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#うちの精霊が鬼畜です
そんなつぶやきをした今日この頃。
『魔力塊でやっているから全然消費されない。なので魔力を気にせず行える』
リェスラの特訓に関してそんなことを言ったこともありました。
だがしかし、結局リェスラは私の魔力が尽きるまで特訓をきっちりしました。
途中にご飯休憩とお風呂休憩を挟みましたが、いつも寝る時間よりかなり遅い深夜まで特訓はつづいた。ちなみに成功した氷は3個、切ない。
成功した氷は本当に嬉しそうにリェスラが食べてたから、恨み言も文句も言う気はなくなった。
特訓中は本気で鬼畜竜とか鬼とか思っていたけど元々私から頼んだことだしね。
寝る前に執筆活動を今日はまだしていなかったことを思い出し、けれど魔力が枯渇したから手書きで……書いてる途中で記憶が無い。多分疲れ果てて寝落ちをして、多分精霊がベッドに運んでくれたんだろう。
そこまではいい。そこまではいいのだ。
さてここで#うちの精霊が鬼畜です について話を戻そうか。
こんな説明をしたらリェスラの鬼教官っぷり呟きたいと思った、と勘違いされるかもしれないが現実は違う。違うのだよ
「朝ですよキャロル嬢」
特訓で疲れ果てた私は前日と違い寝坊をした。
窓から光が差し込んでいる様子からもう朝だ。
それは別にいい。問題は
「キャロル侯爵に起こしてきてくれと頼まれて…レディの部屋に勝手に入ってすみません」
何故にエルク様がここに!?
寝起きドッキリすぎて混乱してパニクって固まっている私に
『あ、そういやエルク朝から侯爵家行けって言われてたわー』
そんなイェスラのつぶやきが聞こえた。
うおおおおおおお!!
#うちの精霊が鬼畜ですうおおおおお早く、早く言ってよぉぉおおお!
ぱっと起き上がり
そのまま流れるような動作でベッドの上に三指をつき、頭をベッドに擦り付ける。
「キャロル嬢!?」
最大限の謝意。土下座だ。
「申し訳ありませんえぅ……様。」
「いや、え、とりあえず頭を上げて…」
「いいえ。私みたいな小娘は貴方の婚約者にふさわしくありませんが、私は貴方の幸せを何よりも願っています。ですので不本意ではございましょうが、どうか私を婚約者の座に据えてくださいませ」
「いや、キャロル嬢?」
「もちろん他の女性と恋に落ちたら防波堤として全力で応援致します。将来きっちりと職につき、お金も名声も手に入れて見せます。貴方の幸せは全力で応援し守りますので、どうか、今しばらく我慢をお願いします」
真心込めて、誤解の無いように訴える。
明らかにうろたえる声。それはそうだろう、こんな小娘にそんなことを言われても困るだろう。
でも婚約を無理強いして、嫌われることだけは嫌だった。
「そんなことは気にしないでいいんですよキャロル嬢。むしろこんな歳の離れた私と婚約なんて嫌でしょう。無理しないでいつでも破棄をしてくれて構いません」
「私から破棄を願い出るのはえぅ…様の幸せの邪魔になることが決定した時です」
土下座のまま、しばらく無言が続き。
ぽんぽん、と後頭部を優しく撫でられた。
「ありがとうございます。まあそんなことより、一緒に朝ごはんを食べましょうか。御両親もお待ちですよ」
触れる感触。全身の魔力がざわつく。
恐る恐る顔を上げるとそこには困ったような不器用な笑顔。しかも近い。
ああ、ごちそうさまですーーーー。
そう思い意識がふらつくが、婚約を受けた以上今後もこの人とは一緒に居るのだ。
気絶なんて、していられないーーーー!
「リェスラ!」
さっと寝ていたリェスラのしっぽを
ぎゅうううう、と握りしめた。
『いったあああい!!』
そして痛みで飛び起きて怒ったリェスラが反射的にガブッと私の腕に噛み付いた。
「ーーーーーっ!」
「きゃ、キャロル嬢!?」
『え、リリ!?ご、ごめんなさい!』
小さいとはいえ、竜に噛み付かれた箇所は歯型模様の怪我ができ、ダラダラと血が溢れる。
『ちょ、お前何してるんだよ!』
慌てるイェスラとリェスラとエルク様に心配されながら。
なんとか気絶せずに済んだと内心でガッツポーズをとった。
でも、痛くて痛くて滲んだ涙は止められなかった。