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「エルク様改めてよろしくお願いします」
「こちらこそ、補佐をお願いします」
キャロル家の執務室に座ることになったエルク様に頭を下げるとにっこり笑って返された。
初めはずっと笑うのが苦手だった彼の素敵な笑顔も、大分見慣れてきた。
見慣れた上で眩しさに頭がくらむけど。目ではない、頭だ。
母様はつわりがひどい方らしく、そうそうにエルク様が我が家に来た。
実は私が魔道具の件で忙しくしていた1ヶ月のあいだにもうちに来ていたらしく、引き継ぎは行われていたそうだ。
エルク様は元々城で陛下の補佐をしていた上に、皇子たちの授業の一部も受け持っていたくらいの文人で侯爵家の運営もすぐに慣れたようだ。
爺も認めているらしく今も爺とエルク様でなにかを話し合ってる。
「リリア嬢、それで新作魔道具の要望一覧ですがこれを冬までにーーー」
「ふぁいっ!」
急に名前を呼ばれて声が裏がえるが、もう気絶はしない。
だってこの半年、エルク様をずっと見てきたから。ずっと優しくして貰ってきたから。
彼の魅力は見た目だけじゃない。だから見た目に意識をもぎとられたりしない。
ひとつだけ不安なのは、観賞物としてではなくもう身内として大好きになってしまったことだ。
私はエルク様がいつか他の人を好きになった時に、本当に応援できるのか……不安でならない。
「ーーーはい、この効果の魔法陣でしたらジグさんならすぐに金型の量産は可能だと思います。ソルトさんが北の職人を口説き落として傘下に納めたそうなので冬までには量産体制が整います」
「じゃあ話を通して報告書をまとめてください」
「わかりました」
ジグさんに連絡して、ソルトさんに連絡して、と行動を考えているとポンポンと頭を撫でられた。
それが嬉しくってニコッと笑って早速各地への手紙を焼き付ける。
「イェスラ、この手紙よろしく」
『あいよー。ついでになんか調べてくるもんねえのか?』
そう言いながらイェスラはエルク様の前に置いてあったメモ帳に『なんか視察してこようか?』
と文字を焼き付けると、エルク様は頷いて「職人たちがいる商店街の客の多さを見てきてください」と言った。
一鳴きしてイェスラは窓の隙間をしゅるっと通ってでていく。
きょうだいに、新作魔道具でできる幅に、皇子たちの魔法教育に、なんかもう毎日が忙しくて大変だけど。
このまま幸せに頑張って行こうと、思う。
ーーーーーーできる限り、エルク様の近くで。




