表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
0歳児スタートダッシュ物語  作者: 海華
二人の戦い編
133/177

1

水色の私が、次から次へと氷塊を作る。

複雑な形のそれらと同じものを即座に作り出す

それはどんどん複雑な形状になり。


そしてそれらは最早氷像になって行った。

初めは毛並みの再現が難しいカーバンクル。

次に細かい鱗が難解な大きなリェスラ。

さらに羽が一枚一枚、表現することが激困難だったイェスラ(大)


『俺だー!おお、リリもリェスラも上手いなあ』


喜ぶイェスラはクルルと鳴きながら……初めの方に作った氷塊をエルク様に何個もぶつけようと飛ばしていた。

それを木剣で軌道を逸らして捌くエルク様。

さすがに木剣では氷塊を壊せないようだが、勢いを殺して逸らし時には華麗な足さばきで最小限の動きで躱すエルク様…!


なびく髪。真剣な表情。

父様からエルク様の剣技は中々のものと聞いていたけれど見たのは初めてだ。

その事を今、後悔していた。



これは見るべきものだ。これは最高だ!


「もー。リリはエルクばっかり。今は私を見てよ」


完全に鍛錬を忘れて夢中になって魅入っていると、横から抱きつかれた。

拗ねるリェスラに抱きつき返して、額を合わせて見つめあって笑う。


「ごめんね」


「いつもの事だけど、ちょっと寂しいわ」


「うん」


ふふふと笑いあって、頬をすりすりと寄せあって。


するとエルク様の方向から魔法の発動の感覚が来てそちらを見るとエルク様も訓練の手を止めて笑っていた。


「仲良しですね」


「私とリリだもん。当たり前じゃない!」


自信満々に胸をはるリェスラはやっぱり可愛い。

たとえ同じ顔でも、純粋で天真爛漫さが滲み出ているリェスラは私と全然別物に見える。


すると、そんなリェスラの頭の上にイェスラが止まった。


『リェスラ、選手交代しようぜ。リリはもう氷の扱いと造形程度の探知なら余裕だから俺がゴリゴリしごいてやる!』


「ええー。せっかくリリと遊べるのに、仕方ないわねえ。でも私もリリとイェスラの特訓を見たいからエルクはカールに任せてもいい?」


『任せてー!僕も色々できるんだよ!エルク!』


「宜しく頼むね」


嬉しそうにカールが尻尾を振ると、修練場の床一面に大量の土と石が出現した。

ぬかるんだ地面や砂の地面。私の背ほどもある石。

広い修練場が私の周り以外が一気に荒野となった。


『俺を捕まえてみろよエルク!人はこういうとこを走って基礎を鍛えるんだろ!』


「わかりました」


尻尾をフリフリするカールが走り出すと、エルク様も駆け出した。けれど追いつけない。カールは巧みに石や足場の悪い所へエルク様を誘導して減速させるから。


夢中になってみていると、頭をポスッと叩かれた。


「ハイハイ、リリはこっちな」


そちらを見ると、優しげに笑った青年…人型のイェスラが立っていた。


イェスラはニコニコ笑いながら両手を前に出すと、その両手から風と……音が、溢れ出した。


「リリは知ってるかな?空気は、音でもあるんだ。空気は音を響かせて、別の場所に伝える。だから俺からの特訓は、別の場所にある『欲しい音を』持ってきて音楽を作る事だ。ただし、音を閉じ込めることは禁止だ。きちんと空気に流して持ってくるように」


そういうイェスラの手からは、私が家でよく聞く音楽がまるでオルゴールのように単音で聞こえた。

それは人の話し声だったり、水音だったり。

よくよく耳をすませば、色々な音が混ざりあっているのがわかった。



え、ちょ、待って



広範囲で『音』を探して、そこから『音』を持ってきて『音楽を』作れって。



難易度高すぎん…?



視覚の中にエルク様が入るとそちらに気を取られるので目を閉じて集中する。


音は、どこにでもある。

とりあえずエルク様とカールの立てる音を持ってこようとするが、そもそも音なんてどうやって捕まえるんだ。


「リリとトーマがやってる有形魔法だっけか。あれも論理を追求すれば、言葉を乗せた音を具現化しているんだぜ」


「つまり物体にしない状態で『音』をそのまま持ってこいと…?」


「そーそー。もし持ってくるのが辛いなら、音イコール空気の感覚を掴むために自分で風で音を立てても良いぜ」


なんて無茶を。

正しく#うちの精霊が鬼畜です改 案件だ。


持ってくるものの意味がわからないのでとりあえず言われた通りに目を開いて風魔法陣を展開する。

狭い範囲で展開したそれは一見なんの変化もなく、音もしなかった。


なので風の精度を魔物に対して使うレベルの、風陣まであげると『ビュオッ』と風を切る音がした。

風を切る、風の音。

音がしたのは、切られた風の方で。

今度はリェスラの氷像を探知する時に使った解析魔法に向かって風陣を放つ。


すると、切られた空気が周囲に広がっていくのがわかった。

切られた空気が私まで到達をした時にまた『ビュオッ』という音がした。



そこまでしてようやく仕組みがわかってきた。

この空気のゆらぎを、意図して持ってくればいいのだ。


とはいえ。


え。


空気を切り取ったら、広がりが断たれて消える


試しに風陣を打って、周囲の空気を塊で引き寄せても不自然な動きの影響か音は消えた。

数度やって見たが結果は全て、通常よりも早く音の響きが切れた。聞こえる音もとても小さくなった。

これはこれで遮音としての効果で使えそうだが問題はそこではない。


頭をひねって考え込んで。

沢山風陣を放って色々と試したけれど、それら全ては実らずイェスラはニコニコと笑うばかりだった。



こんなんでどうやって音を自分の方に持ってくる……そう考えて、ふと気づいた。


私は今、目の前で風陣で音を出している。

それは当然の事ながら音も聞こえている。


何もしなくても、聞こえるんだ。

何かの効果が良い方向で出ているかなんて、分からないじゃないか。だって普通に聞こえるんだもん。

たとえ効果が出ているとしても、打ってすぐ聞こえる音ではダメだ。



そう思って、修練場の端に移動して必死にカールを追うエルク様を見る。見るからに疲れて汗を拭うエルク様の呼吸は荒そうだ。


そして距離があるからそれは当然ながら聞こえない。


聞こえないものを聞こえるようにすればいいんだよね。



そう思ってエルク様の呼吸音を私の元に届かせるために色々と実験をした。

……この技を習得したらどこにいてもエルク様の声が聞こえるとか、思ってないよ。





先程試したものは、結果的に言うと全てダメだった。

そしてエルク様が立ち止まり呼吸を整えたことで、実験の継続のために対象を変えることになったので今度はエルク様の足音を捉えようとした。



そして気づいた。

呼吸音と足音では、音の響き方が違うことに。

それはそのまま広がり方の違いでもある。



そして音の広がり方は、段々と波が小さくなり結果的に消えるので。

試しに足音の広がりと同じ感じの波紋を作り広がりの1番外側に置いた、が。

音に変化はなく何も聞こえなかった。



けれど、空気の波紋は私が擬似波紋を置いた場所だけ少し遠くまで動いていたので。


結構しんどいんだけど足音の波紋の波をそっくり再現したものをいくつも作り、試してみると。


『ザッザッザザザッ』


訓練で激しく動くエルク様の足音と思わしきものが確かに聞こえて波紋も私の元へ届いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ