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昼食休憩をしてる間もトーマとエルク様は何かを語り合っていた。
漏れ聞こえる言葉が「直通路」「雇用」だったのでおそらくまだ直通路について語っているのだろう。
昼食の後片付けするメイド。それを手伝う冒険者、周囲を警戒する騎士をじっと見る。
大人が数人乗る乗り物。一番に思い浮かぶのは馬車だが、バネなどで柔軟性に富んだ馬車でもこの世界での悪路ではスピードをさほど出せない。
あの世界は、悪路をコンクリートで舗装道路にしていたけれど。この世界にはそれっぽいもので私の知るものは無い。
道を舗装するとすれば精霊の力をめっちゃ使う。
めっちゃ使っても、馬車が通れば道は徐々に凹みまた凸凹道になる。
ーーーーと、なれば馬車以外の乗り物をなにか。
「この木箱は壊すのか?」
「はい、もう使わないので今夜の燃料にします」
不意に聞こえてきた会話。
視線の先には私が入れるくらいの木箱。あれには食材が入っていた筈だがおそらく食材は食べ終わったのだろう。
「待って、これ壊すの?」
「お嬢様!?は、はい。このまま持ち歩くには嵩張りますから」
ふむ。持ち上げることは出来ないけれど、押せば簡単に移動できるほどには軽い。耐久性はさほど無さそうだが……おもちゃにするにはピッタリかな。
「燃料探し、私も手伝うのでこれを頂くことは出来ませんか?」
「いやいや!普通にどうぞ!まだ森はありますから燃料も探しますのでお気になさらずに」
「本当?ありがとう!」
快く頂けたので木箱をとんとんと叩く。ふむふむ。
調査をしているとカールとリェスラが傍に来た。
『何してるのリリ』
『遊んでるのー?』
「んー…ねえカール、この箱の底面を石かなにかを使って補強してくれる?」
『どんくらいー?』
「すごく!」
わかったーとのほほんとした声を出してカールが尻尾を振って箱の匂いを嗅ぐと、箱がピカーと光って底面に鉄の床が出来た。
ついでに側面にも壊れないようにぐるっと一周、鉄のバンドで補強を入れてもらう。
「お嬢様、もう出発ですわ」
「うん。ねえこれ、馬車に乗せてくれる?」
「わかりました」
メイドに馬車に乗せてもらうと、その隣に座って箱の裏面に魔石で魔法陣を書き込む。
…念の為に三箇所。三角を描くように魔法陣を三つ書いて……起動スイッチは前面の上部につける。
「水を出す魔法陣か?」
「うん。ちょっと実験してみたくって」
持ち手などはメイドに糸や布を出してもらうのもなんなので、魔糸をふわっと何本も同時に出してそれを縛って取り付ける。
これであとは…ブレーキか。
底面から魔法で水を噴出して、浮力で浮かせる。
持ち手を握って、精霊に引いてもらう。ここまではいいのだけど…問題はブレーキだった。
水を止めればそこが地面に擦れて減速できるだろうが…どうしたってすり減るだろう。
スピードが早ければ早いほどすり減るだろう。
とんとんと木箱を叩いて、目を瞑ってイメージをする。
パラシュートを開いて止まる…どれくらいで止まるかあやふやだ。
船のように重しを下ろす…重しがすり減るのでダメだ。
うーん、うーんと悩んで、とりあえずいい案が出ないので。
精霊が走行を止めて、自然減速でどこまで行けるのか次の休憩時に試そうと思う。
浮かせる辺り、リニアのようだけれど。
磁力で止める、なんてことが出来れば便利なのになあと、どうしようもできない現実にため息を着いた。