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0歳児スタートダッシュ物語  作者: 海華
完落ち編(第5章)
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4


『おーいリリー』


「ダメ、だめええええええ!」


現在私は篭城中である。

朝、空腹で目が覚めた。

そういえば昨夜ご飯食べてない……と思った瞬間記憶が蘇り悶絶した。

勘違いなんかじゃない。プロポーズされた、プロポーズされた…!


『リリ落ち着いてって』


「無理、無理ぃぃぃぃ」


こんな予定じゃなかった。そりゃ幸せにするって約束したけど。

まさかプロポーズ受けるとは予想外だった。いつか他の人を好きになったエルク様を見送れる自信はなかったけど、されるとは思ってなかった…!


「ぷ、ぷ、プロポーズ…」


ごうごうと唸り荒れる魔力。

それでも周りに迷惑をかけないように結界で私を閉じ込めてから、暴走する。


そう、暴走。

少し成長をしてテンパった私は魔力を暴走させていた。


『リリー、エルク来るぞー』


「止めてイェスラあああ!」


『いや、俺止めに行っちゃったら結界壊れちゃうってリリー』


「あうあうううううううう」



そんな感じでベッドの上で暴走をしていると、

ついにコンコンと部屋の扉がノックされた。



「おはようリリア。メイドさんがリリアが出てこないって言ってるけど…」


「だ、大丈夫ですうううう!」


裏返った声で悲鳴のような返事をするとガチャッと扉のドアノブが回った。

だがしかし残念だったな!扉はリェスラ(大)が開かないように前に座ってるんだよ!


「リリア?様子が変だけど、大丈夫?」


「も、問題ないので放っといてください…!」


ああ、こんな言い方をしたらエルク様が心配しないわけがないのに。

ますます心配させるーーー!さらに混乱して、ついにバギっとベットがまっぷたつに割れた。



「………………昨日のことは忘れてください」



不意に聞こえた、感情のない声に。

暴走も、混乱も、全てが止まった。


「貴女の優しさに付け入る真似をして申し訳ありませんでした」


違う。違う。ちょっと待って。

ちょっと暴走したら元通りになるから、ちょっと待って。


「私に優しくしてくれて、愛情をくれて、ありがとうーーーーリリア」


目の前が、真っ暗になった。

気絶とは違う。絶望で真っ暗になった。



気がついたら、廊下のエルク様の前にいた。

驚くエルク様の目にはうっすら涙が浮かんでいて、自分勝手な自分のした事に怒りがわく。


「り、リリア!?」


魔力暴走で破れた寝巻きで、寝癖の着いたボサボサの髪で。

みっともない格好のままエルク様にずかずかと歩み寄る。


そしてエルク様の胸元をつかんで引き寄せて




唇を、奪った。



「私はまだ小娘だけど、愛も未来も私の全てをエルク様に差し上げます。だからーーーー貴方の全てを、ください」



そういうと、エルク様は涙目のまま笑ってすがりつくように私を抱きしめた。


「あげます。あげますから、私の『家族』になってください」


「はい」


「私の、リリア」


「はい。」


抱きしめて、抱き返して。

静かに泣き出したエルク様をなだめて。私もつられてボロボロ泣いて。


苦笑いの母様が止めに来るまで私たちはずっと抱き合っていた。







「じゃあ婚姻証明はすぐに出しちゃうわよ。ただしエルク様、娘が成人するまでは…わかっているわね」


「もちろんです」


「貴方も泣かないで。婿を貰ってもリリアはうちの子よ」


「わかってるが、わかってるがうちの娘が…!」


エルク様にプロポーズされて、プロポーズを返してすぐに

私とエルク様は婚姻証明を国に出すことにした。

この国は出そうと思えば0歳でも婚姻届は出せる。政略結婚などではよくあることだ。とは言え、大体の場合は親が世間体を考慮して成人まで待つものだが…。


私の場合知名度が爆発的に上がり、婚約者が居ると言って回ってるのに婚約の打診が大量に来ていることから婚約者の肩書きでは私を守ることに不都合が出てくる。そう予見した母様によって婚姻届の許可が降りた。


キャロル家は私をしっかり守れる相手が欲しい。

王家は私を逃がしたくないからさっさとくっつけたい。


そんな両家の思惑と、

私たちは当人同士の意志もあって、婚姻はあっさり結ばれた。これで明日からエルク様はうちの婿だ。


「結婚式はリリアの成人と同時に。侯爵の引き継ぎは成人後折をみてするけれどエルクもリリアもいつでも継げる様に今まで通り働きなさい」


「わかりました」


「あとはエルク、今夜からリリアの隣の部屋を使いなさい。改めて言うけど妊娠は成人まで控えるように」


「わかりました」


ふふふ、と笑いあって。

手を繋ぐ。


「えるくにーたま?」


「そうよリズ、エルクは今日から正式に家族よ」


「父とは、父とはまだ呼んでくれるな…!」



そしてリリア・キャロルと

エルク・フォン・ルクセルは書類上は正式な夫婦となった。



そして幸せになり、めでたしめでたし









とは当然行くわけが無い。





「え、もう結婚しちまったのかお嬢」


「ええ、ソルト。というわけで今後はエルク様が私の名代で来るかもしれないから宜しくね」


「かー、まだ9歳だろ?あの若造も余裕がねえなあ」


「そこも含めて愛してるから平気よ。それよりソルトメガネの進捗はどう?」


「ああ、メガネな……」


魔道具ギルドギルドマスターになったソルトにメガネの大量生産について話す。

この度、可視化メガネは正式に我が国も特産物として大々的に売り出すことにした。

国全土での作成方法の情報開示の条件として、可視化メガネは全て魔道具ギルドを通して販売するものを正規品として保証することになった。


つまり誰が作っても魔道具ギルドに手数料が入るのだ。もちろん粗悪品などの検品で手間はかかるがそれを持ってしてもお釣りが出るくらいだ。


「今までのフレームに魔法陣を焼き付けるスタイルだと小間物作業特化の業者しか作れねえだろ?だから新作のメガネは頬の横のフレームあたりにこんくらいの魔法陣の板を取り付けようかと。これならジグのおっさんの金型も使えるし、手間はレンズと魔法陣を繋ぐくらいだからやりやすいかと」


「なるほど。魔法陣用の板をサイドフレームに取り付けるのね」


「おうよ。んでこれが試作品とジグの旦那の試作金型だ」


言われて差し出されたメガネをつけてみる。

つける時に持つ横の部分に1センチほどの鉄板がありそこに魔法陣が刻まれていた。


少し着けにくいけど、つけてみると気にならない。

若干の重さはあるがこれくらいなら常時つけるわけではないのなら気にならないだろう。


発動も問題なく、ジグさんの金型も見てみる。

ジグさんは大物の武器防具職人とは思えないくらい、細やかで精巧な魔法陣を作れるようになった。

その出来に正直感心する。私にはこんなすごいもの、無理だ。


「すごくいいと思う。でも既存のレンズフレームに刻印するものも高級品として売り出したいけど平気?」


「ああ、そいつは量産には向かねえから作り方を開示しない方向で、キャロル領オリジナル品にする予定だ。こっちはあくまで大量生産用だ」


「ならいいわ。では予定通りジグさんの金型は魔道具ギルド所属ギルドのみのレンタル品で、魔素鉄及び魔素粉、こっちのメガネはキャロル領オリジナル品の販売でいいかしら?」


「おう。正直今でもがっぽり儲けさせて貰ってるがこれでさらに爆発するぞ」


「期待してるわ。ただ、規模が大きくなると手が回しきれなくなるでしょうがそちらは平気かしら?」


「そっちは数人いるからまだ平気だが今後を考えて人材育成中だな。あーそうだ出来たら経済法律系に詳しいやつを侯爵家から回してくれないか?」


「わかった、母様に相談しておくわ。なるべく早く回せるようにするわ」


きっちりした見積もり書と、予定案と、諸々の書類をカバンに入れてメレに預ける。

とりあえず、魔道具ギルドの方はなんとかなりそうだ。


「メガネの特産品化が落ち着いたら、また私の新作案に付き合ってちょうだいね、ソルト」


「おう。もし急ぎならアジかダディに言ってもいいぜ。あいつらはまだ余裕があるはずだし、お嬢が行ったら喜ぶだろ」


「じゃあ落ち着いたらみんなに声かけるわ。なんだったら美味しいご飯でも一緒に食べましょ」


「酒がいいけどお嬢はまだ飲めねえからなー」


ゲラゲラ笑いながらも、書類を見るソルトに手を振って魔道具ギルドを出る。


魔素粉、魔素鉄の製法はまだ秘匿だが、新型魔道具の作成情報の開示で世界は荒れるだろう。

世界を相手取るのは王宮に任せたとしても、ソルトの肩に乗る責任は重い。

これからは慎重に行かねばと思いながらメレの護衛の元馬車に乗った。

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