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次の更新は4月7日の6時です
魔石を、わたあめにして紡げば。
網のような物に有型の魔法陣をつけてそこに魔力を通せば誰にでも魔石の糸が作れるんじゃないか。
光らせる、という工程はまだ達成出来ないがそれでも誰でも魔糸を作れるとなれば量産も可能となりさらに今後は刺繍などの形状として電池代わりも出来るので服への加工も……。
魔素水、魔鉄粉の上位版である。
魔法陣を紡ぐ媒介その物がエネルギー。
「リリア?」
食事をとるためのフォークを1本手に取り、銀に魔力を通し形を変える。
わたあめを例にして考えて、網目のサイズを布の目程の細さ。
均一の長さになるように、穴は完全統一にし……網から出た魔力を有形……魔石…石なのか?もはやそれは石なのか?まあいいや、魔石として整える。
形は嵌めやすいように指先サイズ……。
とても細かいサイズなので、魔女の繊細な魔力も使って細かく、細かく作り上げていく。
細かい網目と、それらに刻む有形と強化魔法陣。
深く、深く集中して。
ひとつづつ、刻んでいく。
「……出来た」
どれくらい経過したのか分からないが、気がつけば椅子に座っていた。
指サックのような、銀色の網目のソレ。
試しに嵌めてみると、いつの間にやら周りを取り囲んでいた人達がそれを覗き込んだ。
アイザック様、エリース様、トーマにエルク様。さらにジュゼ様とカースティン様。
若い世代が集まっていた。
「で、これはなんだリリア」
代表で口火を切ったのはトーマだった。のでトーマにそれを渡す。
「見るのが早いので、それを指に嵌めて指先から魔力を出してみてください」
「おう……って、うわ、なんだこりゃ」
目を輝かせてワクワクしているトーマは迷いもせず、指にはめて魔力を放出した。すると、魔道具からまるでピンク色の毛がもさっと生えた。実際は毛じゃないんだけどね。
トーマが驚いて魔力放出を止めたので、ピンクの魔糸は長さ10cm程で止まった。
その糸を掴めば、抜ける感触も切れる感触もなく糸は魔道具から取れた。
せっかくなので固まったトーマを無視して魔糸を全て収穫?して、テーブルにざっと並べる。
艶のある綺麗なピンク色の魔糸。
薄々気づいてはいたけれど、それはトーマの髪そのもののようだった。
魔石の色=髪の色疑惑を当て嵌めつつ、まあ無色の髪色の人はまばらなので無色の魔石は例外かなあ。
そして魔石は硬いのに魔糸はその細さゆえかやはり柔らかくしなる。糸よりは硬いけれども。それこそ、鉄線よりも柔らかい。
そんなことを考えながら、太さを確認するも目視では特に差がないように感じられた。
「……お前、まさかこれ…」
「糸状の魔石です。これで魔糸は誰でも作れるようになりますね」
「……リリア、だからそういうのはまず俺に言ってから公開してくれよ…」
「申し訳ありません」
はあとため息をつきつつも、トーマから魔道具をもらったアイザック様が今度は金色の糸を生み出していた。
トーマとは違い放出を止めずにしばらく出している。すると魔糸は魔力を出している間出続けた。
やらせといてなんだけど、指先から長毛を出す様はちょっと気持ち悪い。
「リリー、これは光布の原材料であってるか?」
「合っていますが、まだです。とりあえず糸そのものの問題は解決しましたが、これに発光の魔法陣を刻む必要があります」
「……それも、たしか先日まだ出来てないと聞いたが」
「そちらの問題はまだですねえ」
そういうと、トーマとアイザック様が向かいに座った。
そして後に続いてエリース様とジュゼ様、カースティン様も座る。
エルク様だけは、座る私の後ろに立っていた。
「光魔法を刻んでると言うがどんなものを刻んでいるんだリリア」
「メルトス……ありがとう。一応基本の光魔法と、劣化を防ぐために強化魔法を組み合わせたこういうものをこんなふうに…」
メルトスが差し出してきた紙に、糸に刻んでいる魔法陣を拡大したものを焼き付けて全員がみれるようにテーブルの中央に置く。
全員がそれを見てーーーーーートーマが真顔になった。
その真顔のこめかみには怒りマークが見えた気がした。
怒ってる。トーマは間違いなく怒ってる。
「……リリア、これは一体なんだ?」
「……発光の魔法陣、だけど」
「こんな無駄だらけの物がか!!ここ!!範囲指定の効果を1ミリづついくつも書き込むより、掛け算省略式を使えばいいだろう!?しかもここ、耐久の魔法陣に無駄がある。光魔法のここと合わせて組み込むならばここの陣は不要になりーーーーー」
あー、やばい。
本職の人を怒らせた。
目が遠くなった私に向かって、激怒極まりないと説教をする魔法陣バカ。
しかもその援軍は思わぬ形で現れた。
「トーマ殿、ここのところ。掛け算略式よりも空間魔法陣を組み込んだ方がいいと思います。効果の広い範囲であるならば、同調の空間魔法を入れた方が結果的に効率がいいかと」
「同調の空間魔法だと……それはどういうものだ」
「古代魔法の一種で、転移の魔法陣化に失敗したものです。が、効果を広げるのにとても適していて……」
「どうぞこちらを」
ジュゼさまが何か暗号のようなことを言い出すと、トーマと二人で研究の高みへと語り出した。そこにサッと紙やペンを差し出すメルトス。
また、そんなふたりをよそにアイザック様とカースティン様は私の父様を呼び、三人でこちらも語り合っている。
「ガイ、この糸で守護の魔法陣を編み込んだチェインメイルとかどうだ」
「……軽くて動きやすくていいですね。既存のマジックアーマーの上位版の実用化を試してみる価値はあるかと思われます」
「ジュゼなら恐らく守護の魔法陣をこの糸で活用する方法を見つけられるでしょう」
国防の話だった。
そんな重要な話をここでしてもいいのか、と目をそらすと、逸らした先ではエリース様が魔糸を紡いでいた。
ふわふわした軽い糸は紡がれて絹糸程の太さになった。
それを数本紡いで、引っ張っては強度を見ているようだ。
そんなエリース様に釣られてか、両公爵夫人がエリース嬢のそばによった。
「強度は中々の物ね。ただ柔らかさが微妙かしら?」
「でしたら、魔糸と羊毛や綿毛を組み合わせてみたらどうかしら?」
「そうね。このままじゃ色も原色で少しきついから…」
サッとそんな三人に糸を詰めた糸箱を差し出すレティシア。
気づけばメルトスの采配だろうか。私の従者見習い達が要人たちに必要そうなものを差し出したりと接待をしていた。
思いがけず始まった、要人たちによる研究?討論?
なんと名称をつけたらいいのか分からないけれど、数人組で色々としている様は不思議な高揚感があった。
ーーーーーでも、このままでは魔糸の一般生産は出来ない。
糸に魔法陣を刻むのと同じ精度で網に魔法陣を刻んでいるのだから。
「お待ちください。このままでは魔糸の安定生産はまだ出来ません。この魔道具の網のような部分に魔法陣を刻むことが出来るのが私一人である以上、まだ一般化は……」
「んー?魔力を入れてここの網で有形化してるんだろ?じゃあお嬢、網じゃなくてここの縁に魔法陣を入れりゃ良いんじゃねえのか?」
「パスタ器具のようですね。応用がきくんじゃないですか?」
私を取り囲んだのは、マスター達だった。
網ではなくふちに魔法陣。そんな単純な解決方法を提示され、あっけに取られている間に呼吸の荒い料理長にパスタを作るための器具を差し出された。
走って取りに行ってくれたのだろう。
受け取ったそれは、まるでトコロテンの器具のようだった。用途もほぼ同じようなものだ。
ソルトに言われた通りに、出口付近に有形の魔法陣をぐるっと1周刻んで中に魔力を込めるとーーーーーあっさりと、パスタサイズの魔糸……と言うには太すぎる棒状の魔石がいくつも出てきた。