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現在『レベルアップ令嬢、幸せな結婚を目指す!』を更新中です。最終話まで予約投稿済みですのでよろしければそちらもどうぞ。
最後のお客様だったアイザック様と共に中に入ると、当然の事だが中は大変な状態になっていた。
三公爵筆頭になり、奥に急遽用意されたテーブルに座った陛下に挨拶をする列が出来ている。
そんな陛下の膝にはリズが嬉しそうに座っていた。
陛下の隣には妃殿下が座り、その横には母様が立ち、父様は陛下の横に立って共に招待客に挨拶をしていた。
陛下が敵対視する私の派閥を作るためのサロン。
に、突然現れた陛下。
敵方のトップが突然の訪問のため私の守りは実質瓦解したようなものかな、と察する。これはまた面倒な事になったものだ。
アイザック殿下、エリース様、レナード殿下がすぐに陛下の横に行く。すると陛下と2,3話したレナード殿下がすぐに私たちの方へ戻ってきた。
レナード殿下の顔色は真っ青だ。哀れなくらいに悪かった。
それもそのはず、殿下はとんでもない言付けを持ってきた。
「リリー……すまない、父上がエルクを連れてこいと言っている。その間リリーのエスコートは俺がしろ、だそうだ」
「……はい?」
どんだけ喧嘩を売るつもりだ陛下は。顔に貼り付けた猫が過労死しそうになるのを感じて、痛む頭を抑えてこらえる。
頭が痛い。
ちらっと陛下たちの方を見るとアイザック様が冷たい目でこっちを見ていた。
『嫁さん、悪いが頼むってアイザック殿下が言ってるよ』
いやもう本気で、どうしてくれようか。
エルク様を渡すなんて本気で嫌で嫌で仕方がないけれど。
エルクも困り果てた先の境地に達したのか困ったよう笑って頷くから、私も頷き返した。
でも、それでも。
「カール、イェスラ。絶対にエルク様を守ってね。でも王族に危害は加えないように」
『了解、リリを任せたぞリェスラ』
『わかったよー』
『リリはあたしが守るわ』
「レオ……リリアをよろしく頼むね」
三者三精霊が頷きあって。
エルク様とイェスラ、カールは陛下の元へ行った。
私はレナード殿下とリェスラと共に展示物の元へ行った。
「へえ、これは便利だな」
「ええ、うちの使用人にも好評ですの」
「君はどう思う?」
レナード殿下に話を振られて初めて見る…『カレディ子爵、ルクタール家の分家のひとつ』一号のナイスフォローに内心でサムズアップを送る。
「如何ですか、カレディ子爵?」
カレディ子爵に私も尋ねると、子爵は引きつった笑顔でそれでも使用感を教えてくれた。子爵が持っていたもの。それは魔法で焼き付けて書くペン最新バージョンだった。
数種類並べられたペンは、それぞれ消費魔力が違う。
敢えて消費魔力が重いものを通じて魔力を練る練習をしつつ書き物が出来るという魔力特訓用のアイテムだ。
「…キャロル嬢、こちらの販売は何時からの予定ですか?」
「そうですね……早くとも春過ぎになるかと」
「……そうですか」
「どうかしたのか、カレディ子爵」
「いやその……」
販売見込み時期を教えるとカレディ子爵はあからさまに落ち込まれた。私もその様子が気になったけれどレナード殿下が先に尋ねてくれたので共に返答をまつ。
「息子が、春に学園に入学予定でして。入学祝いに贈ってやりたいなと思っただけです」
「なるほど」
ああ、そうか。春前に売り出せば文房具の類は入学祝い需要が見込めるか。でもさすがにそれは厳しいものがある。
これはまだ生産予定の工場なども決まってない完全なる試作品なのだ。
「リリー、これをカレディ子爵に譲ってやれないか?」
んんっ!?
え、何を言ってるんだレナード殿下は。
驚いて変な顔になりそうなのを堪えて、可憐に小首を傾げる。
「数本あるのだから、一本くらい可能だろう?」
いやそれ数本のペンを熟練度に合わせて変えていくものだから一本だとたいした効果が見込めないんですけども。
それに、差し上げた一本を解析されて類似品を作られても困るしこのペンの製造を任せられるほどカレディ子爵と親しいわけじゃない。
レナード殿下がそんなことを言うからカレディ子爵は期待するようにこちらを見てくるし。
レナード殿下は大丈夫だよな!と根拠も無く自信満々にこっちを見てくるし。
内心で頭をフル回転して思い出す。
ずっと絡まないようにしていたから忘れていたけれど。
そうだ、レナード殿下は悪い意味で王族で考えが足りない気質の方だった。そういうところがストレートに嫌いだった。てか、成長してないんですね。
「でも、アイザック殿下に伺わないと私怒られちゃいますわ。新商品の販売に関しては殿下に一任していますの」
なので、面倒はアイザック殿下に丸投げした。
「そうか!ならば俺が兄上に許可を貰ってこよう!」
そう言ってすぐにアイザック殿下の方へ行ったレナード殿下を冷たい目で見送り近くにいた使用人にメルトスへの伝言を頼む。
「無理を言ってしまい申し訳ない」
「いえ、息子さんの入学おめでとうございます。私からも何かお祝いを差し上げられたらいいんですけど…」
「いえいえ、キャロル嬢の発明が凄いのはここにあるものを見ればわかります。あんな風に気軽に言って本当にすまない。断ってくれて構いませんので」
視界の先で怒りマークが見える笑顔のアイザック殿下と必死に食い下がろうとするレナード殿下が居た。あー、あれは駄目って言われてるようだ。まあ、それはそうだろう。カレディ子爵も察したのか申し訳なさそうにしている。
変に期待を持たせてこちらこそ本当に申し訳無い。
そう思っていると悔しそうなレナード殿下が戻ってこられ…同じタイミングでサッとメルトスが私に頼んだものを渡して去っていった。
「カレディ子爵…その…」
レナード殿下が謝罪をしようとした瞬間、慌てて「ああ!」と大きな声を出す。
「カレディ子爵、もしよろしければこちらをどうぞ。こちらは販売中のペンの、新色でございます」
「新色、ですか?」
「ええ。重要なポイントを色を変えるなど工夫ように作ってみたものです。展示物は差し上げられませんがこちらをお子様の入学祝いにどうぞ」
「これはこれは。息子の目の色です。ありがとうございますキャロル嬢!」
何たる偶然、新色の青色は子息の目の色だったようだ。
王族に頭を下げさせる事態を何とか回避し、内心で冷や汗をかきながらカレディ子爵にペンが入った箱を差し上げる。
カレディ子爵は箱を開けてペンの色を見ると嬉しそうに笑った。
レナード殿下も悔しそうにしつつ、安堵しているのが見えた。
いやもう本当、切実に。
エルク様とトレードして頂きたい。アイザック殿下でも良い。
レナード殿下のエスコートは接待一人目からどっと冷や汗をかくことになった。
そんな私の内心とは裏腹に……エルク様は笑顔で陛下と談笑をしていた。
陛下もまた嬉しそうな笑顔をしていた。
本当ならば、エルク様は私の横に居てくれるはずなのに。
陛下への嫉妬心をグッと堪えて、私はレナード殿下と共に招待客への接待を続けた。
なお、レナード殿下はどこまでもレナード殿下だった。
私は王族を謝らせないで、お客様に楽しんでいただけるようフォローをし続けた。
後でエルク様に褒めて頂こう。それだけを思って必死にレナード殿下の補佐をした。