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『リーリ。ほらもう朝だぞ』
顔を箒が撫でる夢を見て、
ゆっくりと目を開けるとイェスラ(中くらい)が人の顔でバフバフしていた。
その羽を鷲掴むと、そのまま胸に抱き込む……なんだかすごく疲れてまだ眠いのに。
布団が硬かった。ついでに寒かった。
と言うかテラスの石の床に毛布を敷いていただけだ。そりゃ痛いよね。
ので渋々と息を吸って起床すると、周りは土で囲まれていた。
上は塞がれていなく明かりは入るが周囲は完全に土の壁で入口がない。
恐らくカールが不審者が入らないようにしてくれたんだろう。
眠った場所もよくよく我に帰れば庭園に面してるテラスだったからね。
「おはようイェスラ。具合はどう?」
『まあ何とか。リリもカールも悪かったな』
「とりあえず回復したようなら良かったわ」
ガチガチに固まった体を起こして、軽くストレッチをする。
エルク様は居なかった。おそらくもう仕事へ行ったのだろう。
リェスラもいないから、きっとリェスラがエルク様を守っているのだろうと想像が付く。
『兄貴ー、もう大丈夫?』
『おう、カールにも世話になった。リェスラはエルクと一緒か?』
『うん!!私が絶対絶対に守るから!!って威嚇しまくりながら学園に行ったよー』
「それは良かった」
ふう、と息を吐きながらテラスに備え付けられた椅子に座る。
すると即座に羽ばたいたイェスラは私の膝の上に止まって見上げてきた。
『かなり貰っちゃったけど、リリは平気か?』
「……魔力切れと寝起きで少しクラクラするかな。でもいつまでもこうしていられないし、そろそろ帰らないとね」
「じゃあほら、抱いてってやるよ」
ふっと人になったイェスラに抱き上げられると、周りの土壁がサッと消えた。
すると周りにはメレと、城の使用人達が数人待機していた。
「お嬢様、もうお加減は大丈夫ですか。エルク様より具合が悪いからもう少し寝かせておけと仰せつかっておりますが」
「少しめまいがするだけで大丈夫ですわ。それよりもそろそろ家に帰りたいのですが、どちらに挨拶をすればいいですか?」
「はい、お嬢様が出てきしだいアイザック様が執務室に来るようにと言付けを預かっております」
正直嫌だったけれど。
嫌々で全てがまかり通る訳でもないので、その言葉に頷いてイェスラに抱き上げられたままアイザック様の執務室に連れて行ってもら。
人型のイェスラは正直精霊だけあって神秘的な美青年だ。
エルク様の次くらいにはかっこいいと思う。
とは言えエルク様より人気はあるらしく、すれ違う人全てがざわつく。
微笑みを浮かべたイェスラも、王城を警戒し無表情を貫く私もそれら全てを捨ておくけれど。
そしてアイザック様の執務室は精霊が入れない禁域にあり二人が中に入る許可が出ているかもわからないため、禁域ギリギリの位置でメイドを見つけアイザック様への伝言を頼む。
王太子への伝言を頼んだせいかメイドは顔を真っ青にさせていて申し訳ないけれど歩くのが億劫だったためあえて頼み込む。
すると、アイザック様は走ってこちらまで来てくれた。もちろんそのまわりには護衛や従者もいる。
と言うかアイザック様、今日は学園の登校日であるのに普通に休んでるんですね。私もだけど。
「リリー!!歩けないとはなんなんだ!!大丈夫か!?」
「ただの魔力枯渇ですわ。回復する傍からイェスラに注ぎ続けたので今現在魔力が空っぽですの」
「そうか……それで、お前の精霊は無事だったか?本当にあの鳥には悪い事をした」
「お陰様で酷い目にはあったけど、リリのおかげでもう大丈夫だ」
イェスラの返事に目を瞬かせたアイザックは側近が何かを囁くと納得したのか、息を大きくはいて頷いた。
「良かった。リリーの大切な精霊に何かあったら俺はリリーに二度と顔向けできないところだった。精霊よ、うちの身内が悪かった。お前の居た場所に問題は無いし、お前がやっていたことも問題は無い。今回完全にこちらの過失だ」
「将来王になるものが、容易く頭を下げては行けませんわ」
「俺の頭でリリーをつなぎとめるなら、安いもんだ。お前はそれだけ俺にとって必要な人物だ」
誠意を込めて謝罪をされてしまっては、許さざる得ない。何せ相手は皇太子だ。キッとしばらく睨んでからため息をついてイェスラの胸に顔を填めた。
お日様のいい匂いがするけれど、私はやっぱりエルク様の香りの方が好きだ。
「アイザック様に免じてこの一件はなかったことにしますわ。で、わたくしはもう家に帰ってもよろしいんですの?呼ばれた理由聞いてませんけれど」
「ああ、呼んだ理由はもう終わった。疲れているようだし屋敷でゆっくり休んでくれ」
コクリと軽く頷いて、イェスラが元来た道を歩き出すと。
『父上に気を許すな、警戒しろ』
耳に、そんな声が聞こえた。
恐らくアイザック様の精霊の仕業だろう。すぐ側に彼の精霊がふわりと漂っていた。
伸びをするふりで、軽く手を挙げてアイザック様に是の意思を見せてから私と精霊たちはそのまま屋敷に戻り。
屋敷への連絡はエルク様がすませていてくれたらしく、私は感謝をしながら自室のベットに飛び込んだ。
そしてそこで意識は切れた。
イェスラやカールも一緒にベットに転がったのかも分からないくらい、私の意識は速攻で闇に包まれていた。
「あーもう!!くっそ、回復薬追加しないといけないじゃん!!」
ランキング10の報酬のためには、下からの追い上げも考えて5位くらいには入っておきたい。そのため泣く泣くお布施を追加して、行動回復アイテムを買い込む。
イベント終了まで、あと一時間。
最短時間で最高効率で、ステージを周回する必要がある。
…………。ああ、もう行動力が切れた!!
あと20分もある。
今月の投資額を考えて、順位を見て。
残業時間から無理ができる給料が入るかも考えて。
本当に渋々、回復薬を追加した。
そしてタイムリミットが来て、私の順位はーーーーーー七位。
よっしゃあああああ!!一位の限定は無理だけど、ベスト10報酬はキターーーー!!
ああ、もう。
行動力が無限にあればいいのに。
どこまででも、なんでも、やりたい放題出来ればいいのになあ。
(でもやりたい放題でも、結局嫌なことがあるよ)
ああ、これは夢だと自覚した瞬間ふっと目が覚めた。
が、体が上手く動かない。
ゆっくりそちらを見ても誰もいなかった。
なんでこんなうごかないの。そう思いながら反対を見るとそこにはエルク様と一緒のはずのリェスラが眠っていた。
「………」
起こすのもしのびないと思い、動きにくい体にムチを打って起こす。
体内魔力は……うん、回復をしている。満タンと言ってもいいだろう。
窓の外は暗く、もうすっかり夜みたいだ。
いやしかしなんだろう。数日熱を出して体が動かなくなったレベルで、体が痛い。
軽く腰を捻るとボギギギッと不安を感じるほどの音が出た。
そのまま腕や首も回してポキポキと言わせながら、
とりあえずエルク様の部屋と執務室に行ってみよう。
そう思い部屋を出ると、こちらに来たレティシアと目が合った。
「ああ、ごめんなさいレティシアちょっと寝すぎたみたいで。エルク様は今どこに?」
「お、」
「お?」
「お嬢様が目を覚ましましたわああああああ!!!!」
そして突然絶叫されて抱きつかれて、胸に顔を突っ込まされた。
レティシア、おっきい………。




