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次の更新は4月4日の朝6時になります
「まるで攻撃魔法のような音だな!!」
アイザック様はそこから見事なアドリブでポップコーンとわたあめを盛り上げた。
ポップコーンを食べては美味い美味いと言い、人の注目を集めさせて自らもフライパンで作成をする。
そしてすぐ隣のわたあめの方は……
「少し溜まってからくるっと回すといいぞ」
トーマが何故かわたあめの作り方の指導をしていた。
あの王太子たち何やってるんだと密かに頭を抱えながらイェスラの羽を撫でる。
『わたあめ美味しいよなー。俺、あの棒をぐるぐる回すとこに頭突っ込んで嘴開けて待機したい』
「羽に付いちゃうと暖かな布で拭かないと取れないよ?」
『あーそれは嫌だ。というわけでエルク俺にもー』
「お客様が来たから後でね」
ふっと笑ったエルク様はリェスラへの餌付けで小さくなったわたあめを丸ごとカールに与えた。
俺も食べたいのにーと拗ねるイェスラの背を撫でながら戦場と化した体験場から帰還した……ソルト含め、各ギルドのマスター達三人を迎え撃つ。
「お嬢!!あれ土産にくれ!うちの娘と孫に食わせてやりたい」
「でしたらどうぞご自分で作って見てくださいな。お土産用の袋を追加で準備しますわ」
「おう、じゃあちょっくら大量に作ってくるぜ」
ソルトは速攻で体験場に戻って行った。最近お孫さんも産まれてすっかりじじバカになったと聞くが噂は確かなものだったようだ。
「おう、じゃあ俺は土産であの魔道具をくれ」
「ゼフィリスさん、いくらなんでもそれは……貰えるものならうちだって欲しいですよ」
「なんだよ、言って見なきゃ貰えるもんも貰えねえだろ。というわけでお嬢あれくれ」
「あれを今後どうするかはまだ決まってないのでそれはさすがに無理ですねえ。でもお土産ならどうぞ好きなだけ。ただし、常温で保存しておくとゆっくり溶けちゃいますけどね」
「なんだと…保存方法とかないのか?」
「あまり空気や陽にふれさせず、冷やしておくと比較的もちますよ」
「よし氷室に入るだけ作ってくるぜ」
そしてゼフィリスさんも戦場へと戻って行った。
皇太子達だけでなく、公爵夫人等もまるで童心に帰ったかのように楽しそうに制作をしてくれている。
エリース様は完成した薄紅色のわたあめに星型の小さなクッキーを飾り付けて嬉しそうに笑っていた。
「アレは、市場に下ろす気はあるんですか」
共にそんな光景を見ながら、商業ギルドマスターがぽつりとつぶやく。
「ポップコーンの方は、原材料が乾燥モロコですので市民のおやつなどにしてもらいたいので布教はしようかと思っています。わたあめの方は完全に未定ですね」
別に大したものじゃないから私個人としてはこちらも布教をしてもいいと思っているのだけれど。
こちらは珍しくエルク様から待ったが出されたのだ。
エルク様が止めるのならば、理由などなくても私は止まる。
「そうですか。乾燥モロコはとても固く、粉にするのにも手間がかかるので農村部では不作の時期の非常食でしたから、貧しい人達ほど喜ぶでしょうね」
「……買い込むんですか?乾燥モロコ」
「買い込んだ上で、来年の作付けをしてくれる農家を探しますよ。数年もすれば値は落ち着くでしょうが、それまではモロコは爆発的に売れるでしょうからね」
「程々でお願いしますね。私はみんなに食べてもらいたいと思っていますから」
「もちろん。強欲も過ぎると大事な顧客を手放しますからね」
ふふふと笑い合うが、最後にぽふっと頭を撫でられた。
この人は私を子供扱いしたり大人扱いしたり、よく分からない人だ。
「ですので、これからもどうぞご贔屓を。新事業で取引が減ったとはいえ、今でもリリアお嬢さんは大事な取引先ですからね」
「……いつもありがとう」
「いえいえ。では私も土産のわたあめを巻いてきますかな」
ふふふと笑いながら彼も去っていった。
その後も人が入れ替わり来て、商談や会話を楽しみ。
驚いたことにわたあめに関しては権利を譲ってくれと、ショールディンとダッテバルダ両公爵が頼みに来た。
「これは綿花のようだからうちの特産品にしたいのだ」
「それを言うならうちの毛綿にもそっくりなんだけどねえ」
真顔のショールディン閣下にニコニコ恐怖の笑顔のダッテバルダ閣下。
目の前で繰り広げられる熱い戦いは、エルク様が仲裁をするまで続いた。
「まあまあ、殿下のお許しを頂ければ私としては親しくして頂いてるお二人共に、提供をしたいと思っていますわ」
わかるだろうか、この意味を。
どっちとも仲良くしたいから二人とも教えますよ、と言うついでに
でも今後のことは仲良くさせてもらった方を優先させますよ、という隠れた意味があるのだ。
「勿論だ。我が家は娘の親友であり私の親友でもあるリリア嬢とは仲良くしたい」
「……もちろん我が家も是非とも仲良くさせて貰いたいと思っていますよ」
これに関しては既に実績があるショールディン閣下の方に軍配が上がり、ダッテバルダ閣下は少し曇った笑顔で答えた。
というか親友……。
うん、まあ、うん。言うのは自由だからね…。
「だがしかしやりすぎは注意だ。色々な意味で、これは友としての忠告だ」
やりすぎの定義が知りたいなあ。
そう思いつつも微笑んで頷くと、両閣下の後ろからアイザック様が来た。
「ショールディン、ダッテバルダ。今日は無理を言って悪かったな。リリーをそう責めてやるな、これは俺が無理を言って頼んだんだ」
「殿下……お気持ちは分かりますがあまり追い詰めても行けませんよ。過剰となれば私どももかばいきれません」
「ああ。でも現段階ではリリーの守りが薄すぎるから、もう少し厚くしないとな。リリーが本気になったら何が起こるか分からないから程々にこいつも守ってやらないと」
何となく、不愉快だなあ。
アイザック様の庇護下をアピールするためなのだろうが、確かに守ってもらっているのだろうが何となく不愉快だ。
「アイザック殿下、一貴族に肩入れしすぎるのもどうかと思いますよ」
「従兄弟の嫁だからな。多少は目を瞑れよエルク」
「王族たるもの、公平公正であらねばいけませんよ」
「そうよザック様。貴方は平等でなければ」
さらにエリース様が交ざって殿下を窘める。するとアイザック様は苦笑いを浮かべて手を上げた。
「そういえばショールディン、君のところの新作の絹の新色とても素晴らしいね」
「ああ、もう耳に入りましたか。若いものに当てられてしまってね、うちも負けてはいられないから」
ふふふと笑いながら両公爵が対話を始める。
が、その後ろには虎と龍が見えた。
私に対する態度は、だいぶ柔らかかったんだなあと遠い目をしているとエルク様とアイザック様により私とエリース様はさりげなく閣下たちから離された。
「あの二人は競い合うことで友情を深めているんだよ」
「今度はわたあめをどう売り出すかで競い合うぞ」
笑うアイザック様とエルク様。
色合いも雰囲気も何もかもが違うのに、楽しそうに笑う二人はどこか似ていた。
「ですが、このわたあめは面白いですね。糸が紡げそうで、溶けてなくなってしまうんですもの」
「ただの砂糖ですからね」
紡ごうとしたんだ。
楽しげに笑いながら親指と人差し指を合わせて、紡ぐ動作を見せたエリース様には悪いけれどとても可愛らしい。
「あの機械は砂糖の塊でも行けますの?」
「塊はさすがに、砕かないと……」
砕かないと、無理だ。
砕いて粉にして、細い糸状にして……
『綿花のような』
『毛綿にもそっくり』
『糸が紡げそうで』
塊であったものが、糸を紡げそうになる。
みんなの感想が、頭の中で一本の糸となって繋がった。