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ゲームと現実は違う。そんなの当たり前にわかっていたはずなのに
結果が見えるまでに数年がかりのこともありえる。でもそれが、とても楽しくなっていった。
五歳になり、書庫の本を片っ端から読んで知識をため込んでいった私はこの世界には魔法陣と精霊魔法というものがあることを知った。
精霊魔法は精霊に魔力を渡してお願いをするもの。
魔法陣は効果、条件などを組み込んだ魔法陣に魔力を込めて発動するもの。
「イェスラ、先日の雨での我が家から北にある村々の被害を調べてきて頂戴」
『はーい!』
濃密な魔力を風精霊イェスラの前に出すと、イェスラは美味しそうに私の魔力をぱくっと食べて飛んで行った。
私は今風と水の高位精霊と契約をしている。幼いころから努力した空気中に浮かせることが出来る魔力の濃い塊。
実はこれ、この国の魔法ではありえないそうだ。
精霊魔法は声に魔力を乗せて、精霊に渡すものらしい。
けれど私の場合『言葉』を覚える前に魔力操作を勝手に覚えたから異質なのだ。
でも、便宜上『魔力塊』と呼んでいる濃密な魔力は高位精霊をも満足させる上質な魔力らしく低コストで色々と動いてくれるのでとても便利だ。
魔力チートすげー!と言ってくれてもいいのよ?もっとも単純に0歳児からの努力のすえなだけだけど。
そしてこの魔力塊、精霊魔法だけじゃなくて魔法陣のほうにも凄い効果を出せるようになった。
大地に直接陣を書かなくても、魔力塊で直接大地に書けばいいんだもの。
初めて父様と母様に魔力塊で空中にさっと『ファイアボール』を書いてはなったとき
母様と父様は無詠唱とか無陣とか大興奮なさって、褒めちぎった後その魔法は人に見られないようにしなさいと言った。
魔法の根底をひっくり返すかもしれない、危険なことだそうだから。
私も確かにと思い素直にうなずいた。ので魔法陣の方はいつでも実践できるよう色々と研究はしているがそれは私だけの秘密の魔法だ。
そんな努力のすえの魔法チート。私はそれを領地経営の補佐に使っている。
普通五歳児にそんなものをやらせないが、私が規格外の五歳児なように母も規格外な領主であった。
「リリア、明日サイラーリの鳥よけネットの設置の補助をお願いできるかしら」
「はい。時間を指定してくれればイェスラに補助を頼みます」
「ありがとう。あと先日の雨でこのままだと南の川が氾濫しそうなので今回に関しては村などに被害が出ないように誘導してもらえるかしら」
「川の中央の水の流れを速めてすでに氾濫しないように手配済みです」
「さすがね。ふう、この件も近いうちに工事して何とかしないといけないわね」
母様のとなりの私用の机に座って、母様と領地経営について熱い交流をする。
数年前鳥害対策で打ち出した『鳥ネット』はいまやうちの領地の各地で使用されている。
魔物の被害は思ったより大きいらしい。それを収めたうちは、食料の備蓄も潤沢で税収もうなぎのぼりだ。
「ありがとうリリア。とりあえず今夜はもうさがりなさい。明日はあなたの誕生日パーティですからね」
「……そのけんなのですが、なぜわがやじゃなくて王宮でやるんですか」
お仕事モードは終わったので、背伸びした口調を年相応のものにもどして口を尖らすと母は困ったように笑った。
「うちでやってはお父様が仕事の都合で参加できないのよ。ですので、陛下が気を使ってくださったのよ。リリアもお父様に参加してほしいでしょう?」
「もちろんしてほしいですけど…」
「ふふふ、明日はとってもかわいらしいお姫様に変身して一緒に行きましょうね」
ニコニコ笑う母は問答無用で私をメイドに預けて、部屋に下がらせた。
侯爵令嬢の誕生日パーティを、小ホールとはいえ王城でやるなんてありえない。
現在我が国には三人の王子がいる。
第一皇子は8歳、第二王子は6歳、第三皇子は4歳だ。
私は侯爵令嬢で騎士団長の令嬢。
しかも上位精霊二人と契約を交わす魔法チート。
政略対面のにおいがプンプン過ぎて、嫌になる。
『リリ、そんなに嫌なら明日嵐にしようか?』
「ダメよリェスラ。でも気持ちはありがとうね」
部屋に戻って、まだイェスラが戻ってきてないから着替えてからベッドに座ると
水の高位精霊のリェスラが甘えるようにすり寄ってきた。
そ、このリェスラゲーム好きのロマンです!!!
何と本性は水龍です!それが今は私の傍に居られるようにと肩ノリサイズで傍に居てくれるんです。
ちなみにイェスラは緑の鳥ですがこちらも私用に小さなサイズになってくれています。
あーもういきたくないなあ。
そんなことを考えながらリェスラを抱きしめてベッドでゴロンゴロンした。