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「よく来てくれた。式までの10日間の間、夜会なども行う予定なので是非参加していってくれ。また、うちの魔術師達と交流を深めてくれると嬉しい」
「ありがたいお言葉に感謝致します。妻はまだ若いので彼女の無理のない範囲で参加させて頂ければと思います」
トーマの父である魔国国王陛下は。
ギラギラとした目が印象的な、おおよそトーマとは似ても似つかない男性だった。
似てるところは桃色の髪の毛だけで。ああ、髪は父親似だったんだなとくだらないことを考える。
「……そうそう、賢者リリアよ。我が国にはいつまでも滞在してくれて良いからな。うちの息子が気に入っているなら何時でも相手をするように言っておこう」
「……お心遣い感謝致します」
旦那様を目の前にして、堂々とそういうことを言うのはやめて欲しいのだけれどね。
謁見が終わり、宛てがわれた客間にたどり着くと
エルク様も流石に疲れたのかソファがドサッと音がするほど、乱暴に座り込んだ。
「疲れましたねエルク様」
「ええ。でもうちの陛下から預かった手紙も渡しましたし、あとは夜会に気持ち程度参加して、フェルに挨拶して結婚式に出ましょうか」
「そうですね。トーマや魔術師などに関わると面倒事にしかならないと思いますし」
本当は色々と話をしたい気持ちはあるけれど。
魔国国王陛下のあの様子を見たら、迂闊に仲のいい様子を見せたら下手に追い込まれそうで怖い。
話は精霊でするだけに留めるのが懸命だろう。
「ああ、でもリリア。こちらにいる外交担当の方にお会いしても良いですか?キャロル領の製品を大量に買い付けて頂いてるのでご挨拶はしておきたいです」
「良いですよ!むしろ私も同伴させてください」
「ありがとう。リリアがいると心強いよ」
魔国では、いつも家でしてる仕事が出来ない分。
キャロル領の商品の宣伝を沢山した。色々な面会希望の貴族を、賢者の名前で釣って相手にして売り込んでいく。
「リリー!エルク兄!」
「フェルナンド様、お久しぶりです」
そしてフェルナンド様にもひさしぶりにお会いした。
昔はほわほわしていた彼も、今ではしゅっとした少年へと変貌を遂げていた。
顔立ちはどちらかと言うと妃殿下よりだろうか。
優しげな空気同士、アイラ様と並んでいる様子はやはりとてもお似合いだ。
「来てくれてありがとう。兄さんや父さんたちは変わりないかい?」
「…アイザック様とは仕事を投げつけ合う関係です」
「ハハッ、良い関係が築けているみたいだね。そういえばエルク兄とリリーは結婚したんだってね。遅くなったけどおめでとう」
「式をやる時には是非いらしてくださいね」
尤もその式は貴方の父親次第だけども。
睨まれている状況では、流石に式は挙げづらい。
「うん。僕たちの式を参考にしてもいいよ」
そういって、ニコニコと笑い合う二人。とても幸せそうで、微笑ましい。
「リリア様、兄が大変お世話になったようで。兄と仲良くして下さりありがとうございます」
「…私も世話になっているのでお相子ですよ」
「……まあ。兄さんは本当にリリア様とは友好を深めたんですね」
こんなふうにストレートに喜ばれると複雑だけれど。
でもトーマと仲がいいのは事実なので、エルクと苦笑いをしあってからアイラ様の方を見て頷いた。