12
「それは…シルフ、か?」
「うちの相棒のイェスラですよ」
精霊らしくイェスラは興味が無い人には関わる気がないらしく、
私の手を取り指先にちゅっとキスをすると光り輝いた。
その光は小さくなっていき、パッと光がなくなると私の指先に止まる小鳥サイズのイェスラが居た。
「縮んだねイェスラ」
『いっぱい頑張ったからなー。ちょっと休憩』
その首元には私のあげたブローチが着いていた。パタパタと飛んだイェスラは私のポケットに突っ込んでそのままモゾモゾと落ち着いた。なるほど、休憩のためにポケットサイズになったのか。
「お、おい、なんか精霊たちがいっぱい来るんだが」
イェスラとじゃれていてスルーしていたが気がつけばトーマの周りには下位精霊がいっぱいまとわりついていた。
『ねーねー契約しよー』
『ほんとに何もしなくていいのー?』
『おなかいっぱいありがとー』
『お名前教えてー』
慌てながらも、邪険に出来ずに困ってる。
代弁しようか迷うとピューン!とキラキラしたキラメキを巻きながらトーマのフェアリーが戻ってきて、下位精霊を蹴散らして追い出した。
『浮気者!私がせっかくあなたのお願い聞いてあげてるのに!』
「お、おい、フェアリーはなんでこんな怒ってるんだ」
「大好きだから浮気しないで、だそうです」
『ちょっとお!う、う、嘘教えないでよ!いや嘘じゃ無いけどうううう』
ツンデレフェアリーはすぐに真っ赤になって怒り出したが、嬉しそうに笑ったトーマに可愛がられてまんざらでもなさそうだ。
他所の主従の痴話に巻き込まれる気は一切なく、また落ち着いてきたのでリェスラ達にも戻ってきてもらおうか。
「おいでリェスラ」
「リリー!」
呼んで秒で来た。人型のリェスラにむぎゅーっと抱きつかれながら、いや早過ぎないかと少し動揺すると扉からひょこっと困った顔のエルク様が現れた。
ああ、どうやら待たせていたようだ。
気を使って落ち着くまで待っていてくれたんだなと思いながらリェスラの髪を撫でる。
「今度は水竜か…」
「リリ、私リリとイェスラとお揃いの物が欲しいわ。リリの魔石が嵌ったお揃い!」
「うん、わかった。じゃあ家に帰ったらデザインとか一緒に決めようね。はい、とりあえずご飯どうぞ」
ほっぺたを擦り合わせてから少し離れてリェスラの目の前の魔力塊を出すとすぐにぱくっとそれを食べた。
今日はすごく頑張ってくれたので、ポンポンと1口サイズの魔力塊を数個出すとリェスラは嬉しそうにパクパクと食べて、ふにゃりと笑った。
可愛いのに、可愛いのに同じ顔…!
リェスラとのんびりイチャイチャしてると、不意に私とリェスラの間にフェアリーが割り込んだ。
『ねえあんた。トーマに私にも名前つけるように言ってよ』
そしてフェアリーが私を指さして高圧的に言った途端、リェスラがフェアリーを張り飛ばした。
相当強い力で張り飛ばしたらしく豪風が顔にぶわっと当たって、自分が殴られてたらと思うと血の気が引く。
が、私以上に血の気が引いたのは精霊が張り飛ばされたトーマだろう。
「フェアリー!な、何するんだよ水竜!」
しかしカッとなったトーマはリェスラを見て、もう1度青くなった。
高位精霊、水竜のリェスラはとても怒っていた。
それはもう、私ってこんな怒った顔できたっけ?と疑問を浮かべるほどに。
「羽虫が私のリリに対して随分舐めた口を聞いてくれるわね…?」
「リェスラ」
「ダメよリリ、羽虫に身の程を教えてやらないといけないわ」
窘めてもリェスラは私にくっついたまま殺意をフェアリーとトーマにぶつけて。
さてどうしたものかと思うと、突然エルク様がリェスラの髪を持ち上げた。
あまりの突然の行動の目を瞬かせる。
「何?いくらあんただって気安く触らないでくれる?」
「本当は私とリリアでお揃いにしようと思っていたんですが、リェスラ様の方が似合うのでどうぞ」
そう言ってリェスラの髪を一房結んだのは深い紺色のリボンだった。
エルク様とお揃い欲しい。激しく欲しいと思うけど、ここは空気を読んでじっと水色の髪を結ぶリボンを見る。
「リリとお揃い…」
「どうぞ、リリアにもつけてあげてください」
「わかった」
完全に掌の上で踊らされているリェスラはご機嫌になって私の髪を結び出した。
そして、お揃いになったのを見てまたにぱーとわらった。
その陰でトーマとフェアリーはそっと部屋から逃げていった。




