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可愛い幼女の扱いから、可愛い少女の扱いというか。
徐々にレディの扱いを受けてくすぐったかったけど、ちょっと誇らしくて嬉しい。
フェルナンド様が旅立ってさらに1ヶ月ほどがたち。
フェルナンド様が大国でかなり上手いことやっている。という報告を受けて安堵しながら、庭でのんびりエルク様と仕事をする。
楽しい仕事=休息というのを汲んでくれたエルク様は、庭で精霊とじゃれながら作業をするのにたまに混ざるようになった。
そのエルク様も、書類を持ち込んでいるので似たもの同士だと思うが。
「そうだエルク様、明日の昼頃城に行くのですがもしお時間取れましたら一緒にお茶でもしませんか」
「なら良い茶葉と美味しい菓子を用意しておきますね」
「まあ。でしたらお昼は少なめにしておきますわね。城のお菓子はとても美味しいですから」
「なんならお土産にもどうぞ」
くすくすと笑うエルク様は、お茶を飲みながら肩に居るイェスラに頼まれるままクッキーで餌付けしている。
そしてカリカリと書類を書く様を見て大人の色気と青年の危うさを堪能する。うん、19のエルク様も超絶好みです。
しばらく見続けているとエルク様の頬が赤くなってきたので、目を逸らしてリェスラに寄りかかる。つやつやの鱗をなでなでしているとリェスラが長い首を上手く使って私の前に顔を出して来た。
のでリェスラの頭を撫でると綺麗な青い瞳が細められて、髭が嬉しそうに揺れた。
本当にフェルナンド様は上手くやっているようだ。
上手くやりすぎて、向こうの皇太子様の同腹の王女に熱烈なプロポーズを受けて婚約の打診が来るほどに。
彼から個人的に来た手紙を開いてもう一度中を見る。
『それでねリリ姉、アイラにちゃんとプロポーズのお返ししたいからリリ姉に指輪作って欲しいんだ。結婚指輪だからすんごいのがよくって、すんごいのって言ったらリリ姉だと思うからー』
すんごいのって、何。
もっと具体的にお願いしますよフェルナンド様。
さーて困ったぞ。すんごいの。
「眉間にしわがよってますよ?どうしました?」
「フェルナンド様がすんごい結婚指輪作ってくれって」
「どんなふうに凄いのなんですか?」
「さあ?すんごいの、しか書いてなくって」
どうぞ、と手紙を飛ばしてエルク様に渡すとそれを読んだエルク様が頭を抱え込んだ。
いつぞや見た『子供がとんでもないことをやらかした』時の親の反応で、珍しい様子にちょっと笑う。
「フェル…これは、困りますねえ」
「困りますねえ。とりあえずイェスラ、アイラ様の好みを調べてきてくれる?」
『遠いなーめんどくさーいなー』
文句を言いながらもイェスラは直ぐに羽ばたいて飛んでいった。
「なにかお手伝いしましょうか?」
「困ったら助けてください」
んーんーんー。どうしたものか。悩んで悩んで、あとでなにか適当に資料調べよーっと。
まさかこの手紙が。
国と国を騒がし、我が家と私とエルク様を大きく巻き込む揉め事になるなんて知らずに。
私はのんびりと仕事の休憩を取っていた。
事態が急転したのはその夜。
今日はキャロル家で仕事のはずだったエルク様が陛下の精霊に呼び出され、緊急ということで連れていかれた。
急な出仕に混乱しながらもエルク様を見送り、母様の仕事を手伝い、フェルナンド様の依頼品の方向性をねって、寝て。
結局この日にイェスラは帰ってこなかった。




