11
「とりあえず学園の方はもうちょい俺に任せろ。今後の詳細はアイザックも交えてだ。結局のところ本気で国王が動き出したら止められるのはうちのオヤジかアイザックくらいだからな。………それとも、うちの親父を頼るか?」
「やだ」
「フェルナンドの式までにうちの使用人を増やして、アイザックの派閥をリリアの発明を餌にまとめあげる……この方向で良いかな?取り急ぎリリアの仕事は明日のサロン開催になってしまうけど」
「いいですけど、もう24時間を切ってるんですよ?今から誘いを出したとして来て貰えるとは…」
「来る。確実に来ると思う。リリア、お前には全てを投げ出すだけの価値がある。だからそこは心配しないでこのリストを元に招待客を選んで招待状を出せ」
そう言って渡されたのは数十名の名前が書かれたリストで、その中には私の知己も沢山いた。と言うかほぼ全てが私の知り合いだ。
「……出来るならばこの話、トーマとエルク様が帰宅した時に言って欲しかったのですが」
「ごめんね、先程ようやく話が纏まったんだ」
「帰りの馬車の段階ではまだ提案だったはずなんだがな。俺個人としてはさっき馬車で見たお前が気になって仕方ないんだがな」
「……ちょっと失礼します」
悔しいけれど時間が無い。
作業室と貸していた応接室のひとつを出て、部屋の前で待機していたルチルに中の二人の要望を纏めるように言いつけて、レティシアを伴って母様の執務室へ急ぐ。
「レティシア、明日の夜にサロンを開くかもしれないから厨房と……そうね、メイド達に申し訳ないけれど明日までに魔光灯の準備を。あとダンスルームの片付けを頼んでおいてくれる?」
「あしっ……かしこまりました」
途中でレティシアと別れ、母様に明日のサロンの許可を貰いに行くとおそらくエルク様が既に話は通してあったのだろう。ご存知であったため許可は簡単に下りて、ついでに本日の仕事禁止が撤回された。
さらにサロン開催のアレコレのアドバイスを貰い、どうしても無理そうなら頼るようにと柔らかな笑顔で言われた。
「母様がやるのではいけないのですか?」
「今回のサロンはホストが貴女ということに意味があるわ。とりあえずやってみなさい。もちろん時間が無いから補助には回るわ」
「…わかりました」
こっそりと母様にやってもらおうとしたけどダメだった。
諦めて厨房に向かいながら変わった料理を考える。
ここで女子力が高い子ならばお菓子とか、色んな料理のレシピが出てくるのだろうがあいにく私はゲーマーだったのでそういったものは食す専門だ。
ただ、インパクトのある料理で現時点では二つ心当たりがある。
「料理長、居るかしら?」
「お嬢様!!話は伺いました。とりあえず明日の料理はこんな感じで進めてもいいですか。仕込みが間に合うのはこんなもんです」
「………うん、いいと思う。それと食材を買いに出た時についでにクルルーの餌の乾燥モロコをたくさん買ってきて欲しいのだけれど」
「……鳥の餌、ですか?」
「うん、ちょっと料理に使おうと思って」
「そいつはいけねえお嬢様。乾燥モロコは加熱すると爆発する危険な植物だ。生ならまだ茹でりゃ食えたもんだけど今の時期は鳥の餌用の乾燥モロコしかないですぜ」
「ん。大丈夫わかってるよ。少し試したいことがあるんだ。あと砂糖も多めに買ってきて欲しいかも」
「は、はあ…わかりやした」
訝しげな料理長はそれでも了解してくれた。
心配そうな彼に笑顔で礼を言うと、今度は私の執務室へ急ぐ。
「メルトス、居る?」
「なんですかお嬢様」
「聞いてると思うけど明日サロンを開くことになったの。なので明日は支度にかかりきりになると思うから今のうちにやらないといけない仕事と、明日のサロン開催に必要なもののリストアップを手伝ってくれる?」
「既に始めています。招待状の方は如何されますか?」
「それは今から書くわ」
「でしたら、ジャック。マイクとシャルマとリアを大至急呼んできなさい。ルチルとレティシアは別の作業中ですね?」
「ええ。とりあえずこれを片付ければいいのかしら」
「いえ、とりあえず招待状の基本をプリントアウトでまず人数分刷ってください。私はその間に名簿と見舞いの手紙を符合させますので招待状を急ぎ仕上げてください。急げば本日中で間に合うと思いますので」
「わかった」
そこからは正しく修羅場であった。
招待状を書いて、風系の精霊持ちをフル活用して招待状を届け。
同時進行でダンスルームの飾り付けの指示、公開魔道具の選別、料理やお酒、ジュースや菓子などの手配。
落ち着けばサロンに招待しない人たちへの見舞状の返事に溜まった仕事。
気がつけば居たエルク様と手紙の配達筆頭になってるトーマとともに夜遅くまで仕事をし、明日も学校に行く予定のエルク様とトーマを追い出してからも従者たちと朝まで書類を片付けた。
その忙しさは日中も続き、準備に明け暮れ。
入浴しながらレティシアに肌の手入れを任せながら仮眠を取り、仕方が無いので『アレ』を作るための道具を鉄塊に魔力を込めて作り、人に見せられるように飾り付け。
とにかく必死だった。
初めてのサロンのホストがこんなに時間が無くて良いのかと半泣きになりながら準備をし。
昼過ぎには全部の招待状から参加の返事があった。
さすがに公爵夫妻からの返事には急遽の開催による嫌味のような文章が添えられていたが、実際吐きそうなくらい急な出来事なので仕方がないだろう。
学園で午後の授業が始まった頃。
乾燥モロコを油と一緒に今朝作った鍋に入れて、そこに仕込まれた温度変化の魔法陣を発動する。
乾燥モロコ。その粒は私のイメージするものよりも大きいがこれはきっと……
パンッ!!パパパンッ!!
激しい爆発音が部屋中に響き渡る。
しばらく激しい爆発音が連続して起こしていると、ダンスルームの飾り付けを行っていたメイドが心配そうにノックをしてから部屋に入ってきた。
「お嬢様、襲撃では…ありませんよね?」
「ええ。ああ、ちょうど出来たからちょっとこちらへ来てくれる?」
「はい?」
そばかすのメイドは、確か掃除担当の娘だったか。
爆発音が納まった鍋の蓋を開けると……中から真っ白のポップコーンがでてきた。
思った通りだ。モロコはとうもろこしだったのだ。
軽く塩を振って怯えるメイドの前でまずは自分で味見をする。
すると思っていたものと違いモロコポップコーンは甘かった。
キャラメルポップコーン程は甘くなく程よい。
だがしかしどこかで食べた事のある甘み……はっ、これはコンポタ味だ…!!
これならそのままの方が美味しいかもしれない。
懐かしの味につい、何個も食べる。
だが自分だけの完成ではダメなのでたまたま来ていたメイドの彼女にも少し手渡ししてポップコーンを渡す。
「はい、味見してみて」
「……不思議で、とても美味しいです」
とても嬉しそうな顔をしてくれたことが嬉しくて。
鍋から溢れ出したポップコーンを大きめの風呂敷で包んでメイドに渡す。
「これ無茶させたお詫びにみんなで食べて。それで感想をくれると嬉しいな」
「…ありがとうございます。けれどこの程度なら無茶に入りませんのでどうぞお気軽に申し付けください」
「うん、ありがとう」
さて次はわたあめを作るかと意気込む。
熱した砂糖を網のような小さな穴の空いた機械に入れて、それを回転させるだけのそれ。
結果だけいえば前世で子供用のわたあめ機を持っていたことが功を奏し数回の調整で成功した。サロンまでの実働も、少々改良をすれば問題は無さそうだが。
「………」
部屋中に飛び散ったうすぐも。
わたあめは無事に出てきたのだが。
囲いを作ることを失念していたため、部屋中にわたあめが飛び散った。
『リリばかだなー』
「返す言葉もない…」
それを、イェスラとリェスラが食べて回り私は掃除して回る。
サロンまであと数時間なのに、やらかした……!!