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0歳児スタートダッシュ物語  作者: 海華
二人の戦い編
141/177

9

バッサバッサと羽を大きく羽ばたかせながら、足で器用にリズの身体を掴むイェスラを見て、一瞬で気が緩んで、魔力も空気も霧散してその場に崩れ落ちるように地面にへたり込む。



『リーリ!!危ないだろ!』


「ごめん…ありがとう。ありがとうイェスラ。ごめん、ごめんねリズ…」


クリクリの目を大きく開いて、ぽかんとしたリズが私の前に下ろされると、イェスラごと強く抱き締めた。

恐怖で腰が抜けて動けない。

ので二人を抱き寄せる。


『全くもう。妙な空気の流れを感じたから戻って来てよかった』


「うん。ありがとうイェスラ。本当にありがとう」


イェスラは今日はリェスラを連れてエルク様と学園へ行っていた。

ここ二日ずっとベットにいてなまった身体を、トーマをしごいて動かすんだ!!とノリノリなリェスラを、トーマのもとに送り届けたら、すぐにうちに帰ってくる予定ではあったけども。

まさに最高のタイミングであった。


はあ、とため息をつくと涙まででてきた。


ああ、もう本当にリズが無事でよかった。


「ねえさま!ねえさま!」


「ごめんなさいねリズ。どこか具合の悪い所はない?」


「私は大丈夫よ!!だから姉様、今のもう一回やって!」


期待に満ちた目で私を見上げるリズ。

好奇心がいっぱいのリズの目をしばらく見てから、

私は無言でリズのおでこにチョップを落とした。





『あーそうそうそんな感じ。上手いなリリ』


「リズあっちに見えるのがキャロル領よ」


「すごーい。姉様、あの町はなんという街ですか?」


「お勉強、してるはずよ?」



イェスラがこっそり監修の元、リズと一緒に上空へ舞い上がって景色を楽しむ。

足元を見たら腰が抜けそうなほど怖いので、決して気は抜けないが、三度目の上昇でほんのちょっとだけ慣れてきた。


朝に二度。昼を食べて、リズの座学をしてからの夕方の3度目だ。

夕陽に照らされる王都は綺麗だったが、足元が暗くなっていくのは、それはそれで怖かった。

見えても怖い。見えなくても怖い。


ならば、無視するしかない。


うーんうーんと悩むリズをしっかりと抱え……念の為にリズにも個別に結界をはってある……明かりが灯り出した街並みを見下ろす。

それはとても美しかったけれど、何となく明かりが足りないと思うのは、きっとあの世界の記憶のせいだろう。


あちらは、光が溢れていたから。


そこまで考えてぼんやりと思ったのは、東京タワーだった。


東京タワーが作られたのは、スマホが作られるずっと前だった。

とても頑丈で、とても高い塔。


当時から光は溢れていたのだろうか。

分からない。分からないが……私と違って比較することの無い夜景は、きっと美しかったのだろう。



鉄作りの高い塔、か。



……この世界の居住は土や石や木だ。

その事に不満を覚えたことは無いが……鉄塔。とても強度が高そうだ。


キャロル領は優れた魔道具技術により、観光客が増え、観光客のおかげで宿や土産物などといった産業は発展しつつあるが、それはあくまで『魔道具を買える富裕層』がターゲットだ。


東京タワーのような、観光施設があったら。

そして塔の下でも上でも良い、そこに中ホール程の劇場を作ったら。


『国で一番高い劇場』と来たら、公演希望が続出するだろう。

そこで大道芸やお芝居、ミュージカルやコンサートが定期的に行われれば。


…………なかなかに面白いものが出来そうだ。


一生に一度は観光に行きたいキャロル領。


なかなかいい響きのフレーズだ。

もちろん夜はライトアップして。

雨や風化を防ぐために電飾は通過性のある頑丈なものでコーティングして……


つらつらと取り留めのないことを考えて、はっと気づく。



通過性のあるものでコーティング。


布は、光を通す。

ならばドレスの中で光を起こせば、光るドレスを簡単に作れるのではないだろうか。

もちろん布自体が光るものの開発も行うが、どう考えても手間がかかるので、値の張る布が光るドレスと、安価でしかも洗濯も簡単な光るドレス……他のドレスに使い回しも可能。なものを一種類ずつ作ってはどうだろうか。



「ねえさまどうしたんですか、すごく嬉しそうですわよ」


「うん、悩みが少し解決しそうで」


むぎゅっとリズの小さな体を抱きしめつつ、頭の中でぐるぐると布が光らないドレスの設計を思案する。


「ねえさま!!あれ見て!!」


と、不意にリズが嬉しそうな声を出して指をさすので、そちらを見るとそこにはうちの馬車が走っていた。


おそらくあの馬車は学園から来ている。

つまり乗っているのは、愛しい人だ。



逢いたい。


その欲求に逆らわず、私は風を操りそちらの方へ、リズとイェスラと共に飛んで行った。




「お嬢様!!」


「安全運転でね。停めなくてもいいわよ」


馬車が人気のない所へ来たのを見計らって馬車に並走すると、見知った御者が驚愕の声を上げて、室内に居る人を呼ぶベルをかき鳴らした。


そして開かれる小窓。


目が合う、驚いた顔のエルク様………と、トーマ。


一瞬で笑顔が固まって、誰も言葉を発さず、移動はしてるけど一瞬時が止まった。



「あ、トーマ様も居る!」


嬉しそうなリズの声で我に返ると、私は速攻で出力を上げて、急上昇をして空へと舞い上がって、屋敷へ戻った。


「待て!お前なにやって……」



めんどくさいやつに、新しい試み見られちゃった。








「で、朝のあれはなんだ?さっき飛んでたよな?どういうことだ?」


トーマはエルク様と帰宅するなり、自室に逃げていた私を客室まで引きずって行った。もちろんお年頃の二人が一緒にならないように、部屋にはエルク様も苦笑を浮かべながら紅茶を飲んでいる。


「あー、うん。うちのイェスラ優秀だからじゃない」


「嘘つけ!朝俺のそばにはイェスラは居なかったぞ!」


「別にトーマのとこに行かなくたって、あれくらいイェスラも出来るよねー?」


『なー?』


「リリア、『イェスラ()』って言ってる時点で認めちゃってるからね」


まあトーマには隠さなくてもいいかもと思ったから、雑に対応をしていると、エルク様が隣の席をポンポンと叩いたので滑り込むようになめらかに彼の隣に座る。


「それでリリア、今日から魔国へ行くまでの間、トーマをうちで預かることになったから」


「それはまた、何故?」


「………ルクセル王家は、突然精霊に危害を加えるからな。信用出来なくなっただけだ」


そしてトーマも座って紅茶を飲んだ。けれど視線はわざとらしくこちらへ向けない。

……おそらく、王宮での一件について彼なりに怒ってくれているのだろう。国際問題が心配だが、エルク様が連れてきたということは、母様もご存知で、おそらくエルク様が何かしら行動を打った後なのだろう。……多分、アイザック様も。


ならばトーマは、ひと月と少し我が家に滞在する。

理由も原因も、まあ良い。


「じゃあトーマ、完全に部屋を貸すだけのお客さん待遇と、私と一緒になって馬車馬のように働く使用人待遇と、なんでもありの親友待遇のどれがいい」


「もちろん、俺は親友だろ」


にこりとプリンススマイルを浮かべたトーマ。

そして私もにっこりと淑女スマイルを浮かべた。


言ったな、トーマ。

やったね優秀な社畜ゲットだぜ!!

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― 新着の感想 ―
[一言] うむ。叱る人いないんだな、と思っていたが、まあそうなるよね 物語を動かす要素にはちゃめちゃな人は必要だけど、身内だと凄いイライラするんだと知りましたよー
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