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0歳児スタートダッシュ物語  作者: 海華
令嬢の戦い編
129/177

11


エルク様が慌てて浴槽に飛び込んできた原因は、私を癒そうとしたリェスラの仕業でした。

私の最強の癒しのエルク様を呼ぶことで、私を喜ばせようとしたかったみたい。


なお、その意思はリェスラ→カールへと伝えられて、カールに言われて慌ててきたらしい。



「エルク様、気にしてませんから」


「私は気にします!」


風呂をあがり、髪を乾かしてお肌の手入れをして。

いつものようにエルク様の部屋に来たのだけれど、エルク様入れてくれない。


「別に夫婦なんですから良いじゃないですか裸くらい」


「くらいじゃ、ありません。……ありません、よ…」


扉のすぐ向こうで声が聞こえるから、扉1枚隔ててエルク様が居るのかもしれない。

少し粘って、気にしないから入れてくださいと強請ってみたけれどエルク様が入れてくれることはなく。

少し考えて、しょんぼりしたまま執務室へ向かった。






「……高位の夫人のイタズラですね。社交界に出たばかりの令嬢に対するイタズラで、反応を楽しんでるんですよ」


「なるほど」


執務室にはまだジャックとメルトスが仕事をしていた。

時計を見ると良い時間だし、疲れ果てて居たけれど何となく自室に戻る気がしないので手紙について聴きながら席に着く。


「じゃあ、普通に返すよりも相手を驚かせるような返事がいいのかな」


「そうですね。少なくともうちの母はユーモアがある返事を待っていると思います」


ユーモアかあ。とりあえず高位令息のジャックのアドバイスはありがたいので素直に返事を考える。


「ジャック、先程ダッテバルダ夫人からの手紙に風の魔法陣が仕込まれていたんだけどそういうのは良いのね?」


「構いませんが、使用人の検閲が入ると思います。毒入の手紙とか攻撃魔法陣の入った手紙とか来たりしますからね」


「…怖いなあ」


「何他人事なんですか。うちにだってその手の手紙は来てますよ」


「ええ!?」


メルトスの言葉に驚いていると、彼は呆れたように指を二本立ててピースサインをした。けれど彼の普段の態度からピースサインなんてする訳もなく。


「今月はバースデイパーティにデビュタントがありましたからね。既に二通来てますよ毒入りの手紙。なお基本的には魔法に関しては精霊に検閲を頼んでいます。今回の手紙は精霊が害のない風魔法だと言うのでそのままお渡ししました。……公爵夫人からの手紙を勝手に開けるのも如何かと思いましたし」


「……その毒で、検閲したものになにか害はないの」


「盛られている前提で検閲しておりますので問題はありません。また、文字が読めない物に担当させていますので情報漏洩もありませんし危険手当も支給していますよ」


予想以上に慣れている対応のメルトスに小さく息を吐く。

うちで文字が読めないの…孤児院出身の子か外国の子か。メルトスは日に日に部下の数を増やしているからどの子か分からない。


まあ、毒入り手紙に関しては私の落ち度だ。知らなかったでは済まされない。


「検閲をしてるのは誰?」


「知らなくていい情報ですよお嬢様」


「ダメよ、私の代わりに危険な目にあってるのだから」


「お嬢様が何か言ったとしても、危険が少なくなるわけではありません。どうしてもと言われるのならば教えますが、余計な仕事は控えて頂きたいですね」


……メルトスの言ってることもあながち間違ってはいない。

誰がやっているのか把握したいのは、相手が無事かどうか確認したい私のエゴなのか…。

自分で全部開封をして、もし私が倒れたら責任を取るのはメルトスを始め周りの人間だ。非情でも彼の対応も間違っていない。


はあ、と今度はため息が出る。


「薬に強い医師をうちに常駐させようかしら」


「…甘いですね。けれどそうして頂けるのは嬉しいですね。使用人の数も増えてまいりましたし常駐してもらえるのならば定期的に診察させることが出来ます」


「その件に関してはお母様に相談しておくわ。うちお抱えの医師から声をかけていかないと軋轢が生じるからね」


「かしこまりました」


はあ、と溜息をついてとりあえず初めの問題…ユーモアのある手紙について考える。

ユーモアのある手紙。

インパクトのある手紙。

…私にしか出来ないような手紙か、真似すれば誰でも出来る手紙か。


手紙、手紙、手紙。

紙にこだわる必要も無いのよね。


まず一番に思いついたのは、有形の魔法陣を使った『声が出る』手紙だ。検閲を考えて…三回ほど再生可能にしておけば手紙としては十分だろう。

ただ有形の魔法は今は魔石生産ラインでしか使用許可が降りてないので、一般化となると少々厳しいかもしれない。

そもそも音声の有形はトーマが開発した彼独自の魔法陣だ。



次に思いついたのは、光シリーズで光る手紙だ。

部屋を暗くすると文字が浮び上がる…魔法陣を書かれた光る紙に、普通の紙を切り貼りして、さらにその上から切っていない普通の紙を貼る。

三枚層の厚紙になるが、ルクタールの上質な紙を使えば問題ない。

これが一番誰でも真似ができる気軽なものになるだろう。


あとは…魔力を込めると盛り上がってくる文字、とか。

土魔法の魔法陣を一種を文字のように浮き出る仕組みにして、とか。でもこれは土魔法だけあって、あとが汚い。


ビデオレターとかも出来なくはないけど、あの技術はアイザック様に全力で止められてるからなあ。個人で楽しむ以上には使ってくれるな!って。


うーんうーんと考え込んで、結局光る手紙か読み上げの手紙に絞る。

そこで、その二つをジャックとメルトスに見て試してもらおうと……したら、ジャックはもう居なかった。

寝たのかな?


「ねえメルトス、公爵夫人へのお返事ってどっちがいいと思う?」


いつものプリントアウトよりも火力を上げて、焼き抜いた手紙を使った光る透かし手紙と。

単純に読み上げる手紙。


そのふたつの実物を見るとメルトスは胡乱な目で私を見てから溜息を吐いた。


「インパクトは圧倒的に声が出るほうですね。ですがこちらのものは公爵家や王家への手紙としては可能ですが、お嬢様の声が悪用される恐れがありますので多用は控えてください。こちらの光る手紙も素敵ではありますが部屋を暗くしないと見えないのは不便ですね」


「一応音声再生回数を検閲も考慮して三回にしたけど、もっと減らすべきかな?」


「回数はそのままでいいと思います。けれど重ねていいますが公爵家や王家以外はやめてください。お嬢様がいない場所でこれを使われて、居ると錯覚させるようなことがありましたら困ります」


「ああ、うんそこはわかった。じゃあとりあえず今回のお返事に関しては音声の方が圧倒的に良いのね?」


「はい。比べ物にならないほど。ですが音声を記録する技術が存在すると露見することになりますがいいのですか?」


「そこは明日トーマに聞いてみるわ。この魔法陣は彼の作ったものですから」


「そうですか。許可の対価は何をお考えで?」


「魔光石の輸出、とかいいかなと」


確か依頼書は来ていたはずだ。最も魔国からの物だからトーマは無関係かもしれないが、トーマと関わりがあると言う理由で許可を出せばトーマの株も上がるだろう。

魔石の生産も今のところ順調で、うちの領の若い子たちの間では人気の副業だ。一日の終わりに魔力切れるまで魔石を作り寝て、朝には回復をして仕事に行くそうだ。


毎日魔力切れまで魔力を使ってきているからか、若い子たちの魔力量も上昇気味で他の領の者よりも高いらしい。


最早キャロル領は自他ともに認める魔法、魔道具で名うての領になっている。

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