13
「リリア、リリア、ごめんなさい。ごめんなさいね」
私を抱きしめ、悲壮感いっぱいで謝り続ける母様。
「母様だいじょうぶです。これくらいかすり傷です」
「でも乙女の顔に傷がつくなんて」
食器に顔面落下をした私は、ナイフで頬にうっすらとした怪我をした。
数日で跡形もなくなりそうな傷だ。
だからそんなに気にすることは無いのだろうが、母は私が驚くほど悲しんでくれている。
「そんなことよりも、お客様の前でしったいをさらしてごめんなさい」
「そんなものどうでもいいわ!ああリリア。荒療治をしてごめんなさいね」
やはり確信犯か母様、と思うがこの憔悴ぶりを見ると何も文句なんて言えない。
何より私は最高に幸せだったし。
今回の再会で気がついたのだ。
エルク様は前世で私の最もどハマりしたゲームの『オレの嫁』にそっくりだった。『画面の向こうの旦那様に会いたい』タグでつぶやくほどの最萌キャラ。
そのキャラのグッズを買い漁る程度には愛していた。
『貴女はこの程度もできないのですか』
そう冷たく言い放つ黒髪メガネの先生…思い出した今も心が震える。
エルク様再現してくれないかなあとこっそり思う。似合う、絶対似合うよエルク様ハアハア!
ふっと妄想に浸ると母様が真顔で私を見ていた。慌ててシュッと顔を取り繕う。
「リリアあなた、エルク様のこと考えていたのがわかり易すぎるわ…」
「なんのことでしょうか」
あっさりバレていた。解せぬ。
とりあえず今日は仕事はいいから休んでいなさい、とベッドに寝かされる。
いやただのかすり傷で!とも思ったがあまりの心配そうな母様の顔を見るとそんなことも言えず大人しく寝っ転がる。
「リリア!あの糞ガキに傷物にされたってどういうことだ!!」
涙目で私を寝かそうとする母様。
ベッドの上で横になる私(かすり傷付き)
憤怒の表情で飛び込んできた父様。
誤解が悪化の一途をたどる瞬間を見た。
「アイリス…離縁しよう。お前らは巻き込めない後は任せた」
「とうさまぁー!?」
剣を片手に真顔で
部屋から出ようとする父様を、速攻で緑の蔦の魔法陣で拘束して止める。
「離しなさいリリア。大丈夫だお前は綺麗だから」
「ごかいです!きっとごかいです!かあさまもとめてえー!」
そして誤解が解けるまで暴れて殺りに行こうとする父様を止めるのが、すごく大変だった。
「なんだそうだったのか」
「気絶してナイフにつっこんだだけですよぅ」
私のベッドで、父様の膝の上に座ってようやく解けた誤解に安堵する。
ちなみに母様は説明の途中で爺に緊急の話があると言って連れていかれた。
「いやあ陛下が『リリア嬢を傷物にした責任をエルクに取らせて婚約させる』とか言うから父さん誤解しちゃったよ」
「アハハ、父様ごかいですよ」
アハハー
アハハーー
ーーーーーん?待って、傷物は誤解だけど、
こんやくってなに?
は?え、は、
「はああああああ!?こんやくって、こんやくってなんですか!」
「ん?誤解なんだろう?」
「こんやくのはなしははつみみです」
いや確かに、私の魔力や爵位を考えたら婚約者が出来てもおかしくないけど。
王家と縁づいてもおかしくないけども。聞いてない!聞いてないよ!しかも相手が、え、エルク様、とか!
「え、じゃあ陛下が言っていたことは…?」
そこで急に
母様がこの場に居ないことを不安に感じた。
先程まで涙目で私に謝罪をしていた人が。
旦那が来て緊急事態の話し合いをしているのに、誤解も解かずに仕事に行ったままになるだろうか。
「かあさま!?」
父様の膝を飛び降りて、母様の執務室へと走る。
バーンと部屋の扉を開くと、中でニコニコ笑った母様が書類を差し出してきた。
「ふふふ、リリアもこれで将来エルク様のお嫁さんね」
とても御機嫌な母様差し出したものは。
私とエルク様の婚約成立書だった…