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エルク様の膝枕で少し仮眠をとると、魔力は少し回復して気疲れは完全回復した。
『リリ大丈夫?』
「平気だよリェスラ」
お腹の上に乗ったリェスラが心配そうに擦り寄ってくるのでなでなでと背中を撫でる。
気がつけばイェスラも私の額の上で小さな小鳥姿で抱卵体勢で乗っていた。
『リリー襲うなよー』
「なに言って…」
イェスラを退けて起き上がると……エルク様は目を閉じて寝ていた。長いまつ毛、きめ細やかな肌、さらさらの髪。
萌の全てを集めたその寝顔に胸が高鳴る。
こうして改めて見ると、やっぱり王子様だ。
寝顔まで美しいとか犯罪だ。
半開きの口でヨダレとか垂らしてたら人間っぽいけど、そんな隙を寝てるときですら見せない麗しさに降参するしかない。大好きだ。私何回も彼の前で寝てるけどヨダレとか大丈夫だろうか。慌てて口元を拭っても何もつかなかった。
『最近エルクも忙しいみたいだからなー。来年の学校準備で』
「ああ、メガネの発注も請け負ってるしねえ。トーマがアホみたいに欲しがるから折り合い大変そうだよね」
『魔国が欲しがるアイテムってんで、違う国からも来てるみたいだぞー。魔素水を使わない魔道具のレシピをほかの領土への公開と、魔道具ギルドの店舗拡大も急いでるぜ』
イェスラは、最近はずっとエルク様と一緒にいる。私が賢者になってからはちょくちょく帰ってくるけど基本的にエルク様と一緒だ。
賢者を拝命してから、私の名は国内外で一気に有名になった。
そのせいでいい意味でも悪い意味でも私に近づこうとする人が増えて…イェスラは私の弱点を守ってくれている。
エルク様はすごい。魔法無しでも剣も、勉強も出来る天才だ。
でも私の魔道具があるからと言って安心は出来ないのでそこをイェスラが守ってくれている。イェスラもエルク様を気に入ってくれてるようで何よりだ。私の愛する相手というわかりやすいアピールにもなっているし。
「無理しないで欲しいなあ」
『私から見たらリリもエルクも働きすぎよ』
何故かご機嫌を損ねたリェスラがぷりぷり怒りながら眠るエルク様の膝の上に乗った。そして青白く光る。どうやらエルク様に何かをしているらしい。
『お、リェスラやっさしー。じゃ俺もやっといたろー』
そんなリェスラをみて、イェスラもエルク様の頭の上に乗って薄緑色の光を放った。こっちもなにかしているらしい。
「良いなあ。私もエルク様を癒したい」
『じゃあくっついてやれよ。こう見てエルク、寂しがり屋だから』
「それ私のご褒美だよ」
ケラケラ笑うイェスラは私の知らないエルク様を知ってるようだ。ちょっと悔しかったが、言われるとおり隣に座ってぴったりと寄り添い合う。
すぐに私にもたれかかってきた重さが愛おしい。
このままずっと、支えていけたら良いのになと思いながらもう一度目を閉じた。
ゆらゆらと、揺れる。
ああまた寝ちゃったのか、とどこかで思いながらぎゅっと何かに抱きつく。
暖かなその温もりは、すごく安心して。一緒にずっといたくて。眠りから覚めるのがもったいなくって、そのまま夢を希望する。
「ねえたま!」
天使の呼び掛けにくわっと目が開く。
即座に妹を探すために辺りを見回すと、困った笑顔のエルク様と走ってこっちへ来るリーズレッドがいた。その向こうにいる必死の形相のリズの乳母を見てーーーーはっと頭が覚醒した。
「リズ!走らないの転ぶわよ!」
慌ててエルク様から飛び降りてリズに駆け寄ると、リズは私の前でタイミングよくつまづいた。
ふわふわドレスの柔らかな体を抱きしめ、冷や汗をかく。危ない危ないうちの天使が怪我するとこだった。
「リズ!走ったら危ないでしょう?」
「ごめんにゃしゃいー」
めっと叱るもリズはスリスリと甘えて嬉しそうで話をまともに聞いてない。
私としてもその可愛らしさに許さざるを得ない。
「り、リリアお嬢、さま、もうしわ、ありませっ…」
「リズは突然走り出すから気をつけてね」
本来ならリズを危ない目に合わせた乳母を叱らないと行けないのかもしれないけど、これは完全に飛び出したリズが悪いから仕方がない。
リズの本気のダッシュは並の人間では止められないだろう。
ーーーーー私が私ならば、その妹のリズも流石であった。
リズは3歳の幼さで無意識かどうかわからないが、身体強化の魔法を使うようになっていた。
母様も父様も私という前例がいるせいで普通に感じているようだが、決して普通ではない。でも可愛いうちの天使だ。
「ねえたま、えほんよんでくだしゃい」
「わかったわ。じゃあお休みの絵本を選んでおいてね」
「あいっ!えらんできまちゅ」
そう言ったリズはぺいっと私の腕から離れて再びダッシュをーーーーーしたが、先回りしていたエルク様によって抱き上げられた。
「あう?」
「あう?じゃないでしょ?走ってはダメよリズ、ちゃんとカレラと手を繋いで一緒に行きなさい」
「むー。かえら、はやくはやくぅ」
「はい、リーズレッド様。ありがとうございましたエルク様、リリアお嬢様」
捕獲されたリズはカレラに引き渡されて、リズはカレラの手を引っ張って去っていった。あの突っ走るとこも……血筋かなあ、とため息をつく。
「色々とありがとうございますエルク様」
「いえ。賢者殿達も戻られない感じでしたしリリアも疲れてたので連れて帰ってきました。大丈夫でしたか?」
「エルク様の采配ならなんの問題もありません。でも重いですから次からは起こしてください」
「嫌です。私リリアを運ぶのが好きですから」
「なんですかそれはもう」
くすくす笑い合いながら、イェスラが言った『寂しがり屋』という言葉が思い出される。
確かにしょっちゅう抱っこされるし、もしかしたらエルク様は寂しいのかもしれない。
「リリア?」
寂しいなら、くっつくから。
エルク様の腰に手を回してむぎゅっと抱きつく。
するとポンポンと頭を叩かれて、力を緩めて見上げると隙をつかれて抱き上げられた。
「エルク様、本当に抱っこするの好きですね」
「……捕まえておいたら、居なくならないかなって思ってしまって…」
ボソリと呟いたエルク様の言葉に
ずっきゅうううううんと胸を貫かれた。
健気なエルク様に。怖がるエルク様に。暗に居なくならないでとねだるエルク様に。
これは多分幼少から両親がいなかったからだろうか。
その不憫な身の上を思うとやりきれないが、が、が、
可愛すぎるやろおおおおおおおお!
エルク様の首に手を回して私からも絞めない程度にくっつく。
「エルク様が望む限りずっと傍にいます。なんなら首輪でもつけましょうか?」
転送とか、位置情報がわかる首輪でも作ったら喜ぶだろうか。
前世でもGPS発信機とか普通に流行っていたし、そういうのを売りに出してもいいだろう。貴族とかは迷子防止とか浮気調査で好きそうだし……。
そんなふうに商売について考えていると、しゃがんだエルク様に地面に降ろされた。
あれ?抱っこはもういいのかな?と首にまわした手を離すと、
手を取られ、私と目を合わせたまま
指先にキスをされた。
「首輪よりも、ここに永遠の愛の証をつけて欲しいな」
指先に、永遠の愛の証。
それはプロポーズの言葉だった。
甘えるような強請るような、色気溢れる金色の瞳に魅入られて。
「り、リリア!?」
コクリと頷いた瞬間、私の意識はぶっ飛んだ。
それは数年ぶりのエルク様ショックによる気絶だった。
くっそ、くっそおおおおお。
カメラなんでまだ作れてなかったんだわたしいいいいい!




