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濃密な魔力。多すぎるくらいの精霊の気配。
『全部吹き飛ばしたい……』
に、酔って闇堕ちをしてる珍しいイェスラ。
「鞄に入ってなよイェスラ」
暗黒オーラを出したイェスラは速攻で鞄に潜り込んで行った。
私でも「うわっ」ってなるくらい濃密な魔力の空気なんだ。
風の精霊のイェスラは嫌な意味で直撃をくらったのだろう。
「あー、大丈夫かイェスラ。ここの空気は自由を好む高位風精霊にはきついらしいからなあ。外で契約した中位風精霊だって逃げ出すくらいって噂だ」
「……リェスラとカールは大丈夫?」
『あたしは空気に鈍感だから平気よー』
『僕も土じゃないから平気ー』
「ちなみに俺の妖精も基本、駄目だ」
そう言ったトーマの妖精は既にトーマのポケットに避難していた。
と言うかここの王太子の精霊なのに空気がダメって…。
でも、そうか。そうなるとここには風の高位精霊は少ないんだな。
でも代わりになるほど、それ以外の精霊使いは多い。
視界に入るほぼ全ての人が精霊を連れているのが見えるもんなあ。
「……さすが魔国ですね。夢のような光景です。精霊使い数がうちと段違いですね」
「そう!そんで、そんな魔国のトップが俺ってことだ。どうだ敬えエルク、リリア」
「エルク様、制圧しますか?」
「ダメですよ。ここでは友達じゃなくて隣国の王太子ですから」
「お前らなあ…」
エルク様と笑いあってから、すうっと息を吸う。
魔力濃度が濃いせいか、それだけで身体に魔力が満ちるのを感じた。
これは凄いな。
鉄壁の守りの上に、尽きない魔力。
正に攻防一体の魔国の首都だ。
城門から人々が沢山行き交う街を抜けて、一般住宅を抜けて。
大きな屋敷が立ち並ぶ街並に入るとようやく王城が見えてきた。
初めて見る、魔法最先端の魔国の王城。
そこは幾重にも、魔法陣が重ねられていた。
これは凄い。
首都全体を覆う結界も見事なものだったけれど、あの魔法陣も一つ一つ中々良いものだ。
と、言うかだ。
「ねえトーマ。単純に疑問だから無理に答えなくても良いんだけれど、あの魔法陣もあっちの結界も誰かが張り続けているの?」
これらを起動している人が居ると言うことだろうか。
私は当たり前のように魔石使うので、それを魔力の動力として使えるけれど。
けれどこれはそれよりも前に作られた結界だろう。
と、なれば動力は人だ。これだけの大規模な魔法を人が維持しているのだろうか。
だとすればそれはとんでもない魔力をもった人だろう。
そう思って尋ねるとトーマはニヤニヤと笑った。
「それは別に公開してる情報だから問題ないぜ。あの魔法陣も結界もな、起動してる『人』はいないんだ」
「え?じゃあどうやって魔力を流してるの。まさか魔石じゃないよね」
「魔石が出来たのはここ数年だろ。聞いて驚け、あの魔法は空気中の魔力を使って起動してるんだ」
え、マジか。
この濃密な魔力はおそらく魔力を持った人と精霊が多く居ること。それに加えて結界内と言う閉塞空間だから発生している。
その結界の維持に必要な魔力が濃密な魔力って……
ニワトリが先か卵が先かと言う話だ。
魔力があるから結界が張れる
結界があるから魔力が集まる
そう理解して改めて魔法陣や結界を見れば、見るほど巨大だけれど緻密で繊細な魔力の流れを感じ取れた。
さすが魔法先進国。
長年極め続けてきた魔道の片鱗を垣間見た。