13
つらい。しんどい。
2回目のサロンを地獄に落としたのは招待客でもなく、招かれざる陛下でもなく、
「カレディ子爵にだけ土産を持たせるのは依怙贔屓だろう。侯爵家たるもの公平公正に務めねばならないぞリリー」
そう言ってドヤ顔をしたバカ王子である。
いやもちろん出席された方々全員にお土産は用意しましたよ!?でもね、レナード殿下が言ってるのはプラスアルファで個別に送れってことですよ!?
今何やってるか知ってます!?
サロンなうですよなう!今から準備しろってお前何言ってんだとレナード殿下を殴らなかった私を褒めて欲しい。
『…嫁さん、王子様を体調不良で休ませないかなかな?』
『ダメ。うちで体調不良になったら疑われるわ』
むしろ水面下でとばっちりをくらってる一号止めたし。怒ってるメルトスも宥めたし。陛下はこれを狙ってレナード殿下も連れてきたんじゃないかと疑うレベルだ。
「やあリリア。今回のサロンも頑張っているな」
「ショールディン閣下、いつもありがとうございます」
「ショールディン公爵か」
そんな彼も。
ショールディン閣下に挨拶をするとビシッと改まった。
今までは優雅な王子様だったが急に……怒られる前の子供みたいにかしこまり始めた。目線も忙しなく動かしている。
「レナード殿下、招待も無くいらっしゃるのは困りますが」
「俺は陛下をお止めするために」
「はて?陛下も困ったものですがあちらで大人しくされてますが。殿下は何をしにいらっしゃったと?」
と思ったらショールディン閣下がビシッと諫め始めた。もっと言ってやってと思いつつレナード殿下が王族として下手に出ないように見守るが……流石閣下。
「殿下はあくまで客人。サロンを楽しまれるのは構いませんが、ホストの顔を立てねば殿下へお誘いは減ってしまわれますぞ」
「……リリーが招待客と仲良くなれるよう、俺なりにフォローも…」
「我が親友はそつなくこなすでしょう。殿下は我が親友がミスをしないよう見守られるだけで良いのです。我が親友は守られるだけのご令嬢では無いのですから」
我が親友アピールが凄すぎて、王族に忠言してるのが気にならない不思議だ。
ショールディン閣下の言葉で今更気づいたのかハッとしたレナード殿下はこちらを不安そうに見て
「……迷惑だったか?」
と呟いた。
『ええ、もちろん』
『当たり前じゃない』
聞こえないことをいいことに反応する一号とリェスラは置いといて、私はニコニコ笑う。
ちゃんと意図は伝わったようで、レナード殿下はぐっと辛そうな顔をすると私の一歩後ろへと後退した。
「でも良かったよ。リリア嬢、まさか陛下が君と仲直りをするためにわざわざ慣例を破ってまで、臣下のサロンに来られるとは私も思っていなかったよ」
「ええ、突然で驚いてしまいましたがあのように私も妹も可愛がって頂けて感無量でございますわ」
内心そんなわけないよね〜と思いながらニコニコ閣下とお話をする。こちらは見ずとも私たちの会話を聞いている人を感じながら。
ただ不思議と、陛下は本当にリズのことは可愛がってくださっているようだ。今も何だかんだと困った顔はしてもリズを膝から下ろすことは無い。
まあうちのリズは自慢の可愛い妹だからね!
「私も驚いたよ!ショールディンのパーティにお忍びで来るならともかく、キャロルのサロンに堂々と来るとはね。さすがは今、誰もが注目する深緑の賢者様のサロンだね」
「なんだ君たち。寄ってたかって一人の少女に群れるなど可哀想じゃないか」
「お前もその群れの一人であろうダッテバルダ」
ショールディン閣下と会話をしていると、ダッテバルダ閣下、シュミット閣下まで現れた。
前にショールディン閣下、右にダッテバルダ閣下、左にシュミット閣下、後ろにレナード殿下。
最恐布陣である。なんかこう、追い詰められた感が凄い。
「群れるとは酷いですわダッテバルダ閣下。お友達と仲良く話しているだけですわ?」
「我が親友がそういうのならばそういう事にしましょうか。全く、我が親友は顔が広くて誇らしい」
「そうだね、私たちの親友は年齢にも性別にもとらわれない素晴らしい人間だからね」
あれ、私の名前って『親友』だっけ。
そう言いたくなるくらい皆様親友アピールが凄まじい。
私に取り入るように見えて、親密アピールをして陛下を含め他家を牽制してくれているのだろう。わかり易すぎないかと思うも、もっとわかりやすい行動を陛下がしているから仕方がないのだろうか。
さすがの陛下もこれだけアピールされたらこの場で私を攻めることは難しい……と思うんだけど、正直陛下がどう動かれるか分からない。
そもそもサロンに来た段階で彼の行動は常識に囚われてない。
常識ハズレの行動など予測は不可能だ。
『一号、AとC地点に侵入者が入ったわ』
『行かせる』
タイミングを合わせたのだろうか。
王家の影がキャロルのプライベート空間に入るのを察知すると同時に、エリース様が私を呼びに来た。
「リリア、陛下がお呼びよ」
そう言う彼女の顔は淑女の微笑みだが、目には不安が隠しきれて居なかった。
ごくりと唾を飲み込んで、レナード殿下を引き連れて陛下の元へ行く。そんな私に当たり前のように公爵方も付いてきた。
「御挨拶が遅れました事をお詫び申し上げます。今宵は私のサロンにようこそおいでくださいました」
「王族を待たせるとは良い身分だな」
「ありがとうねリリア。時間をゆっくりとってくれたおかげでリズちゃんともエルクとも楽しくお話出来たわ」
陛下は私を糾弾したかったようだが、妃殿下が速攻で庇った。
色々と突っ込んでやりたいけれど黙って笑顔で頭を下げたままにする。
「こちらこそレナード殿下をお貸し頂きありがとうございました。殿下のお陰で(とんでもない迷惑かけられましたけど)初めて会う方々にも緊張せずに済みました」
「顔をあげて、リリア」
おそらく内心は間違いなくアイザック様には伝わっただろう。
妃殿下に言われて顔をあげると陛下の横に居るアイザック様は明らかに感謝の表情を浮かべていた。
「レナードも良い勉強になったようね。ありがとうリリア、貴女には色々と助けられているわね」
意味深長に、色々と仰る妃殿下。
陛下は微妙な表情を浮かべていたけれど、妃殿下は明らかに私と仲良しアピールをしている。アイザック様の計画通りだ。
このまま当たり障りなく解散出来ればいいんだけどなあ。
そんな私の願いは、不思議と叶えられることになる。
「そうだな。フェルの結婚式はお前とエルクに任せたから大使として魔国に失礼のないように頼むぞリリア・キャロル」
無表情で私を見てそういうと、陛下は妃殿下とレナード殿下を連れてなんと帰城なされた。
信じられないけれど陛下も影も、あっさり帰られた。
なんなんだ、一体。
とても怪しく訝しんだけれど、私のサロンはまだ続いている。
レナード殿下が残された個別お土産爆弾処理をすべく、すぐに頭を切り替えて私は客人への対処へと向かった。