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本日数話更新しております。本日更新の1話目は8になります。
馬車の中、肘置きに手を置いて
アンニュイな顔で小窓の外を見る。
その肩には(たとえこちらを見てケラケラ笑っていても)美しい鳥。
なんだこれはスチルかけしからん。
写真に収めることができない代わりにクッションを抱きしめて網膜に焼き付ける。
いつか写真技術を確立できたら1番にこれを撮ろう。
ああでも、エルク様は飾りっけが無いけどピアスとか似合いそうだよね。
黒髪に映える原色…赤か青か。肌も白いからなんでも似合いそうだ。
さら、と乱れひとつ無い黒髪が揺れて
その唇が開いた。舌までもピンクで美しいーーーー
「キャロル嬢、そこまで見つめられると…恥ずかしいです」
「はっ、申し訳ありません」
「いえ」
つい視姦してしまった。
まあ仕方ないよねエルク様だし。
困った笑みを浮かべる彼も素敵です。
『おーいリリ、目がハートになってるぞー』
「そういうことは早く言おうねイェスラ」
『え?言った方がいいの?ずっとデレデレ笑ってることとか』
「……」
顔をモニモニとして、エルク様のキリッとした顔を目標に意識して整える。
「なんて言ってたんですか、精霊は?」
「ふぁっ!?え、えっと、精霊の声は聞こえてないんですか」
「はい。と言うか精霊と普通に話せる人の方が希少だと思います
」
なんてことだ。ずっと当たり前すぎて知らなかった。
だってイェスラもリェスラも出会った時から普通に喋ってたし。
「そ、そうなんですか。すみません知らなくって」
「キャロル嬢はまだまだ幼いですからね」
とりあえず結果オーライで話はごまかせた。
内心安堵するが、そんなことはなかったようで。
「で、風の精霊はなんて言ってたんですか?」
掘り返して聞かれた。
やばいどうしよう。ヘルプ!とリェスラを見るとリェスラは目を閉じて寝たふりをしていた。
ならばイェスラを、と見るとイェスラは爆笑を我慢してニヤニヤしながら震えていた。
「えっと…えー、その…」
『俺の名前呼んでいいよって言ってたって言っていいぜ』
挙動不審な私についに笑いの限界が訪れたイェスラからそんなフォローが入る。
「イェスラが、エルク様に名前で呼んでも良いよって言ってます」
何も考えずにサラッと言うと、一瞬驚いたエルク様は私と肩のイェスラをみて不器用に笑った。好きだ。
「ありがとうございますイェスラ殿。……キャロル嬢も今みたいにエルクと普通に呼んでくださいね」
そう言われ、ん?と首を傾げ。
自分の発言を思い出す。
あーーーーー!慌てすぎてサラッと名前呼べたーー!
堪えきれずにクッションに顔を埋めて悶絶すると、髪型を崩さないように髪を撫でられた。
なんだよもうエルク様は子供好きですか!!
「着きますので揺れますよ。気をつけてくださいね」
「はい」
そしてがたっと揺れて到着する。
御者が開けた扉からエルク様が先に出てーーーー私に両手を伸ばした。
真顔で『両手』を伸ばした。
この手の誘惑に負ければ抱っこをされてしまう。
5歳児とはいえ重い。
抱かれる訳には行かないのに、
来ないんですか?
って心の声を出して首を傾げたエルク様かんわあああああいいいいいいいいはすはす保存してお持ち帰りしたい。
表情筋を酷使してなんとか私も耐えるが、見つめ合う状況に徐々に興奮が高ぶっていく。もう、やばい。
「キャロル嬢、城は広いですから」
「しかしエルク様にご迷惑をかけるわけには行きません」
普通に降りるので退いてくださいと暗に言うと、隣の馬車から降りた父が「リリアは俺に抱かれたいんだよなあ!お父さん大好きだからなあ」とか言ってたが笑顔の母様に服を引っ張られてた。
父様、フォロー入れるならちゃんと捕獲しに来てください、使えない。
「キャロル嬢、こんなの迷惑にも入りません。それに迷惑くらいかけてください。ーーーーそれが、婚約者の特権ですよ?」
吐血、するかと思った。
なんですか笑顔は苦手じゃなかったんですか。なんでそんな素敵な笑顔で口説くんですか。そんなタラシなところも大好きです。
気がつけば無意識に体が吸い寄せられていて、抱き上げられていた。
抱っこされながら城の中へ向かう。
「エルク様も私に迷惑かけてくださいね!」
「はい。その時は受け止めてくださいね」
「はい!」




