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0歳児スタートダッシュ物語  作者: 海華
完落ち編(第5章)
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2


「どうぞ。他にも子供が好みそうなものはだいたいありますのでご希望があれば言ってください」


「ありがとうございます、大丈夫です」


外は外でカオスだった魔術棟は


中はもっと酷かった。


「お前ら…」


エルク様と言う癒しが無かったらダッシュで逃げ出したいレベルで酷かった。

三賢者の弟子と思われる魔法使いの人達はみんな獣耳つけていた。中にはファンシーなお面をつけてる人さえいる。猫耳お兄さんから差し出されたお茶を受け取りながら部屋を見回すと


部屋の至る所にぬいぐるみがあり、風船やお花があった。


「何をしてるんだ…」


本当にリズが来たら大喜びしそうだが、私にとっては原因が自分だと思うと心苦しい。お弟子さんたち特にごめんなさいしか言えない。ガックリとうなだれる父様にもなんかごめんなさい。


「どうじゃりりたん、お主が来やすいように棟の改造をしといたぞ」


「りりたんの精霊は竜なんじゃな?ほれりりたん竜のぬいぐるみじゃぞ」


「小僧、いつまでわしらのりりたんを抱っこする気じゃ…」


いつまでも抱っこしといてください。そう思いしっかり、しっかりとエルク様の服を握る。

絶対に引き渡されてたまるもんか…!


「さて、賢者殿。お約束通りリリアを連れてきましたのでちゃんと働いてください。仕事しないならもう連れてきません」


「貴様ぁ!なんの権利があってりりたんとわしらを引き裂くのじゃ!」


「婚約者の権利です」


「なっ、な、き、貴様が、わしらのりりたんの婚約者だとおおおお!」


驚愕、唖然、超ショックを何故か受けた賢者トリオは

即座に三人で円陣を組んで会議を始めた。



『どう思う?あやつは確か皇弟の息子じゃろ?』

『仕事ぶりは優秀で浮いた噂は聞かんのう』

『悪くは無いが許さん。うちのりりたんは嫁にやらん!』

『そうだな、りりたんはここでずっとじーじと一緒じゃ!』


「ならん!わしらのりりたんの婚約者として認めるわけには行かん!!」


丸聞こえの会議の末、反対することにしたらしい。

同じような反応を見せていたことのある父様は私からの視線に気まずそうに目を閉じた。


「そんなこと言ったらリリアに嫌われますよ?この婚約はリリアも望んで結ばれた物ですから」


「なんじゃとお!」


リリア も

リリア も 望んで。

少しは、少しくらいはエルク様も私を婚約者にと望んでくれたんだろうか。

急に気恥ずかしくなってもじもじとエルク様を見上げるとにこりと笑顔を返された。ああ、好き。

その笑顔のためならなんでも出来る。



そんな私たちの様子を見て賢者トリオはまた会議を初めて速攻で意見をひっくり返した。



「そうか、ならばお主も息子のようなもの。毎日リリアを連れてくるが良い」


「リリアが来たいと言ったら連れてきますよ。ああでも、仕事しないのなら連れてきませんがね」


「仕事をしてもりりたんは来てくれなかったじゃないか…」



蒼海の賢者がボソリとつぶやくと

三賢者は一気に落ち込み始めた。

まるでそれまでのハイテンションが嘘のようなその態度に思わず動揺する。


「りりたんの論文を読んだ時からわしら、会える日を楽しみにしてて国王にも何度も掛け合ったのに逢いに来てくれなかったし」


「賢者仲間になったから、わしらと一緒に研究してくれるかなと楽しみにしとったのに…」


「わしら魔法しか興味ないから、可愛いものがないと怖いかなと思って用意して、ずっと待っとったのに……」



「「「それでもりりたんは来てくれなかったじゃないか……」」」



先程の歓迎っぷりからするに本当に楽しみに待っててくれていたのだろう。

あったことも無い子供に対してその態度はおかしいというのはわかるが何故だろう。

完全に孫認定だ。


賢者トリオは私とエルク様の前の床にしゃがみこんで、

揃って見上げてくる。


「なありりたん。わしらは今更魔力操作は難しい。精霊と魔法陣に慣れきってしまったからな」


「来なかった、という事はりりたんの研究にわしらは必要ないということなのか?」


「わしらはりりたんと一緒に研究をしたいが、りりたんは嫌か…?」


蒼海、紅蓮、黄金の三賢者に懇願されても全く萌えないが、特に関わらなくて良いだろうと邪険にし続けた自覚があるので罪悪感がさすがにわく。

とは言え私にも仕事やややりたいこともあるし、そこまで来れないし…。


なんと返したらいいか困って、エルク様を見ると彼はコクリと頷いた。


「月に数度、私と一緒に登城して来ますか?私も同席しますから」


「それくらいなら…」



大丈夫かな。

そう頷くと三賢者が床を転がり飛んでいった。

老体には見えぬその衝撃の行動に唖然とする。


「やっほぉぉおおおお、りりたんがまた来てくれるぞおおお」


「お前ら、次回のりりたんの来訪に備えろ!」


「おい、りりたんに城下で有名なお菓子を予約してこい!」


いや本当


賢者にならなければよかったと真剣に後悔をしたーーーーーーーけど。



彼らもまた変人で天才。

彼らの奇才は、私の研究を飛躍的に伸ばすことになる。



「魔石、とな。ふむこれでりりたんは映像を記録したいのじゃな」


「はい。ですが魔力には色があり魔石に記録すると単色で…」


「ふむ。手間をかけるがりりたんやこの魔術棟に居るものたちの魔石を1個1個作ってくれぬか。魔力に個性があるのなら種類を集めるのも手じゃろう」


「あ、もしいけるならわしの魔石はいっぱい作っておくれ。ちょっとわしの研究にそれ使えるかもしれん」


研究の話になると、三賢者は表情を変えて食いついた。

そして父様は孫じゃないからな!ときつく念を押して仕事に戻って行った。

他者の魔力を操るのはしんどいけどすぐに魔術棟の人達が集められて魔石を作っていく。


そして私の魔力が枯渇ちょっと手前までがんがん魔石を作り、私が休憩している間に魔術師たちは魔石を調べ討論をする。


「これは形状を変えたらどうなるんじゃ?ちょっと実験室で割ったり削ったり試して来る」


「おい、わしらはこれでどれだけの魔法陣が発動できるか試しに行くぞい」


「色ごとに特性がなにかあるかわしらはこの魔石そのものを調べてみるわい」


そして大量の魔石を3人が山分けして、調査のための去っていった。その表情には冒頭のじじバカの片鱗はない。

天才って怖いなあ、と思いながらエルク様にもたれかかるとそのまま寝転がされてソファの上でエルク様に膝枕をしてもらった。


「エルク様?」


「魔力いっぱい使って疲れただろ?休んでいいよ」


本当に疲れていて。申し訳ないなーと思いつつも、そのまま目を閉じた。

目を閉じたが、せっかくのエルク様の膝枕がもったいない。

エルク様は優しいから頼めばいつでもしてくれるだろうけど、自分から頼むのははしたないし。


「今回のこと、ごめんなさい。私がもっと早く魔術棟に来てればエルク様に迷惑をかけることもなかったですね」


「自発的でも強制でも、リリアが来るのならば付き合う予定だったから平気だよ」


「ありがとう、ございます」


「私は城でのリリアの全てを任されてるし、1人歩きなんて心配でさせられないから。公私両方の面で一緒にいられるから平気」


目を開けて見上げると当たり前のように微笑まれる。

その首元には私がプレゼントした赤い石の着いた魔道具がスカーフを留めていて、普通に使っていてもらえることが嬉しい。

エルク様が無理をしてなければ、まあいいのだけれど少し気をつけようと思う。

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