5
「というわけで、大量生産の目処はつきそうです。レンタル用の金型の発注も問題なく進んでいますので魔道具ギルドとしては他領の職人のギルド加入を募集します。また一定以上の職人が集まりそうでしたら支部を作る予定です」
「わかりました。では国の名の元に魔道具ギルドに加入してメガネを生産してくれる人員を募集しましょう」
「わかりました。来月の希望発注数は如何程になりましたか?」
「いくらでも、ですね。魔国が際限無しに注文をしてくる上に聖王国に連合同盟国も注文をしてきています。大量生産が開始されたら大手商会の方にも話を振ってみようかと」
「そうですね、ボリューム次第では手が回らなくなると思われますので専門家を通すのは良い案かと」
メレと共に登城をして、エルク様とメガネ生産の進捗をすり合わせながら進める。想像以上の予約っぷりに、ちょっと手に負えなくなって来た感じはするがそれでもなんとかやりくりの努力をする。
だが、こんなのひとりじゃ無理だった。
王宮側で受注管理をしてくれているエルク様がいなかったら、とっくに潰れていただろう。
「リリア?どうかした?」
「素敵な旦那様に惚れ直しています」
寂しくないよう、うっとり見つめながら素直にいえばエルク様の頬が染まった。赤らむ頬のエルク様も素敵ーーー
トントンガチャッ
「エルク居る……うわっ」
「返事くらい待ちなさいレナード」
ノックしたくせに即入ってきたのはレナード殿下だった。
学園服でなにか書類を持っていることから学園帰りなのだろう。
ちらちらとこっちを見るが無視してお茶を飲むと、しょんぼりしながらエルク様に歩み寄って行った。
「悪い。これ、学園長から」
「ああ、わかった」
書類を受け取り、すぐに封を開けて中を見るエルク様。
私にはあまり見せない厳しめの顔で、そんなエルク様も(ry
「どうした?まだなにか用があるのか?」
「いや、うん…なあ、お前らって婚姻したって本当なのか?」
「ああ。学園に入った時に未婚だと余計な虫がつきそうだったからな」
そうだったのか。
でもそういえばそうか。エルク様はこんなに素敵だし、余計な虫がつく可能性は大いにありうる。納得しつつ茶菓子に手を伸ばすとリェスラがパカッと口を開いたのでそこに茶菓子を突っ込む。
『リリ、俺もちょうだいー』
「はい、イェスラ」
エルク様の肩から飛んできたイェスラにも一つ出すと嬉しそうにサクサクと食べた。小竜と寄り添って食べるさまは可愛い。
いらない紙にさくっと陣を書いて、小さな魔石を作って差し出す。
すると2匹とも頭を出してきてぶつかって、リェスラが魔石を食べた。きゅるるーと切なく鳴いたイェスラも可愛いのですぐにイェスラにも魔石をあげた。
『なあなあリリ、この魔石って焼いたらどうなるのかなー』
「焼く?食べるために?」
『そうそうクッキーに混ぜたら美味しそう
『私はカップケーキに入れて欲しい』
魔石を、食べるか。
その考えは精霊ゆえのことなんだろうけど、魔石を食べたらどうなるんだろうか。
もうひとつ魔石を作ってじーっとそれを見る。
パッと見ただの宝石だ。お世辞にも美味しそうには見えないがーーーーーー。
魔石を口に入れようとすると、横から手が出てきて止められた。
「何を食べようとしてるんです」
「はっ、いや、精霊たちがお菓子に入れてって言うから…」
「人間が食べた場合の安全性は保証されているのかい?」
少し怒った様子のエルク様に、まさか食す1人目になろうとしてるとは言いきれずに笑ってごまかすがあっさり見抜かれたらしく魔石は没収された。
「安全性が確保されるまでは食べてはダメですよ」
「はい……って、レナード殿下は?」
「追い返しましたよ。もう用はありませんし」
ムスッとしたエルク様に魔石の代わりに菓子を口元に差し出される。特にためらわずにそれを咥えれば、エルク様は満足そうに席に戻った。
「そういえば鳥よけネットの量産の方はどうですか?」
「あれは冬季の間の繋ぎ仕事ですので、他の領地の方々が欲しければご自分たちで作った方が良いと思いますよ?」
「そうですか…じゃあ水が出るパイプの納品の方はどうですか」
「国に納める分は来月までには完成するかと。追加発注を御希望の場合はメガネの方が落ち着いてからになりますね」
「ふむ、なんとかメガネの他の注文も学園に行く前に済ませてしまいたいですね」
「そうですねえ。善処したいですが、ちょっと受注が多すぎるのが現状ですね」
エルク様の傍に行って、注文書を一緒に見る。
キャロル家にも回されているそれと同じはずの注文書は下の方に殴り書きで二品目追加されていた。
増えてーら。
「まあ最悪私も手伝います。私、魔道具作るの早いんですよ?」
ニコニコしながら任せてください!と胸をはる。
が、エルク様は厳しい顔をしてから考えて…切なそうに目をふせた。
「リリアの手作り品を、あまりばらまいて欲しくはありません」
「ソルトたちに頑張って貰います!」
くっ、エルク様が嫌なら最終兵器私は使えないか。
ならばどう解決するか。それらを真剣に考えると嬉しそうに笑ったエルク様に抱き寄せられて、膝の上に乗せられた。
「リリアは私に甘すぎますよ」
「全力で甘やかしますのでどんとこいですよ!」
「……ありがとう。私以外にはそんなチョロくならないでくださいね」
「……リズにも、甘くなっちゃいます…」
「まあ家族なら」
くすくす笑われて、頭をなでられて。
チョロインの自覚はとてもあるが仕方ない。私はエルク様の望みは叶えたいんだ。
「りりたんが出たぞー」
「おおぉぉぉぉぉぉ!」
しばらくしてからの、2回目の魔術棟への訪問。
今回は魔力を無駄遣いせずほとんどフル充電に近い形でやってきた。無論安定のエルク様抱っこで。
というかエルク様は魔術棟では私を離す気は無いようだ。
理由はなんとなくわかる。さらいそうな人が沢山いて、私も研究に入ると目の色を変えて帰って来れないかもしれない自覚が、ある。
「りりたんや、ほれほれ美味しいジュースじゃよ」
「予約販売のケーキも買っておいたぞい」
「魔石の実験データも集めておいたぞい」
三賢者に差し出された物のうち、迷わず魔石のデータを手に取る。
・魔石は砕くことも可能。その場合の魔力容量は破片の大きさによる
・魔石は熱で溶けない。
・魔石の魔力は純度による。
・魔石を食べると魔力酔いをする。ただし極微量なら魔力が回復する。糞で魔石は排出はされない。全て溶けきる模様。
・魔石は水に溶けない。お湯にも溶けない。
・硬さは石程度。
ごめんなさい、糞まで調べたんだろうか?と妙なとこが気になった。
まあ色々と試してくれたんだ、と感心する。
そして2枚目のプリントを見てーーーー固まった。
1枚目は魔石自体の硬度や性質についてで、2枚目は魔石の色別の特性が書かれていた。
が、問題はそんなものでは無い。
2枚目のプリントの下の方にはーーーーーー
いい笑顔でこっちを見る三賢者の姿が“まるで写真のように”綺麗に描かれていたからだった。




