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じっと城の魔法陣を見つめて、どんなものが展開されているのかを把握する。
巨大でも魔法陣そのものは見覚えのあるものだ。
「なあなあ、どうやって無人で起動してるのか気にならないか?」
「…聞いてもいいの?」
「ああ、別に秘匿情報じゃないし。初めは外から魔力を与えた小さな結界で、徐々に大きくしてったんだよ。中にいる人数も、精霊も増やしてな」
「…すごく気が遠くなる話ね」
「ああ。これを作り上げてきた御先祖様を尊敬する」
「努力の集大成なんですね」
三人で窓から城を見上げる。
城はどんどん近づいて……そして、馬車は止まった。
「お帰りなさいませ、殿下」
「……ああ。今帰った」
え、誰あれ。
たくさんの兵やメイド達に笑みを見せて馬車から出ていくトーマ。トーマはトーマなのにまるで王子様みたいだった。
いつものバカをやり合うトーマはそこには居なく、アイザック様より風格漂う王子がそこにはいた。
ーーーーー今更ながら、トーマは王子だったと痛感する。
「キャロル夫妻をお連れした」
「心得ております。賢者様も、殿下も一度陛下の下へ参られるように指示を受けております」
「わかっている。だが先に一度彼女等を落ち着いて一息つかせてやってくれ」
「客間へとご案内を致します」
トーマが指示をするのを聞きながら、先にエルク様が馬車から降りて一瞬その身体が強ばった。
中にいる私からは彼の背中しか見えないので、なんでだろうと思いつつ……エスコートを受けて馬車から出て察した。
すごい数の兵士、魔法士、使用人がズラっと並んでいたのだ。
「リリア・キャロル様。エルク・キャロル様。ようこそ我が国へいらっしゃいました。偉大な賢者様を迎えることが出来、我ら大変喜ばしく思います」
『『『ようこそ!』』』
そして先頭の従者頭だろうか?一際風格のある方がトーマの横で挨拶を述べると、人々がいっせいに喋った。
その熱い熱気に気圧されつつも、エルク様の手を取ったままにこりと笑う。
今の私たちは国の代表として来ているのだ。
無様な姿は見せられない。
「手厚い歓迎をありがとうございます」
「魔国の皆様の真心、確かに受け取りました」
エルク様と共にニコニコと笑い、先導者の元へ行くと人垣がモーゼのように割れた。
ところで、割れたことによって生じた通路の最前列。
そこは殆ど、魔法士で埋め尽くされていたのは偶然だろうか。
兵士やメイドさんたちと違い、魔法士たちの目はギラギラしているのも気のせいだろうか。
「……不躾な目で申し訳ありません。魔法を嗜むものたちにとってキャロル様は憧れの方。皆、お言葉を頂きたいのでしょう」
ああ、気のせいじゃなかったんだね。
苦笑を浮かべながら気にしてませんと返して、そのまま城の中へ入っていった。