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産まれて10か月。
体の中に巡回していたとりあえず正式名称は知らないけど魔力を体の外に出してみる。
母様はこの力で風を操っていたのだから魔力を体外に出す練習も必要だと思ったから。
だけどこれがすごく難しくて、体外に出すと魔力はすぐに霧散した。
無駄に魔力を失ってはじめてトライした日は疲れていつもより長めに寝てしまった。
「んー。まっ!」
散らないように散らないように、魔力を練って密度を濃くしてみる。
何回やっても魔力は霧散して、そのたびに感覚を変えてみる。
薄くてもだめ、濃くてもだめ、濃くて大きめにしてもだめ。
とにかく霧散しやすい魔力に首をかしげて、考えて。
その考えはある日ひらめいた。
雨の次の日の窓ガラス。
乾いた雨のあとがくっきりと残っていた。あーあ水あかついちゃったよなんて思ってハッとする。
例えば海水。
海水が濃くなるとしょっぱさがまして
更に濃くすると水分が蒸発して塩になる。
海水が塩になるくらい濃密にしてみたらどうなのか。
「んーば!」
結論から言うと大成功した。
目視できそうなくらい濃い魔力は霧散せずにその場に存在した。またその濃密な魔力は体に戻すこともできた。出した時より若干魔力は減ったが、魔力の消費は殆どなかったので繰り返し何度も出し入れをして魔法の特訓をした。
もちろん魔法の特訓だけでなく、このころにはよろよろと歩けるようになった私は乳母や母の目を盗んでしょっちゅう書庫に逃亡した。
「リリア、一歳の誕生日おめでとう」
「おめでとうリリア」
「かあしゃま、とおたま、あいがとごじゃましゅ」
このころになると母様のおっぱいは卒業した。
え?お風呂とおむつ?
今は幼児ですから(血涙)
ふりふりの可愛らしい白いドレスに、父様譲りの赤い髪を綺麗にまとめてもらい
可愛くしてもらってご機嫌の私はそのまま父様と母様に抱っこしてもらう。
「アイリス!リリアが、リリアが父様っていったぞ!」
「ええ。一生懸命練習したのよね」
「あい!」
このころになるといろいろなことがわかってきた。
うちは侯爵家で、父は騎士団長。母様は領地の経営をやっていた。
乳離れをしてくると忙しい二人にはあまりかまってもらえなかったがそれでも惜しみない愛を受けていたので私は両親が大好きだ。
「リリア、リリアは本が好きというからな。これがプレゼントだ」
「わあー!あいがとごじゃましゅ」
父からのプレゼントは自室と本棚だった。
「これは私からのプレゼントよ」
母からのプレゼントは本だった。
「あまりエリーゼに迷惑をかけないようにね。読みたい本があるならエリーゼやリュリにとって来てもらうか連れて行ってもらいなさい」
父に抱かれながら髪を撫でられ、図書室逃亡のことをたしなめられてちょっと反省をする。
でもこの日母様公認の図書室の閲覧許可をもらったので。
この日から私は図書室に入り浸ることになる。