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すうっと息を吸って目を閉じる。
私の不安を知っているイェスラは肩に乗ったまま首にすりすりと頭を寄せて、リェスラは何も知らないだろうけどぎゅっと私の腕にしがみついた。
覚悟を決めて、エルク様の魔力が他者に害を成さないように溶けゆく氷ごと魔力の動きを封印する結界をはる。
氷の壁は上から溶けて行った。
時間をかけて上から中が見れるようになり……
しばらくして、ようやく黒い髪が見えた。
「リリア!!」
全て氷が溶けるのを待ちきれず、氷をすらっと長い足で跨いでこっちに来る美しい人。
険しい表情でこちらへ走ってくるエルク様を目をカッと見開いて凝視する。
「大丈夫かい!?一体何がどうしたんだい?」
咄嗟に開いた口からは声にならない声が出た。
その口を両手で覆って、麗しい人を見上げる。
「……リリア?」
どうしたんだい、と首を傾げるエルク様。
その可愛らしさに。
その美しさに。
キョトンとした蜂蜜色の瞳に、艶やかな黒髪に、
長い手足に最高に似合う礼装に。
足元から崩れ落ちた。
「リリア!?」
「リリア!?」
「リリー!?おい、どうした!」
尊い。素敵。
エルク様が素敵すぎて辛い。
ちょっと待ってよ、これって初対面の時になった状況と全く同じだけど。
高鳴る胸で慌てて体内の魔力の流れを感知するが特に異常はない。
つまりエルク様の素の魅力でこれ!
私の素の反応がこれ!!
色んな意味でショックを受けつつ、私を支えて起こしてくれようとするエルク様を見る。
エルク様を見る。間近で。支えて貰いながら。
「今日も素敵です………」
一言だけそう告げると。
昔、お家芸になってきたのかと心配をしていた気絶をした。
『ぷっ!あはははは!!』
一切合切の事情を知るイェスラの笑い声がどこか遠くに聞こえた気がした。
「リェスラ、魔素水ちょうだい」
『はーい』
夜会ホール中央に鎮座する巨大な虹色魔石。
それを元の魔力にしたら結界を張る前に霧散してしまう。
意識が戻った私はトーマによって魔国の技術者達の元へと放り込まれた。
正直、エルク様を拝見致しますと心臓がオーバーヒートしてしまうのでありがたい。
まさか結婚した今になってまた、悶え死を危惧することになるとは思わなかった。呪われてはいけないのだけれど、少しだけ落ち着きたいので呪われたいと思った。
話はそれたが、とりあえず今は魔国を支えていた結界を空気中の魔力では無く虹色魔石で起動するために虹色魔石の周りに技術者総出で魔法陣を書いている。
魔法陣を書いて、動力を虹色魔石にするだけで今までと同じ結界は難なく張れるだろう。
結界が張られれば、そこに生きる人と精霊たちによってまた魔力濃度は濃くなって行くだろう。そうすれば虹色魔石を使い切る時にはまた空気から魔力を補充できるはず……だが。
必死に魔法陣を書く技術者達に魔素水の補充分を渡して指示を出しつつ、さてどういう方面でトーマから吹っかけられた賠償要求を解決するかと考える。
風精霊たちも過ごせる快適な結界案。さて、どうしようと悩みつつ魔力で作った風を飛ばして私の呪いも解除していく。
クーデターから三日。私は自業自得だが責任を取って忙しく仕事をしてまわっていた。