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「リリア、お前何をやったのかわかってるのか?」
今まで聞いたことも無い、怒りを噛み殺した声だった。
まあトーマの怒りもわかる。長年極めてきた魔法の最先端を壊されたのだから。
でも仕方ない。だってそうしないと。
制圧しないと、引き裂かれちゃうんだから。
「私、何も分からない子供じゃないけど?」
「……リリア。それはダメだよ」
「ごめんなさいエルク様。貴方の頼みでもこればかりは……」
エルク様も驚愕な顔で見てきて悲しい。しょんぼりする。
その時だった。
“魔女だ”
“こんな恐ろしい魔法、呪いに違いない”
“魔法が使えなくなってるぞ”
魔法が封印されたことに気づいたのか今更騒ぎ出すギャラリー。
全く、何を言ってるのか。
魔女は騒ぎを起こさない。魔女の周りの人間が、感情に常識を見失い騒ぎを起こすのだ。
そう、例えば。
「リリア、今すぐ結界を元に戻せ。これは立派なクーデターだ」
“クーデター”や常識では有り得ない“国外追放”など
気づいた瞬間、血の気が引いた。
仕方ない。そう仕方ないんだ。
こうしないと、引き裂かれちゃうから。
………仕方ないクーデターなんて、ある?
またズキンと頭が割れるように痛んだ。
“クーデター”を起こした私
“国外追放”をしてきたロバート陛下
……呪われてるのは、だれ。
……………呪ったのは、だあれ。
「リリア、今すぐトーマの言う通りにするんだ」
エルク様の声を聞くと、頭痛がすっと消えていく。
問題が、問題じゃ無くなる。
呪われてるのは、呪われてるのは
『ではエルク様は陛下の補佐官をしていらっしゃるのね』
『エルク様は私がしあわせにします』
そばに居たのは。ずっと、そばに居たのは。
ああ、そうか。
みんな、ロバート陛下が呪われているのには気づいていたんだ。
考えると痛み出す頭。まるでそれ以上は考えないようにと止めているかのような頭痛。
みんな、私が呪ったと思ってたんだ。
ーーーーでも、違う。
いつも、居た。私の傍にも。陛下の傍にも。
………それこそ、学園長の近くにも、ジークの傍にも。
ダメダ、ソレイジョウ、カンガエルナ
クーデターを起こした王弟夫妻の息子
そんな彼の周りに居る呪われた人々。
「リェスラ!エルク様を“保護”して。誰にも関わらせず、誰とも接触できないように!」
『……わかったわ』
「リリア!?」
驚愕した蜂蜜色の瞳が目に焼き付く。
人前で巨大な水竜になったリェスラはエルク様を不可視の氷の箱の中に閉じ込めた。
「……中は寒くない?」
『当たり前でしょ。そんなヘマはしないわ』
ねえ、愛しのエルク様。
貴方は本当に魔力が使えないのかな?