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0歳児スタートダッシュ物語  作者: 海華
二人の戦い編
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10



「トーマ、そこは立体型で集音と、安定と威力調整を刻んでね」


「随分な無茶ぶりだなおい!!」


ブツブツと文句を言いながらも、トーマは呻きながら桃色魔石に魔法陣を刻んでいく。私もトーマの魔石と、電池となる私の魔石を埋め込む台座と、補強の魔法陣を刻む予定の黒色魔石を作っていた。


現在室内にはルチルとレティシアが居て、エルク様は名残惜しそうに仕事をしに執務室へと向かった。その身に纏う魔道具の数は、とても少ない。

先日の一件で、エルク様の魔道具は全て魔力として消費してしまったので、せっかくだからトーマも使って魔道具を新調しているのだ。



これでトーマは私の魔道具のレシピを知れるし、私も早く作れるし、ウィンウィンである。

なお、もちろんのことだが、アイザック様に他言禁止された魔道具は、さすがに一緒には作っていない。



「トーマ様、桃色の魔石が大きすぎますわ。もう一回り小さめのものでお願いします」


「まじか…作り直しとか…」


「トーマ早く作ってー」


「くっそ、待ってろよ!!」


せっかく作った物も、デザイン担当のレティシアに却下をされて、トーマがやさぐれた。

そのまま私だけ次のものを作ってもいいけれど、まあ置いていくのもあれかなと思い、今日一日離れていたリェスラを抱き上げて視線の高さを近くする。


「リェスラも今日はお疲れ様。トーマをしごいてきたの?」


『いっぱい相手したわ!』


「そっか。トーマと遊んでくれてありがとうねリェスラ」


「逆だ逆。俺が水竜と遊んでやったんだっつの。おいリリア、髪結ぶものなんかくれ」


なんかと言われても。確かに下を向いて作業をする分には垂れてくる髪が邪魔だ。トーマも私も。


少し考えて、2箇所で髪を緩くゆっていたリボンを解いて片方をトーマに渡し、残った方で私の髪を一括りにする。

さっぱりしたいので少し高い位置でポニーテールを作る。すると、何故かそれを見ていたトーマも同じ位置でくくり出した。


長さが足りないせいでとても短い尻尾になったそれを得意げに見せて笑うトーマ。

その様子を見ていると、ふっと笑いが込み上げてきて二人でくすくすと笑いあった。


「リリアにトーマ、ちょっと聞きたいことが……」


するとエルク様がちょうど部屋に入ってきて。

エルク様は私とトーマをキョロキョロと見ると、即座に首に巻いていたスカーフを外して私たち同様髪を高い位置で結った。


そしてどうだ!!と言わんばかりのドヤ顔を浮かべるものだから。


「ブハッ」


「お、お似合い、です、っっっ」


トーマと二人で机に突っ伏した。

かみ殺せない笑いが結局溢れ出て、三人で楽しく笑いあった。




エルク様の魔道具を数点作って、エルク様の方も仕事が落ち着いて。


もうそろそろ寝る時間だなと思いつつ、三人で他愛ない話をしながらお茶を飲む。

なお、他愛ない話をしながらトーマはリェスラと氷塊の特訓をしていた。


「リリアとトーマは、まるで兄妹のようだね」


それは唐突だった。

唐突にエルク様がそんなことを、羨ましそうに言うものだから、私もトーマも目を合わせて首を傾げる。


こんな兄はいらない。


トーマも視線で、こんな妹はいらないと言っているのがよくわかった。


「うん、そんな所も含めてね。まるで市井の兄妹みたいじゃないか」


市井の兄妹。

そう言われると何となく納得ができて、エルク様の後ろでは、レティシアも笑顔を浮かべて頷いていた。


リリア・キャロルとしての兄は、想像もつかなかったが。


もし町娘のリリアだったら。



こんな兄が居たら大変そうで、めんどくさそうで。



でも、確かに楽しそうだな。


ほんのりとそんなことを思う。



「じゃあ俺の、大量の兄妹のひとりになるか?リリア。」


「なりませんし、うちのリズは渡しませんからね」


トーマのニヤニヤ顔を見ながら、同じような顔を浮かべて軽く牽制を打ち合う。


どっちも本気ではないので、そりゃ残念。と牽制合いは簡単に終わる。


緩んでいた空気だったが、不意にエルク様から張り詰めた空気を感じた。

そして、トーマも真剣な空気を出し始める。


二人の様子から大事な話だと判断して………レティシアとルチルに退出を命じた。



「まずリリア、君はどこまで知っているかな」


()()()ことですか?」


「陛下のことだ」


国王陛下のこと。

幼少期に御逢いした優しげな顔も吹っ飛ぶ先日の冷淡な様子。



「私が存じているのは、恐らく私の悪評は陛下が発信源であろうと言うことだけですわね」


「初めは魔術棟の爆破で、犯人候補にお前の名前があった」


聞いた瞬間、すっと背筋が震えた。


「その時期から僕が知らない影が、身辺に隠れだして、僕が使っている影も少し信用が出来なくなってきたかな」


「ああ、まあエルクが使っていても影は、王族直属の部隊だからな。国王が関与してても不思議はないだろ」


そんなの、知らなかった。

エルク様が王族が使うという影をつかっていたことは知っていたが。

エルク様が水面下でそんなことになっていたなんて。


「義父上が団長を退いてから、色々と妨害工作もされています。今までは僕やアイザックや、義母上が対処出来たから良かったのだけれど……リリア、陛下はもうなりふり構わないようになってきている。君も気をつけて」


「……後で、報告書をください。私は知らなすぎたようです」


それはもう知らないで済まされることじゃない。

次期当主として、私が知らないといけなかったことだ。


教えてくれないみんなを恨めしく思うも、知る努力が足りていなかった、自分の不甲斐なさに腹が立つ。


「僕が、隠してたんだ。リリアが僕に色々と任せてくれていることをいいことに…。まさか陛下がこんなことをするなんて信じられなかったし、僕の身内が君を攻撃するなんて信じたくもなかったんだ。ごめんね、リリア」


「……ご配慮ありがとうございます。けれど私は、エルク様ひとりに丸投げしないで一緒に戦いたかったですわ」


「うん、一緒に頑張ろう」


無知は罪だ。まさかそんなことになっていたとは。

思い返せば、使用人が雇えなかったのもそうなのだろう。他にも色々と、まさか……と思う心当たりがある。


凹んでいるとエルク様が茶器を持っている手に触れて、そちらに意識を向けると切なそうな目でこちらを見ていた。

今飲んだ紅茶を吐きそうなくらい素敵だった。


「それでだ。明日は休みだし、夕方からお前『サロン』を開け。明日だとちょうどいいヤツらの都合が上手いことつくらしい」


「……何言ってるの、一日で準備が整うわけないでしょ。それに私はサロンの主催なんて、やった事も行ったこともないし」


「あー、内容はお前の作った未公開の魔道具を、適当に転がしときゃ良いだろ。メンツはアイザックを筆頭に、お前を裏切らない奴らだ。今はとりあえず、噂でもなんでもダメージを受けるからな、お前の立場を守る派閥が必要だ」


「実際は派閥としては、この話を提案してきたアイザック様が筆頭になるだろうけれど。軽食なんかは、リリアが何かアイディアを出したものがあれば、いいんじゃないかな」


エルク様もトーマも何言ってるんだ。

特にエルク様。私がなんでもできると思ってるんじゃ……だいたい侯爵令嬢のアイディアなんて……そこでふと気づく。


先程とは打って変わった笑顔のエルク様の頭の上で、イェスラが毛繕いをしていることに。

いや言い直そう。

わざとらしく、長々と毛繕いをしている。



お、おま、ばらしたな…!!


エルク様は私が違う世界の記憶もちと知っている。

つまり彼が提案してきたのは異世界の茶菓子だ。

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