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「すごいな、本当に結界がない」
「……ハイ、ソウデスネ」
魔国に戻ってこれたのはその日の夕方だった。
移動中、激怒したアイザック様にみっちり怒られた。
魔国制圧も、陛下の呪いの解除はありがたいがやり方が荒っぽいことも、結局近衛たちの魔力を封印したままであることも、身支度や整える書類の準備があったことも、もうずーーーーっと怒られていた。
いや、まあ、確かにと思うこともだいぶあった。
ちなみにお説教の間の移動はイェスラがやってくれていた。
私の飛び方を見て、人を移動させるコツを掴んだらしくケラケラ笑ったまま常にハイスピードで飛んでくれたことは感謝だ。
「とりあえずトーマにあったらまず謝罪だ。それから急ぎで結界の復旧と国民の呪いの解除。それから敵対はしないと誓うんだぞ」
「ハイ」
「リリーは国に戻るからいいかもしれないがフェルやうちの国民も魔国にはいるんだ。トーマとも相談をするが国家間の軋轢にならないように、慎重に考えてから動くんだぞ」
「オッシャルトオリデス」
「何でもかんでも魔法でゴリ押しできるからってお前は雑なんだ」
ぐうの音も出ないまま、城門前に着陸をしようとするも城門にはすごい数の人が集まっていた。
「どうなってるんだ!」
「何が起きてるんだ」
そう言って詰め寄る人達。おそらく街の人々だろう。
着陸できる雰囲気ではとてもないのでそのまますぃーっと城壁を越えて中に入っていく。
とりあえず虹色魔石もあるし夜会が行われていたホールにでも行こうかなあ。エルク様も出してあげたいし。
「とりあえず兵士や使用人のいる場所に降りてトーマの所に案内してもらえ」
「いや、エルク様をリェスラで監禁しているので先に出してあげようと思います」
「……本当に、何をしてるんだ…」
いや、まあ。
あの時は呪いでおかしくなってたからなあと言い訳はさすがに出来ない。
エルク様の親世代に責任を擦り付けた今、私が呪われていたことは明るみに出してはいけない事実だからだ。
夜会の会場にはたくさんの人がまだ居た。
と言ってもドレスを着た人々ではなく、兵士と魔法使いのローブをまとった人々だ。
おそらく虹色魔石を調査しているのだろうと当たりをつけて着陸するとーーーーその場で全員がざっと跪いた。
「お帰りなさいませ賢者殿。お忙しいところ恐縮ですが、新国王陛下がお呼びですので大至急執務室にいらして頂いてもよろしいでしょうか?」
「まずは彼を出してからでも良いでしょうか?」
「もちろんです。賢者様に無理なく過ごしていただけるように配慮しろとのお達しです」
どうやらトーマは無事にクーデター完了したようだ。
そんなことを思いながら氷の元へ行くと後ろではアイザック様が兵士にトーマへの言伝を頼んでいた。
それらを聞きながら、氷を撫でる。
「……リェスラ」
「リリ!」
名前を呼んだだけで中からは人の形をとったリェスラが出てきた。
抱きつかれて、抱き返す。
「問題はなかった?」
「もちろん!ちゃんとご飯も準備したし、おやつもベッドも飲み物も準備したわ!」
「本当に?ありがとうリェスラ」
実はその辺心配して居たのだけれど。
想像以上にリェスラはエルク様の配慮をしていてくれたようだ。
『僕が居なかったら気づかなかったくせにー!』
と思ったら、地面からにょきっとカールが出てきた。
うん、エルク様が気に入っているとはいえ人に興味無いリェスラにしては致れり尽くせりだとは思ったのだけれども。
カールも、リェスラもどちらも頭を撫でて褒める。
「リリが戻ってきたってことはもう危険は無いのよね?もう出してあげてもいいの?」
一度、ゆっくりと息を吸ってはいて。
こくりと頷いた。
呪いを解いた状態で、改めてエルク様にあう。
今現在の私は非常に凪いでいる。
悲しませたくはないとは思うけれど……呪いが解かれたことによって、彼を見てどう思うか。
不安も沢山あったけれど
溶ける氷をじっと見つめた。