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ふふふ。とラッピングをしようとするとーーーーーガシャガシャガシャ!と大きな音を立てて我が家の玄関前に馬車が突っ込んできた。
「リリア!リリア!居ますか!」
「『リー姉を探してーーー!』居るよ!エルク兄、3階!」
「自室ですね!」
地味にゴロツキものか他所の家の手配の襲撃かと焦ったが、聞こえてきた声はエルク様とフェルナンド様の物だった。
なんだろう、と思いブローチをポケットにしまい廊下に出ると母様が走ってきた。
「リリア何事ですか」
「わかりません」
「リリア!」
バタバタと走ってきたのはエルク様とフェルナンド様とアイラ様だった。その後ろに護衛も居ない。
「キャロル侯爵!緊急事態故にこのような形で失礼します!将軍と陛下よりこれを…!」
エルク様から何かを受け取った母様がそれを読んでいる間に、爺を呼んで客間と茶と軽食を頼む。
「それに加えてキャロル侯爵、こちらのフェルナンド殿下とアイラ姫の保護をお願いしたいです。その状態の城に連れて帰るわけにも行かず…」
その状態って、何?
手紙を読み終えた母様は厳しい顔で考え込んだ。
「キャロル侯爵、皇命にございます」
「わかっているわ。でも、娘を危険な場所に行かせたい親はいないわ」
しばし考え込んだ母様は、私に手紙を渡した。
「リリア、これは皇命よ。城で何かがあったらしく将軍と陛下から緊急要請が来たわ。何があっても対応出来る万全の状態を整えて向かいなさい。詳しくは読みなさい」
慌てて手紙に目を通す。手紙は相当急いで書かれたのか乱雑で乱れた字で書かれていた。
“城が謎の魔力に包まれて皆魔力酔いで倒れた。リリアの捕縛の魔道具の範囲内では酔わず有効、助けをたのむ”
“リリア・キャロルに問題解決の助力を命ず”
なるほど、さっぱりわからん。
とりあえず捕縛ーーー魔力無効と結界か。
あれ、面倒なんだよな…
「母様、メレを連れて行ってもいいですか」
「もちろん連れていきなさい」
「私も同行します。魔力がないせいか、私は魔力酔いをしないので」
メレと、エルク様か。
状況がわからないのでとりあえず父様に差し上げた物をさっと紙に何枚も焼き付ける。
と思ったが、待てよ。
自分自身にも結界を張らないと自分が酔う=結界の効果で魔力無効=魔法使えない!
うーむうーむと悩み、考えて。
とりあえず大量の紙と、魔素粉の詰まった瓶を持つ。
現地でアドリブをきかせるのが多分一番いい。
「とりあえず行きます」
「ちゃんと帰って来なさいね」
心配そうな母様に抱きついて、しっかりと頷いて。
エルク様にさらわれるように馬車へ連れていかれて、護衛のメレと共に城へ急いで向かった。
「いっ、た、ん〜〜」
がたっと大きく跳ねた馬車と一緒に体が浮いて落下の時のお尻をぶつけて、痛い、と言おうとしたら舌を軽く噛んだ。
陛下が被害にあってるから急がないと行けないのはわかるけどこの馬車は辛い。
そんな私を見てエルク様が手を差し出したーーーが、同じタイミングで私の体がふわりと浮いた。
『あ、ごめん。りりが辛いと思って』
「ううん、イェスラもエルク様もありがとう」
エルク様は笑ってくれたけど、返事はなかった。
喋ったら舌を噛むからだろう。
そんなこんなで、城の現状について聞くことも出来ずに現地に着いた時。
思わず目を擦った。
「わかりますか、リリア」
城はパッと見普通だった。
衛兵が居ないことくらいしか異常は見えないーーーが。
そこに存在する魔力を見ると
城が濃密な魔力ですっぽり包まれていた。




