゃんから、私よりも年上の人まで。おおよそ30人ほど。

それから世話を手伝ってくれてる人達と、院長とエルク様が集まった。


「まず、これを見てください」


本当は手振りはいらないが、わかりやすくするために手を前に出す。水を出す魔法を発動させるとそれだけでわっと子供たちが沸く。

さらに水を出し続け、一定数の水がたまるとそれをさらに上に持ち上げて範囲を広げーーーたくさんの氷の花畑を作る。


『わあー!』


しかし、それは一瞬で砕ける。

細かい細かい氷のつぶはすぐに溶け、地面に落ちて地面を濡らす…と、地面がウゴウゴと盛り上がりーーーー私と同じくらいの泥人形ができた。

泥人形が自分の手を見つめると、ニョキっと泥の剣が生える。そしてそれを振り回してポーズを決める。

それと同時に泥人形の周りに閃光魔法できらきらさせて、終わりだ。


泥人形がカッコイイポーズをとる横でぺこりを頭を下げると、大歓声と共に拍手が沸き起こった。

すごい、すごい、綺麗、今の何、魔法?でも詠唱してない、魔法陣もない、とざわめく子供たち。



掴みは上手くいったようだ。と内心ガッツポーズをとるがエルク様は頭を抱えて院長はまた顎が外れていた。


「これは私が編み出した新作魔法です。絶賛弟子募集中なんですがーーーー覚えてみませんか?」


こて、と首を傾げて質問の形で言うと

子供たちは勢いよくハイハイ!と手を挙げていた。

よし、いっぱい釣れた。


本当は今日は意思確認だけで済ませる予定だったけど子供たちがあまりに熱心だったので。

その場にいた全員と握手をして、子供の魔力を外に放出させる。


全員にその感覚を教えてから

「数日後また来ますので、夜寝る前に毎日魔力を出せるだけ出しておいてください。魔力を外に放出させる特訓ですよ」


『はい!!』


元気だなあと思いながら最後に院長に挨拶をして

エルク様に抱き上げられながら、初めての孤児院訪問は終わった。

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