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「リリア、お前……」
リェスラが作った氷にすがりついて、中の彼の悲痛を想像して心が痛む。
そんな私にトーマは……険しい顔で剣の切っ先を向けてきた。
「今すぐに元に戻せ。でないと、お前も……ルクセルも滅ぼす」
辛そうに、辛そうに言うトーマ。見てるこっちまで辛くなるけれど。
「どうやって?」
「どうやってって…」
「魔法も使えないのに?どうやって私を殺すの?むしろ、結界もない魔法も使えないときたら……この国、滅ぼされちゃうんじゃないの?丁度姫君の結婚でこの国に他国の大使も沢山いるし、情報漏洩は止められないよ?」
ははは、ははははは。
感情が狂ってるのか楽しくなってくる。
笑うと辛そうなトーマは剣をふるって来たーーーーーけれど、ただの剣戟なんて結界で簡単に防げる。
肩に乗ったイェスラも動くことすらしない。
「お前がっ!お前がやったんだろ!」
「そうだよ、私がやったんだよーーーーーー私にしか、直せないんだよ?」
にっこりと笑ってーーーー頭が激しく痛んで、ぐっと歯を食いしばる。
痛い、痛い。違うから、エルク様よりトーマを優先するわけじゃないーーーーーーどっちも、守りたいんだ。
「なら、わかってるでしょ。国を守りたいなら剣を向けるのが私じゃないって」
「ーーっ!!」
「国を守りたいならーーーーー私の剣になってよトーマ。私とエルク様が引き裂かれないために、ね。そうすれば………元に戻してあげるよ」
ごくりと、その場が静かになって。全員がトーマを見る。
「その言葉、信じろと?」
「信じて」
じっと見つめ合う。
どれだけ見つめあったのか分からないけれど。
「殺せ!!」
我慢しきれなかったのは王様の方だったようだ。
けれど誰もその指示に従わない。
わかっているのだ。魔法も精霊もなしでーーーー私の相手など出来ないことは。
「結界の修復と、全員の呪いの解除だ」
「……わかってる」
不意にぽつりとトーマが呟いた。
ふっと笑みがこぼれる。
トーマはこちらの味方になってくれた。
「それから、風精霊も中で快適に暮らせるように結界の改善だ」
「………ん?」
「あと改善研究、修復にはうちの魔術師も同行させて勉強させろ。それからキャロル領までの直通路と、ウォーターボートの共同開発だ」
「え、ちょっと」
「それから呪いを防ぐ魔道具の作成と、アイラの結婚式が延期せず行えるようーーーーー死んでも働いて貰うぞ」
んーーーーーーーー?
「そもそもお前が国外追放されたとはいえ、うちの親父が結婚しろとか無茶ぶりしたのが原因だからな………というわけで父上、王位譲ってください。この国のために」
え、あ、あの、ちょっと。やっぱり無しでと言う言葉は
「貴様!魔女の手先となったか!!」
という陛下の絶叫に掻き消された。