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「母様、新しいまほうを覚えたのです」
「あら凄いわね。後で見せてちょうだい?ああそうそう、陛下がね、誕生日パーティを台無しにしたお詫びでもう一度やり直させてって言ってるけど良いわよね?」
「はい、かまいません」
「パーティは明日よ。今回はエルク様がエスコートしてくださるそうだからくれぐれも気絶しないようにね」
「はい…」
気付け薬の準備をはよせんと。
そんなことを話しながら母様とのんびり朝ごはんを食べ。
何故か若い兵士さんに引きずられていく父様を見送り。
執務室で新作魔法『プリントアウト』を見せると母様が唖然とした。
紙を机に置いて、魔力塊をその上に設置し
資料をみて数値などを計算表にして文章と一緒に魔力塊に打ち込み、じゅっ。
「母様、これがサイラーリの鳥よけネット設置に関する現在までの金額とそれを元にした設置完了までの試算です。念の為に現地用と我が家ように2部作りますか?」
「え……ええ、そうねお願いするけど…リリア、それは…はあ」
「ちなみに母様、将来のためにきちんとした地位を確立したいのでこの論文を国へ提出しようと思うのですが」
コピーをしつつ、隠し持ってきた「魔力濃度と魔力塊、無詠唱魔法」についての論文を母様に渡す。
呆れた顔をしていた母様は、論文に目を通すとわかりやすく顔を顰めた。
「…素晴らしい論文だと思うわ。既存の魔法の規定を壊す革新的な論文だし貴女という実在例も居るのだから陛下も魔法院も無視出来ないでしょう。でもね」
立ち上がった母様が私の前にしゃがみ、心配そうな顔で目線を合わせる。
「貴女はまだ子供なのよ。確かに貴女は天才よ。だけどまだ悪意や敵意へ対処もし切れずに大人たちに翻弄されてしまうわ。優れた知識の共有はいいことよ。でもリリア、貴女はこれを国に提出して何になりたいの」
私がなりたいもの。
それはエルク様を幸せにするものだ。
そのための地位、力、お金が欲しい。
そのためには…国で認める最高峰の魔法使い『賢者』になりたい。
「将来的には領地経営をしつつ、賢者になりたいと思っています。国の英智と言われる存在になれば、エルク様を守ることが出来るでしょう?」
「ああ………そっちに行ってしまったのね」
そっちってどっちだ?母のつぶやきに疑問を覚えつつ、急にしゃきんとした母に背筋が伸びる。
「それならばリリア、これを今出すのは悪手よ。エルク様の婚約者としての立場が浸透する前に貴女が賢者になるような天才だとバレてしまったらほかの貴族達から横槍が確実に入るわ。そうすればエルク様との婚約も上手くいかず、結果エルク様生涯独身の最悪のパターンよ」
「確かに……!」
「でも貴女の気持ちもわかるからこれは陛下に内密に渡しましょう。エルク様との婚約が落ち着いて磐石なものになった時に、情報を公開して賢者を目指せばいいわ」
「はい!」
「…それまでは魔法の研究を無理のない範囲で行い、論文にしておきなさい。このプリントアウトの魔法も凄いわ。私も覚えたいほどだもの」
そう言ってぎゅっと抱きしめてくれる母様に喜んで抱きつく。
私には見えなかったけれど、母様はこの時どこか悲しそうな顔をしていた。
いつまで娘を守れるのだろうか。
私が進もうとしている貴族や魔法使いたちの陰謀の修羅の道を、母様はとても心配してくれていた。
そんなことも気づかず、私は『プリントアウト』の改良で頭がいっぱいだった。プリントアウトは盗作かつどu……いや、執筆活動にも論文作成にも領地経営にも使える。
もっと、もっと、高みへ。
エルク様のために!
私はそれしか考えていなかった。




