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0歳児スタートダッシュ物語  作者: 海華
二人の戦い編
134/177

2

1.まず周囲に魔力を放って『欲しい音』を捜索します。もちろん音は一瞬で消えるので素早い捜索技術が必要です。


2.瞬時に希望音を見極めて、その場所から自分の場所まで音の空気の波を魔力で空気をいじって作ります。


3.そうして集めた音で音楽を作ります。


ム、ムリ…!

ドレミで言うドの音を探すだけでもしんどいのに、さらにそれを自分の元へ持ってきて、それをいっぱい集めてメロディとかむりむりむり!



原理を理解して、そのあまりの難解さに目眩がする。



「イェスラ……これものすごくキツくない?」


「人間離れしたリリならいつか出来るって。それにこれは魔力を飛ばす範囲の訓練や、遠い場所での魔力操作の訓練、判断能力の強化が出来るんだぞー」


か、簡単に言ってくれるなあ!もう!


その場に座り込んで、とりあえず音を持ってくるのは後回しで操作範囲拡大と判別の練習のために周囲に魔力を漂わせる。


「リリ、そんな量をあっちこっちに出してたらすぐに魔力切れるぞ。あるかないかギリギリに薄めていいんだ」


そうアドバイスされて、魔女の呪いレベルのうっすらした魔力を操る。

魔力量はぐっと楽になったけれど、この魔力はうっかり人に触れたら呪いを引き起こす危険なものだ。生き物に害をなさないように慎重に漂わせていく。


とりあえず修練場の中だけに。激しい動きのエルク様を避けて、けれど彼が起こす音を捕まえられるように限界まで近くに。

エルク様の動きは読める。カールを追っているから。

けれどカールの動きは読めないので、カールに近づける魔力は慎重に慎重に漂わせる。


ふわふわと漂わせ、カールが突っ込んできた時に一瞬退避が遅れた。

するとカールにパクッと漂わせた魔力が食べられた。

そうか、魔力を精霊に食べられることもあるのか。

慎重に、慎重に。



不意に、捜索している魔力が別の魔力をとらえた。

位置入り口。

捜索魔力を動かそうと考えて……別の魔力の周りだけ、普通の魔法レベルに濃くした。

下手に動かすよりもこの方が人間=音に魔力も密着できて効率が良くなった。


その魔力をとり囲もうとすると、魔力は結界に阻まれて近づけなかった。

そうか、捜索を結界で阻むとこんなふうに感じるのか。


感心している間に、その塊はこちらへ向かってくる。



そして、その塊は私の前に来ると……



「寝てるのか?」


そう言って私の頭をポスっと軽く叩いた。

触れられたことで、出していた魔力を一気に戻して目を開け見上げる。


「やあトーマ。もうお昼休み?」


「ああ。こっちに居るってエルクから伝言が来たから来てみた。エルクもすごい訓練やってるな」


言われてエルク様を見ると、彼はよろけながらも懸命にカールを追っていた。

時刻板を見ると確かにお昼を少しすぎた時分で。


立ち上がるとどれくらい集中していたのか固くなっていた身体を動かしてほぐす。


「私たち今日はここでご飯食べるよ?」


「ああ。俺も適当に買ってきた」


「で、トーマは何しに来たの?」


「お前らが鍛えてるって聞いて、どんななのか気になってな」


「あ、そう。エルク様!昼食にしましょうー!」


大きな声をかけるとカールは立ち止まってエルク様の胸元に突っ込んだ。

よろけながらもカールを抱き上げたエルク様はゆっくりとこちらへ来る。

滴る汗。上気した頬。

生命の色気滾るその姿に産まれたことを感謝する。


『また遊ぼうね!ねー!エルク!』


「ああ…」


エルク様が私たちの前に来ると、修練場に溢れていた土や石はシュッと消えた。

そして鳥に戻ってエルク様の頭に乗るイェスラと肩に乗るリェスラ。


『ほらエルク、さっぱりー』


『筋肉の硬直ほぐしてあげるわ』


「二人ともありがとう」


ファサーと風とかで汚れや汗を飛ばすイェスラに、目を閉じて多分体内の流れを調整するリェスラ。

そして嬉しそうに尻尾を振るカール。


三体の精霊に囲まれたエルク様は困ったように私を見て笑った。



「情けないけれどだいぶなまってしまっているね。私はしばらく鍛錬の時間をとるけれど良いかい?」


「もちろんです。私も出来る限りお付き合い致しますわ」


「ありがとうリリア」


「おーいおふたりさーん。俺も、俺もいるからねー」


そして修練場の隅に座って三人でパンを食べた。

私からしてみたら体育館でだべっている気分なので構わないのだけれど、王族二人がこれってどうなんだろう。


リェスラを膝に乗せて撫でながらパンを小さくちぎって食べるエルク様。優美。


雑に座りながら、パクパクとかぶりつくトーマ。本当に王族かお前。


とりあえず淑女として私も小さくちぎって食べるけれど、そもそも修練場で座っている時点でエリース様あたりには怒られてしまいそうだ。


「そいやリリア、エルク。フェル達の結婚式に行く時って俺も一緒に同行してもいいか?お前らと一緒が一番安全そうだから」


「えー。それだと私たちの危険度が上がりそうなんだけど」


腐っても王太子。私たちよりも襲撃の可能性は高そうだ。


「良いだろ、一人だと道中暇なんだよ」


「エルク様と街をデートしたり冒険者ギルドを視察したりしながら行くから旅程長くなってしまうよ」


「お!俺も冒険者ギルドとか行ってみたい!クエストとか受けられるのかなあ!なあなあ!」


「言っておくけれど、私は冒険者ギルドで人材募集と現状見聞をするんだからね。付き合わせないでよね」


「いいじゃん、なあエルク!三人でパーティ組んでちょっと遊ぼうぜ!」


「同行の準備は整えますが、クエストを受けることについては何も言いません」



「いいじゃんいいじゃん!」


ケラケラ笑いながらエルク様の肩を叩くトーマと、困ったように笑うエルク様。

やんちゃな弟としっかり者のお兄ちゃんみたいで、随分仲良くなった二人に内心で少し驚く。

いや驚くことでもないか。

基本的にエルク様は面倒見がとても良い。


私を筆頭に、なんだかんだ言って王家の三兄弟の教師をしていた過去もある程だ。

最も、エルク様の授業は大変厳しかったらしい。

初めて出逢ったあの日も、失態を起こした二人のフォローと共にお説教をするために来たらしい。


そう思うと、初っ端から無礼だったレナード様には少しだけ感謝を抱く。

彼が幼く傲慢で、冒険とかドラゴンに憧れて無かったらエルク様と出会えなかったのだから。




食事を取ってから三人でストレッチをしていると、他の生徒もちらほらやってきた。

けれど挨拶はしてもこちらに来る生徒はいないので、せっかくだからそのまま三人で訓練をする。


エルク様は腕立て伏せや、腹筋などその場で出来る運動を始めた。

カールが足の上に乗って抑えたり応援したり楽しそうだ。

トーマの特訓を手伝いだしたのは、意外にもリェスラだった。


『エルクとリリを大切にしてくれるからちょっとだけね!』


そう言いながらトーマに氷塊の訓練をし始めた。

初め、トーマは普通に出来なかった。

「こんなの無理だろ!?」

そう文句を言い出したので、感知魔力を飛ばす訓練をするかたわらサクッと作ると呻き声をあげながら真面目に取り組み出した。


が、時間切れでリェスラにお題を変えられる度にうめき声が聞こえて。



私は私で、人が増えた修練場で魔力を飛ばす訓練を重ねる。

空気の揺らぎが無い……音がないところは魔女の魔力で。

揺らぎがある場所は普通の魔力で包み込む。

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