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0歳児スタートダッシュ物語  作者: 海華
令嬢の戦い編
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とりあえずお返事の手紙を書いて、明日の朝にトーマに確認してからイェスラに頼んでメルトスに結果報告をして出して貰うか。

そんなことを考えながら文章の草案をまとめていると、肩にイェスラが止まった。


「エルク様に怒られてきた?」


『こっぴどく。リェスラとカールは主犯だからってまだ捕まってるよ』


「それは、それは」


くすくす笑いながら軽くイェスラを撫でて、文面のチェックを入れる。文章に問題がないことを確認して読み上げてそれを有形魔法で物体にする。

出来上がったソレを、魔力操作で形状を小さく薄く整えてちょこっと魔力自体も足して。


一度の再生で使われる魔力が分からないので、魔力の流れを見つつ再生を行う。


『親愛なるダッテバルダ夫人、お手紙ありがとうございます………』


再生される自分の声の子供っぽさに若干ゲンナリとしつつも、有形音声は付与した魔力の半分を使っていた。

このままだともう一回再生されれば消えてしまうだろう。

だから先程の倍の量の魔力を込めて、封筒に入れて封をし、さらに私の印蝋を押す。


これでダッテバルダ夫人への手紙は出来たので同じ作業でショールディン夫人への手紙も作る。


二通の手紙を作り終えて、もしトーマの許可がおりなかった場合に備えて光る手紙も作ろうとした時。

イェスラから「待った」が入った。


『リリ、もうだいぶ夜が遅いけどまだ寝ないのか?』


「うーん。なんとなく眠くなくって」


『そんなわけないだろ。お風呂でだって眠そうだったし疲れてるし』


「うーん。メルトスはまだ寝ない?」


「主人を差し置いて先に休む訳には行きませんから」


「……もしかして、付き合わせてた?」


「この部屋の戸締りは私が担当ですからね」


淡々と仕事をしているから気づかなかった。

申し訳ない気持ちで時計を見ると、夜も遅いレベルをとっくに通りすぎていた。

何となく眠くないけど、迷惑をかけるなら部屋に戻るか。


「付き合わせてごめんね。部屋に戻るよ」


「別に構いませんよ。イェスラが来たのなら、そろそろエルク様がお迎えに来るでしょうからそれまで好きにしていて下さい」


「うーん。来てくれるかなあ?」


「自室に戻っていないのがバレたら確実に来ると思います」


あの天岩戸っぷりは無理だと思うけど。

ああでもエルク様、寂しがり屋さんだから分からないなあ。


『甘いなメルトス。読みは悪くないけど惜しいな』


「………」


パタパタっとイェスラが飛んで、メルトスの机の上に降りてそんなことを言った。

どういう事だろう、と疑問を覚える間に立ち上がったメルトスはそのまま部屋を出てい……ったわけじゃなかった。

扉を開いて、左をじっと見ていた。


え、もしかして。



居るの?


首を傾げると、部屋の中に戻ってきたメルトスに続いてエルク様も申し訳なさそうに入ってきた。


私と目を合わせないで、床を見るエルク様。

可愛らしいと笑ってから机の上の物を片付ける。


「メルトス、明日イェスラに手紙を届けさせるからその内容が承認ならこの二通をダッテバルダ夫人とショールディン夫人に出してくれる?」


「かしこまりました。おやすみなさいませ、お嬢様とエルク様」


「うん。おやすみなさい」


手紙をメルトスに渡して、エルク様の手を取る。

一瞬身を固くしたエルク様を笑いながら見上げると、手はぎこちなく握り直された。




トコトコと手を繋いで歩くと、暗かった廊下がパッパッパと灯りがついていく。

無言で歩くうちになんとなく気まずくなってきた。


最近胸も出てきたし、幼いけど体付きは徐々に良くなってきているんだけどな。見られてそこまで酷い体ではないと思うんだが。


それともあれか、全裸を見て今更ながら私が子供でも女と意識したとか。


ちらっとエルク様を見上げると、エルク様は不自然なほどまっすぐ前を見ていた。前だけを険しい顔で見ていた。

トコトコ見ながら歩いていくと、徐々に首から顔が赤くなっていき……。



え、まさか。

意識してる(こっちが)ビンゴですか…!



となるとあれだなあ。

今までは妹のような存在だったから一緒に寝てくれたけど。

意識しちゃったのなら、寝れないかもなあ。

一般男性の機微くらいは何となくわかる。

普通男性は女性との同衾は余程不能じゃない限り我慢できないはずだ。

しかもお誂え向きに私たちは夫婦。


これは……同衾するとエルク様が可哀想なことになってしまう。


いやぺろっとされてもよそで発散されても構わないんだけどね。

ああでも、欲望に濡れるエルク様見てみたいかも。

きっと、それはそれはとても美しいのだろう………。


そんなことを考えていると、エルク様の部屋の前に着いた。

入れてもらえるのか、私は私室に送られるのか。

扉を開くでもなく部屋の前でじっと固まるエルク様を見上げる。


「………リリアは…」


「はい?」


「私と一緒に寝たいかい?」


こちらを見ないエルク様。どっちの答えが正解なのかは分からない。どっちを望んでいるのか本当に分からないからとりあえず本音で語ることにする。


「…エルク様と一緒に寝ると心臓が止まりそうで苦しいですが……ずっと一緒に寝ていたから、別々になるのは少し寂しいですね」


「……リリアももう12歳だ。異性と一緒に寝るのはどうかと思う」


「そうですね」


「………リリア、一人で寝る場合ちゃんと夜寝るかい?仕事とか夜更かししないかい?きちんと眠れるかい?」


やっとこちらを見てくれたと思ったら、何故か泣きそうな顔で尋ねられる。

これは、一緒に寝たいのが正解だったか……!

本当はもうダメだとわかっているけど、一緒に寝たいから理由を探してるんだ。


ならば、私が理由になろう。

エルク様の望み通り我儘を言おう。



「約束は出来ません。だって私、仕事が大好きなんですもの」


にへらっと笑いながらそういうと、エルク様はあからさまに安心した顔を見せた。もう、可愛いなあ。

そのまま抱きついて胸元にぐりぐりと頭を擦り付けると、優しく抱きしめられた。



「仕方がないねリリアは。一緒に寝ようか」


「はい!」



そして私はエルク様の部屋に入ったのだけれど。

そもそもベッドの上は私たち二人だけじゃない。


『おかえりリリー』


『もう寝ようよー』


カールにリェスラにイェスラも居る。


精霊たちに見られながらいやんあはんなんて、

エルク様は絶対出来ないから。


エルク様の忍耐頑張れ。


そう思いながらもエルク様の望み通りベッドの上で抱きついて目を閉じた。


するとやはり疲れ来ていたのか私の意識はすぐに眠りに落ちたのだけれど。


翌朝予想通りというかエルク様は中々目覚めなかったので、朝食用に馬車で取れる軽食をルチルに頼んで先に身支度を整えてからボイスレターが不採用の場合の発光手紙を作る。


ついでに昨日一日、全く仕事が出来なかったので紅茶を飲みながら軽く仕事をしようと思ったのだけれど……


「まだ寝てていいのにメルトス」


「お嬢様が働くのに私が休む訳には行きませんから。大丈夫ですよ、お嬢様が学園に行ってる間に仮眠は取りますから」


「もう。でもまあ助かるけど、本当に後でゆっくり休んでね」


「はい。とりあえずこちらの予算案と、生産報告と、支出の確認をしていただけると嬉しいです」


「わかった」


そして朝食を取る時間を削ったぶんお仕事を片付けてから、お寝坊さんを迎えに行った。

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