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幸せなお昼寝から目覚めると
予言が的中した現実が待っていた。
訪問も伺いの手紙は30通を超え、最終的には紅蓮の賢者により次来た時にできる範囲で作ってやってくれ。で終わった。
この分ではトーマに送った方の手紙からも注文が殺到しそうだ。
むしろ話が広まったらすごいことになりそうだ。
切実に、切実に魔力操作を広めなくては。
私の最近の魔力操作の腕前はトーマの暴走事件しかり
魔術棟で限界まで他者の魔力で魔石を作ることしかりで、かなり上がっている。
上がってはいるが、常に求められているものがまるでRPGのように順序だてて難易度があがっていってて辛いんだ!
来年、学園で超がんばろうと決意する。
むしろ学園だけじゃ足りない。孤児院の慰問などで教えるべきか。そうだ、それがいい。
そうと決まれば早速近場の孤児院のリストアップだ……!
仕事を再開していたエルク様に頭を下げて書庫へダッシュした。
「……イェスラついて行って。あれはなにかまたやらかそうとしてる気がする」
『奇遇だな俺もそう思うよー』
えーっと孤児院はここと、ここ。
寄付金は、んー足りてそうかな。
最近うちの領は潤ってるから孤児院までしっかりお金が行き届いてるようで、さすがです母様。
記録と寄付リストから、必要そうなものの当たりをつけて……あと紙と、木炭かな。
必要なものを書き出して、これは後で母様の許可を貰って爺に頼む。
あとは孤児院で許可が貰えたら魔法を教えたいが、やる気満々だった皇子達のようには行かないだろう。
嫌だと思われたら終わりだ。
男の子にスゲー!と思わせて、女の子に素敵!と思わせる
無詠唱ならではっぽいもの。
『リリ、何してるの?』
「ん?孤児院とかに魔法を教えに行こうと思って」
『リリはまた、しょいこもうとする…』
「まあまあ、初期投資だよ。頑張れば成果は大きいと思うよ」
そもそも学園の教師になるのも初期投資だし。
孤児院の子達には悪いが、教師の練習もさせてもらいたい。
一応前世では後輩に何かを教えていたような記憶がうっすらあるから行けると思うが…
うーんうーんと考えて、悩んで。
一通り案がまとまって、それをプリントアウトして母様に提出をする。
「悪くは無いわ。悪くは無いけどこうする理由は何?領地の今後を考えたらありがたいけど無理をして教育は施さなくてもいいと思うのだけれど」
「1番の理由はそのカフスです。私の魔力はちょっと特殊らしくこのままじゃ私ひとりで作らないと行けないので人材を1人でも多く育てて発掘したい。それが1番ではあります」
「1番ということは、他にもあるのね。続けなさい」
「ほかの理由としては魔道具ギルドの方が深刻な人手不足に陥ってます。1人でも多くの魔力操作が可能な人材が欲しいですが……ほぼ貴族の方々が通う学園で、果たしてどれだけの人が民間の会社で働いてくれるでしょうか」
「そうね。最悪貴族たちの間だけでの魔法になる可能性も否めないわ」
書類をじっくり読んで母様は目を閉じた。
不備は無いはずだ。きっちりといつも通りに予定案をまとめあげたから。
けれど、母様の反応はすこぶる悪い。
「貴女、何か勘違いしてなくてリリア?」
「はい」
ややあって、落とされた母様の声は怒りだった。
「あなたは自分が神かなにかと勘違いをしてないかしら?確かに貴女のもたらしたものは恩恵が大きすぎてむしろ世界を変える一手よ…でも、あなたは……」
怒りだと思ったけど、怒りじゃ、なかった。
そこにあるのはひたすら子を心配する母だった。
まだ子供なのに。そう続くのだろうか。
でも、それでも、やりたかった。やりたいことを、やりたかった。それにゲームスタートは1秒でも早い方がいい。才能というものもあるが、経験した時間は確実に身になるのだから。
1秒でも早く先に始めたい。それは私の行動理念だ。
「母様、ごめんなさい」
「リリア…」
「母様の娘である以上、これからもたくさん心配をかけます。かけまくりますが、ごめんなさい。頑張らせてください」
開き直って頭を下げる。
母様の反応は、無い。
まだ頭を下げ続ける。
やっぱり反応は、無い。
え、やっぱり都合のいいこと言いすぎてダメかなあ?と不安になってくる。
「もういいわ、リリア。貴女はもう好きになさい」
「母様…!」
「ただし!エルク様と一緒にね!」
「母様!私の我儘にエルク様をつきあわせるなんてあんまりです!」
「お黙り!貴女を御せるのは最早エルクのみ。そしてそのエルクは最早貴女の旦那!連帯責任でリリアをセーブすることしか、私にはもう出来ないわ」
「エルク様は城でのお仕事もあるんですよ!」
「知らないわ。だってどんなに注意してもリリアったら仕事ばっかり増やすんだもの」
「かあさま〜!」
「許可なく動くことは決して許しませんからね」
その後どんなに謝り通しても、エルクと一緒でなければ認めない。という案を母様は取り消さなかった。
どうしたものか。エルク様は私よりも仕事量が多いし、城に家にと忙しいのは知っている。お手伝いをするのは大歓迎だが、機密情報とかもあるし…。
エルク様の部屋の扉を開けてそっと中の様子を見る。
今は仕事じゃないのかな?エルク様は本を読んでいた。
ううむ、孤児院で魔法訓練はしたい。すごくしたいが、エルク様の手間を取らせることはしたくない。したくないが、母様が許してくれない。
『リリー、入らないの?』
「まだちょっと結論が出てないから待って」
『ふうん…?』
肩の上のリェスラが中を見てこちらを見る。その含みのある言い方が気になったが、今はまだ結論出てないから後回しだ。
極論やるか、諦めるかだ。母様の事だから抜け道は許さない。
聞けばいいのだけど、聞けばいいのだけど
エルク様、私に甘いからなあ。
無茶して同行してくれそうで、申し訳なくて聞きにくい。
「うーむ、とりあえずエルク様のお仕事状況を把握してから……」
もう一度コソッと覗き見るといなかった。
「あれ……?」
椅子の上には、誰もいない。
エルク様の読んでいた本が机の上に置かれているだけだ。
キョロキョロと部屋の中を見回すがベッドにも、ソファにもテラスにも居ないっぽい。
「それで、今度は何を企んでるんですか?リリア」
エルク様の声は上から聞こえた。
ビシッと固まってギギギ…と上をむくと
いーい笑顔のエルク様が見下ろしていた。
「え、えへへ…?」
にへらっと笑って
即座の逃亡はあっさり捕獲された。
脇の下に手を入れられて抱き上げられた。
くっ…!
「義母上からもう聞いてますよ。リリアが新しいことをしようとしていると。私が一緒でないと今後許可をしないとも」
いつの間に。
ソファの上でしっかり抱き込まれて最後の抵抗で目をそらすと頬を撫でられて真っ直ぐエルク様を見るように促された。
「さあ、今度は何を企んでいるか素直に言いましょうね?」