6-2
「出してくださいリェスラ!!」
『ダメよ』
不透明な氷の壁に閉じ込められて、必死にリェスラに頼むけれど一向に聞き届けて貰えない。
ならばと、壁を殴ってみるもやはりそう簡単には壊れずただ手が痛いだけだった。
リリアの様子がおかしい。
いつも自由なリリアだが、人に迷惑をかけたりは基本的にしないのに……うっすらと笑って結界を壊した彼女の目には狂気が宿っていた。
止めなければならない。
なのに、僕にはなんの力もない。
ただ隔離されて全てが終わるのを待つなんてーーー!
歯を食いしばって壁をもう一度殴るもただ痛いだけ……と思ったら拳がぽうっと光って痛みが引いた。
どうやらリェスラに治療をされたようだ。重ね重ね情けないーーーと、気づけば目の前でカールが座ってこちらを見上げていた。
『エルク、ここから出たいならだしてあげようかー?』
「カール!?出来るのかい!?」
『んー、分からないけどー』
カールは一度小さく鳴くと……すっと大きな竜のリェスラを見上げた。
『姉さんって呼んでるけど僕も高位精霊だしねー。簡単には負けないと思うよー』
タンタンと前足で床を叩くと……カールの毛がふわっと膨れた。
明らかな臨戦態勢だ。外には出たいけれど…このままじゃカールとリェスラが喧嘩をしてしまうだろう。喧嘩、で済まない気もする。
『あたしはリリの精霊よ。リリの命令は絶対だわ』
しゅーと口を開いて威嚇をするリェスラは突然縮んで……青い髪の少女になった。
リリアそっくりのその姿に息が詰まる。
「だからここから出ようとするなら本気で応戦するわよ」
『僕だって本気だよー。ご主人様の願いを叶えないとねえー』
外に出たい。リリアを止めたいけれどーーーー
「カール、もういいよ」
『エルクー?』
「……ずるいよリェスラ。その姿じゃ、僕は攻撃命令なんて出せない」
たとえリリアじゃなくても。
リリアの姿をした者が傷つく姿は見たくない。
ため息をついてカールを抱き上げると、ふふふとリリアそっくりの声を出してリェスラは笑った。
「知ってるわ。貴方、リリに甘いからね」
笑顔まで、リリにそっくりだった。
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あっけなくクーデターは完了した。
結界が無くなったことは相当衝撃だったし、国民にとっても衝撃だったのだろう。
リリアからとった言質を盾にすれば兵士たちもあっさり寝返り父上の身柄は確保された。
とりあえず、当初の予定通りリリアとエルクの仲を認めなければ一瞬で劣勢に追い込まれた我が国に勝ち目はない。
普通の魔法使い程度なら良かったが相手はリリアだ。
まだまだ隠し持った実力がありそうだ。
「だから言ったでしょう父上。彼女に無理強いは良くないと」
貴族牢に連行される父上。あの姿は一歩間違えたら俺の姿だった。
身をもって愚策を見せてくれた父に感謝しつつ…最小限の被害に抑えるべく、新国王として大臣たちとリリアに対してどう出るかを決めるために会議室へと移動した。




